王子妃セスから冒険者レノになった話

氷室 裕

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第10章 真実の幕開編

⑬司の暴走

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 レオナルドさんが、僕を抱き上げて階段を降りていく。レノさんは体調が悪いのだろうか・・体がだるいし息も切れる。気を付けていないと、貧血でふらふらと倒れそうになる。

「私が連れて行こう」
「すみません・・」
「いい、気にするな」

 1階には6人掛けのテーブルや、ゆったりしたソファーが置かれていて、きっとここではこの人達が幸せな時間を過ごしていたに違いない。愛を失った僕にとっては場違いで、無性に不愉快になる。

 テーブルの横の吐き出し窓からは、外が見える。外は陽が落ちて、川向こうの森が薄暗く不気味に見えた。

 外の様子は一見すると地球にもありそうな光景だけど、やはりここにいる人達を見れば異世界なんだと思い知らされる。

 例えば、今、入り口から入ってきた男性が、いきなり幼い子供の姿に変えて、僕に抱き着いて来たり、妖精がレオナルドさんの周り飛んでいたり・・

「大丈夫か?」
「幸せ・・そうですね。羨ましい・・」
「とにかく座ろう。腹は減っていないか?レノは味噌汁が好きなんだ。ツカサも食べてみないか?」

 ヒューベルトさんが僕の前のテーブルに、味噌汁を置いた。こんな異世界に和食・・
 あれかな・・転生者や転移者が作り出したとか、ありがちなアニメみたいな?柊さんだろうか?異世界転生者だと言っていたし。

 柊さんは、体は自分のモノなんだろうか・・見た目は日本人だから、僕のように誰かの器にいる訳じゃないのか。

 レインに会いたいだけなのに、どうしてこんな姿で異世界転移なんか!
 
 僕は、確か・・レインが消えた場所に飛び込んで・・僕の肉体は死んだのだろうか・・せめてここが死後の世界なら良かったのに・・

「・・はぁ・・」

 レオナルドさんが僕を下ろして手を離すと、僕は椅子に座ろうとしてふらりとよろめく。本当に具合の悪い体だな。

「体調が悪いか?」
「・・レノさんは病気なんですか?」
「なぜそう思うんだ?」
「あまり、食べれそうにないですし、怠さがだいぶ辛いし、貧血も酷い。心因性か機能性か・・食欲不振が続けば自律神経まで乱れてくる。こんな体では歩くのも大変かと・・まぁ、僕には何の関係もないしどうでもいいけど」

 食欲もないし、眠い。まぁ、本当にどうでもいい・・レインに会うことも出来ない・・死ぬことすら出来なかった。

 なんなんだよ・・異世界転移って!苦しみから解放されたい・・あの時、死ねていたならこんなにも苦しまなくて済んだのに!

「あんた、最低だな。勝手にレノの体を乗っ取っておいて、そんな言い方はないんじゃないのか?」
「僕だって迷惑してるんですよ!!柊さんは、異世界転生者でしたよね?死んだ後もこんな所で生かされて、きっとアニメやゲームみたいにいきなりの展開だったんでしょ?身ぐるみ剥がされて、スマホも財布もない。この世界で一旦死にかけたありがちパターンなんじゃないですか?家族は?女は?不満はないんですか?え?なんかチートありな感じ?まさか神子扱い?黒髪黒眼だし?それとも勇者として召喚とか?柊さん、学生ですか?どう見ても社会人には見えませんが、気楽なものですよね、こんな─────」
「八つ当たりかよ!?レインが誰だか知らないけど、探しもしないで、人に当た───」
「うるさい!!だまれ!!僕はも・・う・・」

 あぁ、貧血か・・いきなり大きい声を出したから。座っているのにふらつくとか、やわ過ぎ。

「はぁはぁ・・レインは・・もう、いない・・本当は、分かってる・・どうでもいいけど、もう放っておいて・・お前らうざい」
「はっ!?本当、可愛げないな!器が同じでも、中身がお前なら纏う雰囲気も表情すらまったく魅力ねぇわ!」
「うわぁぁぁっ!!!だまれ!僕に構うな!はぁはぁ・・」

 眠い・・疲れた・・死にたい・・
 僕はふらりと立ち上がって、森を見る。暗闇に光る目・・森には魔物がいるのか・・あそこに行けば死ねるだろうか・・

「ツカサ、お前もきっと不安だろう?知らない世界に来たんだから当然だ。だから俺たちにお前を守らせてくれないか?」
「・・守る?そんな必要ありません・・ヒューベルトさん、どうか・・僕をひとりにして下さい・・」

 僕を守る?僕は死んでもいいと思っているのに。
 このヒューベルトって人、こんなに愛おしそうな顔をして!この人にも!あの人にも!大勢に愛されて!なんかむしゃくしゃする!何なんだ?この女!

 例え、レノさんの体を傷付けたとしても・・レインのいない世界でなんて、生きていたくない。

 この人たちからレノさんを奪って・・それで、僕と同じ悲しみを味わえばいい。
 本当に、どうだっていい。










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