流れ星と暮らすワンルーム

尾松傘

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伝えなかったこと

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 日付が変わったのを確認して、布団を抜け出した。物音を立てないように部屋の明かりをつけないまま、ひたりひたりとステラの布団に寄った。

「起きてるか?」

 ステラの返事はなく、気持ちよさそうに寝息を立てている。これだけぐっすりと深い眠りについているなら、電話の声で起こすこともないだろうが、念のためトイレの中で電話をかけた。すると、1コールで返事があった。

「どうしたんだよ? 話があるって」

 陽太にはステラが寝た後で話したいとメッセージを送っていた。

「今日、天王寺桐也と会った」
「はあ!?」

 陽太の大きな声に、思わずスマートフォンを耳から遠ざけた。

「どういうことだよ!?」
「それを今から説明する」

 陽太に今日の出来事を話した。天王寺が何かしらの手段でステラの居場所を把握しており、俺の個人情報まで掴んでいること。ステラを使って全人類をどうにかする壮大な計画を企んでいるらしいこと。それにもかかわらず、ステラを無理やり連れて行かずに自ら戻ってくるのを待つと言って去ったこと。話を聞き終えた陽太は一言「信用ならねえ」と言った。それには同感だった。

「俺もあいつの言葉を信じてるわけじゃない。でも、ステラを取り戻したいなら、わざわざ接触した理由がわからない。これまで誘拐する機会がなかったとしても、ずっと姿を隠していれば、そのうち隙ができるはずだ。実際、最近油断してた。ステラに一人で留守番させても大丈夫なんじゃないかと考え始めてたとこだ。だから反省した」
「わかるわ。俺も甘く考えてた。天王寺も諦めてんじゃねって舐めてた」
「それで、なんであいつはわざわざ俺とステラの前に姿を現したんだと思う?」
「んなこと、わかんねえよ。大企業の社長様の考えが俺にわかるわけねえだろ」
「俺も正解が出ると期待して訊いてないよ」
「おい、訊いといてそれはないだろ」

 何も解決していないものの陽太と話せて、少し気が楽になった。持つべきものは友とは良く言ったものだ。

「まあ、わかんねえけど……無理やりステラちゃんを連れ戻すのじゃ駄目な理由があったんじゃねえか?」
「どういうこと?」
「例えば、ステラちゃんの意思で何かをさせる必要があるとか。あとは、無理やり連れ戻したらまた逃げようと考えるリスクが高くなるから、強引な手は避けたとか」
「それは、あるかもな。でも、ステラは天王寺桐也のことを相当嫌ってる。それはあいつ自身もわかってるはずだ。それなのに、ステラが自分の元に自らの意思で戻り、計画に協力するだろうと普通考えるか?」
「まあ、ちょっと説得したくらいで戻るわけがないものな。でも、例のリサって人がステラちゃんにとってどれだけ大事な存在かで話も変わってくるんじゃないか」
「それは、そうだが……」

 ステラにとってリサが何より大切な存在であることは疑いようがない。天王寺に揺さぶりを駆けられたステラの動揺っぷりを見てもそれは明らかだ。だが、その大切な人が与えてくれた自由の有難さをステラが感じているのもまた事実だ。ステラだって天王寺に会うまでもなくリサの無事を案じていただろう。逃げてからこれまでの間に天王寺のもとへ戻ることだってできたはずだ。ステラがそうしなかったのは、戻ればリサの思いを無下にするとわかっているからだ。

「やっぱりステラがあいつの元へ戻ることはない。そこは断言していいと思う」
「じゃあ、いいんだけどさ……ステラちゃんとはちゃんと話したのか?」
「ああ、話したよ。俺が危ないんじゃないかと心配されたけど、だからと言ってあいつのところへ戻るという考えにはなってない」
「心配っていったら俺だって同じだよ。これからどうすんだよ?」
「これからって?」
「名前がバレてんだから、住所もバレてんだろ? そこにいて大丈夫なのかよ」
「できる限りの対策はする。でも、話は戻るけど、家に押し入って誘拐しにくる可能性は低いと思う」
「でも絶対ってことないだろ? だったら、俺の家でステラちゃん預かるか?」
「え?」

 思いがけない提案だった。

「お前の身元が割れてんなら、俺もって可能性は高いし、ステラちゃんの体内にGPSでも入ってんなら、どこいてもバレる可能性はある。でも、確実に身バレしてるお前のとこよりは安全じゃなえか。俺の家なら、姉ちゃん在宅勤務だし、お袋も専業主婦だからステラちゃんが一人で留守番ってことにはならないと思う」
「でも……お前の家族に負担かけるだろ」
「それもそうだけど、実はお袋も心配してんだよ、お前のこと。実家からの仕送りもない一人暮らしなのに急に親戚を預かることになって大丈夫かって」
「お前、話したのか?」
「お前が俺の姉のおさがりの服くれって言ったんだろ。説明もしないわけにはいかねえだろ。だいたい、そんときは俺だって従姉妹を急に預かることになったて話を聞かされててステラちゃんのこと知らなかったし。デリケートな話だから近所に広めるなってフォローは後でしといたよ」

 陽太が口留めしたのであれば大丈夫だと思うが、噂とは広がり易いものだ。最初に陽太に連絡したときに、周りに伝えないように言っておくべきだった。

「まあ、それはいいや。でも、お前の家族にステラが宇宙人だってバレるリスクは無視できない。ステラだって一般常識が身についてるとは言い難いから、流石に不審に思われるだろう。お前の家族を悪く思ってるわけじゃないけど、ステラが宇宙人だってわかれば、どんな行動にでるのか予想がつかない。お前が物分かり良すぎただけど、普通はもっとパニックになるようなことだ」
「俺の優秀さに感謝しろよ」
「……まあそんなわけでその案は却下だ」
「わかった。俺もとりあえず言ってみただけだよ。そもそも肝心なステラちゃんの意思も確かめてねえしな。まあ無理すんなよ。俺もステラちゃん守るためならなんでも協力するから」
「ありがとう。それじゃあ、もう遅いし、今日はこれで」

 通話を切って夜の静けさが戻った。
 陽太が代わりにステラを預かると言ったとき、俺はそれを否定したいという気持ちが先にあって、その理由を後から考えていた。ステラを拾ったのは自分だからというちっぽけなプライドか、それとも別の気持ちがあってか、とにかく陽太の元へは渡したくなかった。
 それから、俺は陽太に全ては話さなかった。ステラの今の姿が元々のものではないということをあえて話さなかったし、ステラの過去だって半分も話していない。ステラが知られてくないような秘密を俺の口から他人に伝えるのは違う気がした。それ以前に漠然と話したくなかった。
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