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託された想い
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天王寺が僅かに眉間に皺を寄せた。
「私が嘘? この状況で私がどんな嘘をつく必要があるというのかね?」
「ステラちゃんはまだ消えていない。ステラちゃんの細胞は純度が高いといったわね。だったら、計画を進めるためにステラちゃんの力を使わない手はないはずよ。それなのに、そうやって水槽の中に入れて隔離しているのは何故? ステラちゃんに反抗されるのがまだ怖いんじゃないの?」
金森さんが言い終わると、天王寺は盛大に笑い飛ばした。
「いや、申し訳ない。自信に満ちた顔をしているから話を聞いてみたが、内容は確度の低い推測なものだから、つい笑ってしまった。確かに私はあれの細胞を取り込んではいないが、それは研究のために私の遺伝子が関与していない細胞を手元に残しておきたかったというだけの理由だ」
「あら、この期に及んでまだ研究なんてしてるの?」
「常に探究を続ける者だけが、偉業を成せるのだよ」
「探究なんて言葉を使うのは、全てを理解しているわけではないと告白したようなものね。だったらステラちゃんの意識がまだ残っている可能性は否定できないはずよ」
「仮にあれの残滓が存在したとして、どうやって目覚めさせるというのかね? 君たちにできることはないよ」
あの銀色の塊の中にステラの意識が残っている。その可能性があるとわかり、闇に包まれた心にわずかな光が差した。しかし、それは希望と呼ぶにはあまりに頼りない細い光だ。ステラを目覚めさせる方法もわからず、手足を拘束され、敵に囲まれたこの状況で何ができるだろう。
「起きるんだ! ステラちゃん!」
陽太が叫んだ。水槽の中のステラは何の反応も示さない。水槽の分厚い壁と中を満たす液体に阻まれて、陽太の口から出た音が届いているかも怪しい。それでも、陽太はステラの名を叫び続けた。
「ステラ!」
必死に呼びかける陽太の姿に背中を押され、俺も同じになって叫んだ。そうだ、どれだけ可能性が低くても、諦めるわけにはいかない。天王寺の分身に体を床に押し伏せられたが、俺たちはステラに向かって叫び続けた。
「やれやれ、五月蠅い男たちから黙らせたいところだが、先に決めた通りに君からやろう」
天王寺が金森さんの頭を掴んだ。
「ステラちゃんをお願――」
金森さんが言い切る前に声が絶叫に変わった。電気ショックを浴びるように金森さんの全身がビクビクと動く。
「やめろ!」
「てめぇ、この野郎!」
俺たちが天王寺に罵詈雑言を浴びせたのと、天王寺が金森さんの頭を話すのはほぼ同時だった。天王寺の分身が金森さんの拘束を解くと、金森さんはすっと立ち上がり、顔をこちらに向けた。他の天王寺の分身と同じ邪悪な笑顔が俺たちを見下ろした。
「先輩に何しやがる!」
「安心しろ。すぐに君も同じになる」
天王寺が俺の前を通り過ぎ、俺の左にいる陽太の方へ行った。
「俺はてめぇみたいな糞野郎には負けねぇよ」
「誰でも同じだ。この力に抗える人間などいない」
「でも、てめぇができたことを俺ができねぇ道理はねぇ。逆に俺が乗っ取ってやんよ」
「そうか、では頑張れ少年」
天王寺が陽太の頭を掴み、陽太が苦しそうな叫び声を上げた。
「陽太!」
「俺、は……い、い! お前は、ステラ……ちゃん、を――」
「ほう、まだ喋れるか。口だけではないとは、驚いたよ」
「れ、蓮……頼む……!」
陽太の目が必死に訴えかけた。俺はその想いを無駄にしないため、苦しむ友から目を逸らし、ステラに向かって叫んだ。
「ステラ! 起きろ! いつまで寝てんだ、この!」
隣からは陽太が苦悶する声が聞こえ続けている。
「俺が悪かった! 全部、全部、俺が悪かった! 何度だって謝る! どこでも行きたいところ連れてくよ! 食べたいものなんでも作るよ! だから、だから起きてくれ!」
陽太の声が段々と弱々しくなっていき、ついには声が止んだ。
「頼む……お願いだから、起きてくれよ……また会いたいんだ……ステラ……ステラ!」
叫び続けた喉も、流し続けた涙も、とうとう枯れ果てた。水槽の中の銀色の肉体は、何も反応を示さず、無情に同じリズムで揺れ動いている。
俺を押し伏せる手がどき、左右から肩を持ち上げる形で正座に戻された。俺の肩を持ち上げたのは、金森さんと陽太だった。二人とも不気味な笑顔をこちらに向けている。
「さて、メインディッシュといこう。私が事業の協力者である君に最大限の感謝と敬意を込めて、その精神を跡形もなく破壊することを、ここに誓おう」
天王寺の掌が俺の額へと伸びた。
結局、俺は何も成せなかった。情けない。これでは俺を信じて先に敗れた二人に顔向けできない。もっとも、もう二度と会うことは叶わないのだが。
天王寺の手が触れた瞬間、全身に電撃が走った。
「私が嘘? この状況で私がどんな嘘をつく必要があるというのかね?」
「ステラちゃんはまだ消えていない。ステラちゃんの細胞は純度が高いといったわね。だったら、計画を進めるためにステラちゃんの力を使わない手はないはずよ。それなのに、そうやって水槽の中に入れて隔離しているのは何故? ステラちゃんに反抗されるのがまだ怖いんじゃないの?」
金森さんが言い終わると、天王寺は盛大に笑い飛ばした。
「いや、申し訳ない。自信に満ちた顔をしているから話を聞いてみたが、内容は確度の低い推測なものだから、つい笑ってしまった。確かに私はあれの細胞を取り込んではいないが、それは研究のために私の遺伝子が関与していない細胞を手元に残しておきたかったというだけの理由だ」
「あら、この期に及んでまだ研究なんてしてるの?」
「常に探究を続ける者だけが、偉業を成せるのだよ」
「探究なんて言葉を使うのは、全てを理解しているわけではないと告白したようなものね。だったらステラちゃんの意識がまだ残っている可能性は否定できないはずよ」
「仮にあれの残滓が存在したとして、どうやって目覚めさせるというのかね? 君たちにできることはないよ」
あの銀色の塊の中にステラの意識が残っている。その可能性があるとわかり、闇に包まれた心にわずかな光が差した。しかし、それは希望と呼ぶにはあまりに頼りない細い光だ。ステラを目覚めさせる方法もわからず、手足を拘束され、敵に囲まれたこの状況で何ができるだろう。
「起きるんだ! ステラちゃん!」
陽太が叫んだ。水槽の中のステラは何の反応も示さない。水槽の分厚い壁と中を満たす液体に阻まれて、陽太の口から出た音が届いているかも怪しい。それでも、陽太はステラの名を叫び続けた。
「ステラ!」
必死に呼びかける陽太の姿に背中を押され、俺も同じになって叫んだ。そうだ、どれだけ可能性が低くても、諦めるわけにはいかない。天王寺の分身に体を床に押し伏せられたが、俺たちはステラに向かって叫び続けた。
「やれやれ、五月蠅い男たちから黙らせたいところだが、先に決めた通りに君からやろう」
天王寺が金森さんの頭を掴んだ。
「ステラちゃんをお願――」
金森さんが言い切る前に声が絶叫に変わった。電気ショックを浴びるように金森さんの全身がビクビクと動く。
「やめろ!」
「てめぇ、この野郎!」
俺たちが天王寺に罵詈雑言を浴びせたのと、天王寺が金森さんの頭を話すのはほぼ同時だった。天王寺の分身が金森さんの拘束を解くと、金森さんはすっと立ち上がり、顔をこちらに向けた。他の天王寺の分身と同じ邪悪な笑顔が俺たちを見下ろした。
「先輩に何しやがる!」
「安心しろ。すぐに君も同じになる」
天王寺が俺の前を通り過ぎ、俺の左にいる陽太の方へ行った。
「俺はてめぇみたいな糞野郎には負けねぇよ」
「誰でも同じだ。この力に抗える人間などいない」
「でも、てめぇができたことを俺ができねぇ道理はねぇ。逆に俺が乗っ取ってやんよ」
「そうか、では頑張れ少年」
天王寺が陽太の頭を掴み、陽太が苦しそうな叫び声を上げた。
「陽太!」
「俺、は……い、い! お前は、ステラ……ちゃん、を――」
「ほう、まだ喋れるか。口だけではないとは、驚いたよ」
「れ、蓮……頼む……!」
陽太の目が必死に訴えかけた。俺はその想いを無駄にしないため、苦しむ友から目を逸らし、ステラに向かって叫んだ。
「ステラ! 起きろ! いつまで寝てんだ、この!」
隣からは陽太が苦悶する声が聞こえ続けている。
「俺が悪かった! 全部、全部、俺が悪かった! 何度だって謝る! どこでも行きたいところ連れてくよ! 食べたいものなんでも作るよ! だから、だから起きてくれ!」
陽太の声が段々と弱々しくなっていき、ついには声が止んだ。
「頼む……お願いだから、起きてくれよ……また会いたいんだ……ステラ……ステラ!」
叫び続けた喉も、流し続けた涙も、とうとう枯れ果てた。水槽の中の銀色の肉体は、何も反応を示さず、無情に同じリズムで揺れ動いている。
俺を押し伏せる手がどき、左右から肩を持ち上げる形で正座に戻された。俺の肩を持ち上げたのは、金森さんと陽太だった。二人とも不気味な笑顔をこちらに向けている。
「さて、メインディッシュといこう。私が事業の協力者である君に最大限の感謝と敬意を込めて、その精神を跡形もなく破壊することを、ここに誓おう」
天王寺の掌が俺の額へと伸びた。
結局、俺は何も成せなかった。情けない。これでは俺を信じて先に敗れた二人に顔向けできない。もっとも、もう二度と会うことは叶わないのだが。
天王寺の手が触れた瞬間、全身に電撃が走った。
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