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ぼくらはみんな星
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あの夏から一年が過ぎた。
俺たちはE.T.研の夏合宿としてUFOの目撃証言の多いとある山中のキャンプ場に来ている。視界に広がるのは満点の星空。今日はペルセウス座流星群が観測できるということで、高原に広げたブルーシートの上に寝転んでいるところだ。
呼吸をすると湿気を含んだ夜の空気に混じって草の香りが肺いっぱいに広がり、懐かしさを覚える。父さんと天体観測に来たときもこんな穏やかな夜だった。
「どうして笑ってるんだ?」
隣で寝転ぶステラが尋ねた。
「俺、笑ってた?」
「ああ、なんだか嬉しそうに」
父さんのことを思い出して笑える日が来るなんて、前の俺ではとても信じられないことだ。父さんが浮気したせいで母さんの精神は不安定になり、俺は鬱屈とした日々を過ごした。俺も他のクラスメイトと同じように下世話な話で盛り上がったり、親とか先生とか社会とかにちょっとした反抗をしたり、そんな普通の思春期を過ごせたらどんなに良かっただろうと思っていた。全てを壊した父さんを恨んですらいた。
それでも、俺は父さんが好きだったと、今なら言える。父さんと過ごした最後の夏、あの日見上げた星空は今でも忘れられない。父さんを嫌いな気持ちも、好きな気持ちも、どちらも本物なんだ。たったそれだけのことをわかるまでに、随分と時間をかけた。
「ちょっと昔のことを思い出していたんだ。父さんとこんな風に星を見たことがあって」
「お父さん、か……」
ステラには梨沙さんから聞いた話を全て話した。桐也の原点は梨沙さんを傷つけた一族への怒りだと知り、ステラは何を思ったのか。何も言わないステラに、俺も強いて尋ねることはしなかった。おそらく、ステラの中でも整理がついていないのだろう。
でも、向き合おうとしていることは確かだ。俺が自分の父親への気持ちを整理するのに時間をかけたように、ステラも時間をかけて自分の複雑な感情を飲み込もうと頑張っているのだ。今もこの世界のどこかを羽ばたいている2羽の白い鳥に想いを馳せて。
「きっと二人もこの夜空を見上げているよ」
「うん……!」
頷いたステラの顔はどこか嬉しそうに見えた。
「それにしても、星って綺麗だな。星という名前がもったいないくらいだ」
ステラの方が綺麗だと、言おうとした言葉を飲み込んだ。流石に素面で言うには臭すぎる。
「なあ、この星のどこかまで人は行けるようになると思うか?」
「いつかは行けるかもしれないけど、少なくとも俺たちが生きている間は難しいだろうな」
「なんだ夢がないな」
「だって、光の速度で進んでも数千年かかるくらいに離れているんだぞ。ワープとかコールドスリープみたいな技術が発明されないと無理だろう」
「え、そんな遠いのか!」
「そうだ。ついでに言うと、ここからだと隣り合っているように見える星の間にも、本当は途方もない距離があるんだ」
「へえ……」
しばらくの沈黙、夜風が頬を撫でた後、ステラが呟いた。
「じゃあ、きっと星は寂しいだろうな」
「寂しい?」
「広くて冷たい無重力の海にプカプカ浮かんで、星はきっと孤独だ」
「正確には無重力っていうのは少し違うな」
「え? 宇宙は無重力だから浮かぶんじゃないのか?」
「無重力なんてものは本当はないんだ。小さな星も大きな星も、あらゆる物体、人間だって引力を持っていて、みんな引っ張り合ってる。だから、孤独なように見えてもみんな引力で繋がってるんだよ」
「じゃあ星も人も、みんな寂しがりやだ」
「そうだな。中でもステラはとびっきりだ。だって、ずっと遠く宇宙の彼方からこの星に来たんだから」
ふいにシャツの裾を引っ張られ、見ると、ステラが悪戯っぽく笑っていた。
「でも、もう寂しくないぞ」
「まったくお前には敵わないな」
二人してくすくすと笑っていると、突然、ステラが空に向かって指を差した。
「あ!」
「どうした?」
「流れ星! 見てなかったのか!?」
「え、気づかなかった」
「願い事がかかってるんだぞ、蓮も真剣に探さないと駄目だ! ほら目を開いて――」
そう言った途端、再び光の筋が夜空を横切った。
ステラが跳ね起きる。
「やった! お願いできたぞ! 蓮もお願いしたか?」
「まあ、一応。なんとなくそれっぽいことは念じたけど……」
「はっきりしないな、なんて願ったんだ?」
「え、それは……秘密だ」
「それはずるだぞ!」
「じゃあ、そういうステラは何を願ったんだよ」
「わたしはな……」
月明かりがほんのり紅潮したステラの頬を照らした。
彼女はお得意の悪戯っぽい笑顔に、少しばかりの恥じらいを隠しながら言った。
「蓮とずっと一緒にいられますように」
時が止まった。
それは奇しくも俺がしたものと同じ願いだった。
心臓の鼓動がやたらうるさい。永遠に思えるような気まずい沈黙を打ち破ろうと、ありったけの勇気を振り絞り、緊張で閉まった喉を動かした。
「叶えよう、一緒に」
ステラの顔が見たことないくらい赤くなり、驚きと喜びの混ざった表情で目を潤ませた。
俺はというと頭が沸騰しそうなほど熱くなり、もはや自分がどんな顔をしているのかもわからない。
「キター!」
後ろで大声が上がり、思わず馬鹿みたいな悲鳴を上げながら振り返った。
声を上げたのは地球外生命体との交信と称して丘の上で怪しい舞をしていた金森さんだ。
「いやあれ絶対ただの流れ星ですって」
「素人は黙っとれ! あの軌道は間違いなく自然現象じゃないわ」
興奮する金森さんに呆れる陽太。
俺はステラと顔を見合わせて笑い合った。
「おーい! ホシミンとステラちゃんもこっち来てー! 全員分の脳波で信号送るから!」
金森さんが手を振った。
「仕方ない、部長命令だ」
重い腰を上げ、ステラに手を差し出した。
「行こう」
「ああ!」
ぼくらは手を繋ぎ、夜露で濡れた青い芝生を共に駆けていった。
俺たちはE.T.研の夏合宿としてUFOの目撃証言の多いとある山中のキャンプ場に来ている。視界に広がるのは満点の星空。今日はペルセウス座流星群が観測できるということで、高原に広げたブルーシートの上に寝転んでいるところだ。
呼吸をすると湿気を含んだ夜の空気に混じって草の香りが肺いっぱいに広がり、懐かしさを覚える。父さんと天体観測に来たときもこんな穏やかな夜だった。
「どうして笑ってるんだ?」
隣で寝転ぶステラが尋ねた。
「俺、笑ってた?」
「ああ、なんだか嬉しそうに」
父さんのことを思い出して笑える日が来るなんて、前の俺ではとても信じられないことだ。父さんが浮気したせいで母さんの精神は不安定になり、俺は鬱屈とした日々を過ごした。俺も他のクラスメイトと同じように下世話な話で盛り上がったり、親とか先生とか社会とかにちょっとした反抗をしたり、そんな普通の思春期を過ごせたらどんなに良かっただろうと思っていた。全てを壊した父さんを恨んですらいた。
それでも、俺は父さんが好きだったと、今なら言える。父さんと過ごした最後の夏、あの日見上げた星空は今でも忘れられない。父さんを嫌いな気持ちも、好きな気持ちも、どちらも本物なんだ。たったそれだけのことをわかるまでに、随分と時間をかけた。
「ちょっと昔のことを思い出していたんだ。父さんとこんな風に星を見たことがあって」
「お父さん、か……」
ステラには梨沙さんから聞いた話を全て話した。桐也の原点は梨沙さんを傷つけた一族への怒りだと知り、ステラは何を思ったのか。何も言わないステラに、俺も強いて尋ねることはしなかった。おそらく、ステラの中でも整理がついていないのだろう。
でも、向き合おうとしていることは確かだ。俺が自分の父親への気持ちを整理するのに時間をかけたように、ステラも時間をかけて自分の複雑な感情を飲み込もうと頑張っているのだ。今もこの世界のどこかを羽ばたいている2羽の白い鳥に想いを馳せて。
「きっと二人もこの夜空を見上げているよ」
「うん……!」
頷いたステラの顔はどこか嬉しそうに見えた。
「それにしても、星って綺麗だな。星という名前がもったいないくらいだ」
ステラの方が綺麗だと、言おうとした言葉を飲み込んだ。流石に素面で言うには臭すぎる。
「なあ、この星のどこかまで人は行けるようになると思うか?」
「いつかは行けるかもしれないけど、少なくとも俺たちが生きている間は難しいだろうな」
「なんだ夢がないな」
「だって、光の速度で進んでも数千年かかるくらいに離れているんだぞ。ワープとかコールドスリープみたいな技術が発明されないと無理だろう」
「え、そんな遠いのか!」
「そうだ。ついでに言うと、ここからだと隣り合っているように見える星の間にも、本当は途方もない距離があるんだ」
「へえ……」
しばらくの沈黙、夜風が頬を撫でた後、ステラが呟いた。
「じゃあ、きっと星は寂しいだろうな」
「寂しい?」
「広くて冷たい無重力の海にプカプカ浮かんで、星はきっと孤独だ」
「正確には無重力っていうのは少し違うな」
「え? 宇宙は無重力だから浮かぶんじゃないのか?」
「無重力なんてものは本当はないんだ。小さな星も大きな星も、あらゆる物体、人間だって引力を持っていて、みんな引っ張り合ってる。だから、孤独なように見えてもみんな引力で繋がってるんだよ」
「じゃあ星も人も、みんな寂しがりやだ」
「そうだな。中でもステラはとびっきりだ。だって、ずっと遠く宇宙の彼方からこの星に来たんだから」
ふいにシャツの裾を引っ張られ、見ると、ステラが悪戯っぽく笑っていた。
「でも、もう寂しくないぞ」
「まったくお前には敵わないな」
二人してくすくすと笑っていると、突然、ステラが空に向かって指を差した。
「あ!」
「どうした?」
「流れ星! 見てなかったのか!?」
「え、気づかなかった」
「願い事がかかってるんだぞ、蓮も真剣に探さないと駄目だ! ほら目を開いて――」
そう言った途端、再び光の筋が夜空を横切った。
ステラが跳ね起きる。
「やった! お願いできたぞ! 蓮もお願いしたか?」
「まあ、一応。なんとなくそれっぽいことは念じたけど……」
「はっきりしないな、なんて願ったんだ?」
「え、それは……秘密だ」
「それはずるだぞ!」
「じゃあ、そういうステラは何を願ったんだよ」
「わたしはな……」
月明かりがほんのり紅潮したステラの頬を照らした。
彼女はお得意の悪戯っぽい笑顔に、少しばかりの恥じらいを隠しながら言った。
「蓮とずっと一緒にいられますように」
時が止まった。
それは奇しくも俺がしたものと同じ願いだった。
心臓の鼓動がやたらうるさい。永遠に思えるような気まずい沈黙を打ち破ろうと、ありったけの勇気を振り絞り、緊張で閉まった喉を動かした。
「叶えよう、一緒に」
ステラの顔が見たことないくらい赤くなり、驚きと喜びの混ざった表情で目を潤ませた。
俺はというと頭が沸騰しそうなほど熱くなり、もはや自分がどんな顔をしているのかもわからない。
「キター!」
後ろで大声が上がり、思わず馬鹿みたいな悲鳴を上げながら振り返った。
声を上げたのは地球外生命体との交信と称して丘の上で怪しい舞をしていた金森さんだ。
「いやあれ絶対ただの流れ星ですって」
「素人は黙っとれ! あの軌道は間違いなく自然現象じゃないわ」
興奮する金森さんに呆れる陽太。
俺はステラと顔を見合わせて笑い合った。
「おーい! ホシミンとステラちゃんもこっち来てー! 全員分の脳波で信号送るから!」
金森さんが手を振った。
「仕方ない、部長命令だ」
重い腰を上げ、ステラに手を差し出した。
「行こう」
「ああ!」
ぼくらは手を繋ぎ、夜露で濡れた青い芝生を共に駆けていった。
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