約束~幼き遠い日の誓い

あかし瑞穂

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そして、魔王は回想する

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 ――なんという恐ろしい子どもだろう。魔王の再来だ――
 生まれたばかりの私を見た筆頭魔術師は、そう両親に告げた。その声をはっきりと覚えている。

 私の記憶は、生まれて間もなくの頃から鮮明だった。その原因は、私が母の腹の中に生を受けた頃まで遡る。
 ――ノルシュタイン王家の王は、神との混血。その膨大な魔力で、城の地下に封じられた魔王の封印を守っている。
 その話は半分は真実で半分はまやかしだ。魔王が封じられているのは、ノルシュタインの血を引く王の魂の中だ。だからこそ、ノルシュタインには魔力を高め、制御するための知識が千年もの前から蓄えられており、その知識は王となるものが受け継ぐことになっていた。
 私の父、バルト王は、残念ながら魔力保有量が多くはなかった。その身に魔王を封印する事は出来ず――結局魔王を封じている前王祖父が身罷る日までに子を成し、その子に魔王を封印する羽目になってしまった。王妃である母は、身体が弱った祖父の願いに泣く泣く承諾したらしい。
 そうして、最初に出来た子ども――すなわち私に、祖父から「魔王の魂」と「それを制御するノルシュタインの知識」が同時に移植されることになった。だが、ここで誤算が生じた。私の身体は魔王の魔力と相性が良すぎたのだ。母の腹の中、私の身体は魔王の魔力を封印するのではなく、その魔力を全て吸収し、我が物としてしまったらしい。それに気が付いた魔術師が、先の言葉を呟いた魔術師と同一人物で、それが当時の筆頭魔術師――後に私の側近となるリヒト=ヴァーデランド伯爵の父親――であったと知ったのは、私が一歳になった頃だった。

 身体は子どもだが、知識は誰よりも多く保有し、魔王の魔力を持った私は、子どもらしくない子どもだった。身体の動かし方は習うしかなかったが、他の知識は全て身についていたからだ。家庭教師は良く出来る生徒だと褒めてくれたが、私からすれば簡単すぎる課題に毎日辟易していた――と言うのが正しいだろう。魔法の使い方は身体に慣らさなければならなかったため、必死に学んだが、子どもの身体ではすぐに限界が来てしまう。上手く出来ないもどかしさに、周囲に八つ当たりしてしまう事もあった。
 何より一番嫌だったのは、周囲の皆の、私に対する態度だった。腫物を触るような、一歩引いた扱い。私を刺激させて、魔力が暴走すれば魔王の力が復活する。それを恐れての事だと分かってはいても、うわべだけの愛想や心配が増々私を苛々とさせた。実の父母にさえ、どこか遠慮がちな態度をとられた事に、私は深く傷ついていた。魔力と知識だけでは、この『感情』という名の化け物を飼いならす事が出来なかった。だから、『感情』を持つことを止めた。人形のように生きて行けばよいのだ。魔王を封印する――それだけを考えていればいい。
 そうは思っても、時折胸が苦しくなった。だが諦めもしていた。これがノルシュタイン王家に生まれた定めなのだと。国を守るために魔王の力を解き放つ訳にはいかないと。
 そんな毎日を送っていた私に、あの運命の日が訪れたのだった。

「父上と母上が叔父上に!? 本当か、リヒト!」
「はい、殿下。一刻の猶予もなりません、早くこちらへ」
 真夜中に突然筆頭魔術師のリヒトにたたき起こされた私は、叔父のクーデターを知った。隠れ通路を走りながらも、どろどろと熱い怒りが身体の中に溜まっていく。私の気配を察したリヒトが鋭い声で牽制した。
「魔力暴走が起きかかっています、どうか冷静になさって下さい! あなたの力が暴走すれば、この城のみならず、国全体が炎に包まれます!」
「……っ、分かってる!」
 抑えきれない魔力が溢れ出す。暗い通路内で、私の両手はぼんやりと光を放っていた。八歳の身体では、魔王の魔力を上手く使いこなせない。下手をすれば自滅してしまう。だからこそ、普段魔法を使わなかったのだが、おそらくはその事が叔父を勘違いさせたのだろう。魔力の少ない兄とその王妃、魔法を使えない王子を廃すれば自分が王になれると――
「叔父上は知らないのか? 王となったものの責務を」
「その事を知っておられるのは、王と王妃、そして筆頭魔術師である父と私のみです。王になる儀式を行う際に初めて伝えられますから。魔王の封印の事は」
「……愚かな」
 王になどなりたくない。魔王の魔力などいらない。ただ何もない自分を抱き締めてくれる腕さえあれば、他には何もいらないのに。私は歯を食いしばった。何の役にも立たない自分が悔しくてならなかった。
「ここです、殿下」
 辿り着いた石造りの小部屋には、異様な魔力が満ちていた。床に描かれた魔方陣がリヒトの呪文に応じて金色に輝きだす。
「早く魔方陣に……ぐあっ!?」
「リヒト!?」
 リヒトの身体が一瞬にして吹き飛ばされ、背中が石の壁に叩きつけられた。ずるずると床に落ちるリヒトの口から、赤い血が一筋流れていた。振り返ると、大きく崩れた石の壁から、狂気に満ちた目をぎらつかせた叔父がこの間に侵入してくるところだった。
「こやつの魔力を追って来てみれば、このようなところに転移門を用意しておったとは」
 叔父が右手に持っている複雑な文様が刻まれた刀を見た私は、はっと目を見張らせた。あれは魔刀――神の力さえ切ることが出来ると言われている剣。宝物庫に隠されていたはずなのに、何故!?
(血……!)
 刀にこびりつく血は。まさか。身体の魔力が大きくうねる。叔父がにたりと笑いながら、剣を大きく振りかぶった。
「せめてもの情けだ。父親母親をあの世に送ったこの剣で、お前も死ぬがいい!」
 頭の中がかっと真っ赤に染まった。業火の炎が全身を焼こうとする。心の奥底で声がした。
 ――ヤキツクセ、スベテヲ。ハナテ、マノチカラヲ――
「だめです、チェイサー! その力はっ……!」
「リ、ヒト」
 リヒトの叫びに、失いかけていた理性が一瞬戻った。リヒトの父親が念のためと掛けた魔法。ミドルネームの『チェイサー』――千年前に魔王を封印した偉大なる王の名前。この名を呼ばれると、僅かな時間だが、魔王の力が弱まる。
 ああ、そうだ、ここで力を放つわけにはいかない。私は身を翻し、光る魔方陣へと足を踏み入れた――その時
「死ねーっ!」
「っあ――っ!」
「殿下ーっ!」
 焼けるような痛みが背中に走る。膝ががくと落ちた瞬間、金色の光がわが身を包んだ。倒れながら後ろを振り向いた私の目に映ったのは、血塗られた刀を持つ叔父がもう一度剣を振るおうとして、ごぼと口から出血している姿、だった。

***

 はあ、はあ……

 冷たい。熱い。痛い。その繰り返しだ。
 もう意識はぼんやりとしている。深い霧の中、私はびしょ濡れになって冷たい岩の上に倒れていた。どこかは分からないが、全く人気が感じられない。それにこの霧は。
「神……のちか、ら……」
 おそらくはこの土地を守護する神の力。それがこの霧に満ちている。この森の中では魔王の力も治まっている。ここなら……この身体が朽ちても、灼熱の大地に変えてしまう事は、ないのかも知れない。

 はあ、はあ……

 魔王の魔力は『破壊の力』。治癒の力は全く使えない。いくら魔王の力と知識を持っているとはいえ、身体は八歳の子どもだ。体力が奪われ、命が削られていくのが手に取るように分かる。

 はあ、はあ……

 ああ、それでも、いいのかもしれない。魔王と共に自分も死ぬのなら。それでも……

 そこで私の意識は完全に途切れた。

***

 ――温かい。そして優しい匂いが……する。
「う……」
「気が付いたか、少年」
 誰かの声がした。ゆっくりと目を開けると、見知らぬ女性が私の顔を覗き込んでいた。三つ編みに編まれた栗色の髪。褐色の肌にはしばみ色の瞳。鼻筋の通った、きりとした面立ちの、美しい人だった。
「……え」
 この人は誰だ。そう思っていると、その女性はにっこりと私に笑いかけてきた。その笑顔が眩しくて、思わず息を呑んだ。
「大丈夫だ、恐れる事はない。お前に危害を加える気はない」
 綺麗な声。冷えた頬が熱くなってくるのを感じた。女性は訝し気な顔をした後、こつんと自分の額を私の額に当てた。間近で見る彼女に、私は何も言えなかった。 
「熱も出ていないようだな。今のところ怪我も化膿していないようだ。よし、何か食うか?」
 女性が上半身を起こすと、それまで身に纏っていた布がはらりと腰まで落ちた。女性は裸だった。引き締まった褐色の身体。ふるんと揺れる、形の良い胸。白の下穿きを穿いているだけのその姿に、私は目を見張り、口をぱくぱくと動かした。
「は、はだっ、はだかっ……!」
 さっき温かいと思っていたのは、彼女の肌だったのか。あの匂いも。
「少年の身体は濡れて冷え切っていたからな。肌と肌を触れ合わせ、体温を分け合うのが一番温まるんだ。すまないな」 
 すまないとか言う問題ではないだろう。美しい裸体を惜しげもなくさらして大丈夫なのか。
 女性はひょうひょうと衣服を着、小屋を出て行った。残された私は、高鳴る心臓の音と熱い頬を持て余し、布を被り直したのだった。

 女性は温かそうなスープを作ってくれた。その優しい味に、何とも言えない温かな気持ちが胸にこみ上げてきた。女性の話からすると、狩りの途中霧の森で私を見つけたらしい。彼女の服装から見ても、ここは高原地帯なのか。とすれば、ヴェルト山脈を越えてここに飛んだのか、私は。スープを飲みながら、私は今後の事に思いをはせていた。
 この怪我では戻る事も難しい。大体向こうの状況もよく分からない。少なくとも今は、この親切な女性の世話になるのが得策だろう。そう思っていた私に、彼女が告げた。
「背中の怪我のこともある。その怪我が治るまでは、私が少年の保護者となろう」
 保護者? 私は目を見張った。保護すると。魔王の力を身に宿したこの私を?
「我が名はアイシャ。ドゥーラン族の長ギリスが一の娘、アイシャだ」
「アイシャ……」
 美しい名前だった。呼ぶだけで、舌が甘く痺れるような。
「綺麗な名前。あなたに相応しい……僕は、」
 出来る限り、年相応の少年を装いながら、私は口を開いた。アイシャにはなるべく嘘は付きたくない、そう思った。
「……僕の名はチェイサー。ノルシュタイン王国から来ました」
 魔王の力を抑える名前。この名をアイシャに呼んでもらえるなら、おそらくは。
「ノルシュタイン……あの魔法の国か?」
 ノルシュタイン王国の事は、さすがに遠く離れたこの地にも知れ渡っていたらしい。私は争いに巻き込まれて転移して来た事を告げたが、アイシャの態度は変わらなかった。
「だから、遠慮などいらん。チェイサーはチェイサーらしくあればいい。泣きたかったら、泣け。喚きたかったら、喚け。そして、笑いたくなったら、笑えばいい」
 自分を抱き締める温かな身体。膨大な魔力を持つ者としてでもなく、王子としてでもなく。ただの子どもとして扱ってくれたのは、アイシャだけだった。胸が痛い。今まで心の奥底に抑えていた何かが、熱い涙と共に流れ出ていく気がした。
「チェイサーは必ず私が守る。だから安心しろ」
「うっ……く、う、んっ……」
 アイシャの温かさに触れた私は、ただ縋りついて泣いた。そうしている内に――魔王の力が囁いた。

 ――この女が欲しい――と。

 同じ思いを抱いていた私は、初めて魔王の力を使おうと心に決めたのだった。

***

 漆黒の夜が全てを覆い隠す。私はそっと瞳を開けた。一緒に横になっているアイシャはぐっすりと寝ていた。『怖い』と怯える事で、アイシャは裸で抱き締めて寝てくれるようになった。何も疑っていないアイシャが愛おしくてたまらない。
「アイシャ……」
 アイシャの額に手を当て、少しだけ魔力を入れる。『黒夢の魔術師』それが魔王の力を制御する王の通り名だ。魔王に夢を見せて、覚醒するのを抑える力を有している、との意味らしい。魔王に効くならば、とアイシャに試してみたところ、この術を解かない限り、アイシャが目を覚まさないという事が分かった。こうして毎晩、眠りの魔法を掛けられているなどと、アイシャは気付いてもいない。
「アイシャ、愛してる」
 半開きのアイシャの唇に自分の唇を重ねる。ああ、何度味わっても甘い。少しは反応するように力を抑えているため、アイシャの身体は無意識のうちに私に反応していた。舌を吸い、唾液を飲む。
「ふ、ん」
 鼻にかかった声が可愛い。存分に唇を味わった後、たわわに実った胸の果実にかぶり付いた。すくい上げるように手のひらを広げる。子どもの手にはあまる大きさだ。ちゅくちゅくと音を立てて茶色の乳首を吸い、乳輪の周りを丹念に舐めると、アイシャの身体は少し熱を帯びてきた。
「あ、ああ……」
 無意識でも乳首は硬く尖り、私の愛撫に反応してくれている。それが嬉しくて、何度も何度も両方の胸を吸って舐めて甘噛みした。そっと下に手をやり、柔らかな巻き毛が濡れているのを感じた私は、引き締まった太腿を大きく広げ、甘く香る花びらに唇を寄せた。
「あ、はあん」
 花びらを擦るように舌を動かすと、アイシャの腰がゆらゆらと揺れた。甘い蜜がどんどんと溢れてくるのは、感じてくれている証拠だ。身体さえ大人だったなら、とっくの昔にアイシャに精を注ぎ、孕ませているのに。――その代わりに、今夜は。
(今まで慣らしてきたからな……反応も敏感になっている)
 ぷくりと膨らんだ花芽に吸い付くと、アイシャは「あああ」と声を上げ、背中を大きくしならせた。眠ったまま達したらしい。指を蜜壺に入れると、うにうにと動く肉襞が、嬉しそうに手に纏わり付いてくる。アイシャの肌は褐色だが、襞はうすい桃色だ。この煽情的な眺めは、誰にも――そうライサンにでも、見せられない。これは、私だけのモノだ。
 甘い汁を存分に舐めた後、自分の男性器に手を当てる。魔力を注ぐと、それは見る見るうちに成人男性の大きさへと成長した。未精通の身体では、精を注ぐことは出来ないが、男性器を大きくしてアイシャのナカに埋める事は可能だ。
「アイシャ、アイシャ……」
「んあっ!」
 一気にアイシャの蜜壺の中に自分自身を埋めると、アイシャが眉を顰め、首を横に振った。逃げようとする腰を両手で抑え込む。
「逃がさないよ、アイシャ」
 アイシャのナカは熱くて狭かった。みちみちと肉の道を拓いていくと、やがてこつんと最奥に達した感覚がした。
「ああ……アイシャ……」
 腰を大きく振った。アイシャの身体が跳ねる。目を瞑ったままなのに、アイシャの吐息が熱く乱れている。
 本当は起きているアイシャを抱きたい。だが、子どもの身体のままではアイシャは許してはくれないだろう。だから。
(アイシャのナカに魔力を注ぎ込む。この女が私のモノだという証拠に)
 アイシャの身体で、私が知らない部分はもうない。全てに口付けをしたし、触って、舐めた。そうすることで、アイシャの肌に私の魔力が馴染むのだ。
「ああ――っ!」
 びくんとアイシャの腰がひと際大きく跳ねるのと同時に、私も限界に達した。精の代わりに、熱い魔力が男性器を通してアイシャに注がれていく。乱れた息を整えながら、ずるりと元の大きさに戻った男性器を引き抜くと、アイシャの花びらから破瓜の血が流れているのが見えた。
「ああ……甘い……」
 アイシャの血を舐める。糖蜜のような甘さだ。私は陶然とアイシャの血に酔った。アイシャの全ては私のモノ――
 十二分にアイシャの身体を堪能した私は、身体を綺麗にし、全ての痕跡を魔法で消した後アイシャの魔法を解いた。そしてまた、アイシャの腕の中へと戻り、目を閉じだのだった。

***

「チェイサー、お前は何者だ」
 アイシャの処女を奪った次の日、彼女が狩りに行っている間に、アイシャの父親が私を訪ねてきた。私は長を部屋に招き入れ、周囲に結界を張った。長の表情から見ると、人に聞かれては困る話なのだろうと想像がついた。
「僕は」
 長の表情は厳しかった。腕を組み、私を見下ろすその姿は、罪を断罪する神のようにも見えた。
「アイシャに魔法をかけたな。あれの身体に痕跡が残っていた――」
 私が目を見張ると、自嘲気味に長が笑った。
「我が部族に伝わる勘のようなものだ。この地は風の神の保護下にある。風の神以外の魔力が発動すれば、すぐに感じる人間がいるという訳だ。私はそのうちの一人でもある」
「……」
 この男を誤魔化す事は出来ない。私は『素直な子どものチェイサー』の仮面を脱いだ。
「……私はノルシュタイン王国の王となる者だ。争いが起こったため、この地に転移して逃れてきた」
 赤い瞳がはっとしたように大きく見開かれた。
「ノルシュタインの王……まさかその力、魔王か!?」
 ノルシュタイン王家の秘密を知っているとは。ならばこの男は、私が娘に何をしたのかも勘付いている可能性が高い。
「そこまでご存じとは。辺境の地とはいえ、侮れませんね」
 うっすらと笑みを浮かべた私に、長は苦々しげに言った。
「時が早く流れる都とは違い、この地は昔ながらの生活がそのまま続いている。千年前の出来事も、伝承として語り継がれているだけだ」
 ノルシュタインで忘れ去られた歴史が、ここでは生きているという事か。油断した。私は長の赤い瞳を真っ直ぐに見上げた。
「私はアイシャを妻に欲しい。アイシャは私のモノだ。アイシャも私の事を思ってくれている」
 長は眉を顰めた。
「アイシャはお前を弟のように慈しんでいる。お前がアイシャを思う気持ちは、男のモノだろう。それとは違う」
「それでも、です。アイシャ以外の妻を娶る気はありません。それから」
 魔力を漏らしながらにっこりと微笑みかけた時、長の瞳に一瞬恐怖に似た光が映った。
「私が成人する前にアイシャに手を出す男がいたら――この地は業火の炎に包まれてしまうかもしれません。魔王もアイシャを求めているのですから。横取りされれば、魔王の力を全て解き放ちます」
 暫くの間、長と私は睨み合っていた。やがて溜息をついたのは、長の方だった。
「……お前の気持ちは分かった。ただし、アイシャに求婚するのは成人後だ。それでなければ、あれは承諾しないだろう」
「望むところです。必ずや十年後、アイシャを妻に迎えます」
 長は黙ったまま、部屋を出て行った。あれだけ脅しておけば、アイシャに婿を勧める事はしないだろう。 
「アイシャ……逃さないよ」
 ああ、早く成人したい。だが、無条件にアイシャに愛されている今の立場も捨てがたい。私は夕飯の準備に取り掛かりながら、どんな風にアイシャを可愛がろうかと考えていた。

***
「んはあ、はあ、チェイサーっ……!」
 ぴちゃぴちゃと厭らしい水音が寝室に響く。アイシャの蜜は、舐めても舐めても溢れ出てくる。私は花芽を軽く噛み、身体を震わせるアイシャを愛おしげに見た。
「もうこんなに濡らして……私が欲しい? アイシャ」
 はしばみ色の瞳が、濃い赤に変わっている。半開きの唇から、熱い吐息と共に「欲しい……チェイサーが欲しい」と懇願する声が漏れた。こんな時のアイシャは舌足らずになって可愛らしい。
「アイシャの欲しいものをあげるよ」
「んあああああーっ」
 魔力ではなく、自力で硬く膨らんだ男性器を一気に埋めると、アイシャは甲高い悲鳴を上げて仰け反った。ぎゅっと締め付ける肉襞。軽くイッてしまったのか。
「入れただけでイッてしまうなんて、アイシャは淫乱だね。淫乱なアイシャは可愛いよ」
「ああっ、あんっ」
 腰を激しく打ち付ける。そう、今の身体は、あの時出来なかった事も出来るのだ。アイシャの甘い声を聞きながら、甘い襞に包まれて、達するという事が。
「ちぇい、さ……ああん!」
「アイシャっ……!」
 どくどくと精をアイシャのナカに注ぐ。ああ、やはり魔力だけ注いだ時とは快感が違う。充実感も、愛おしく思う気持ちも。
「チェイサー……好きだ」
 濡れた瞳でそう言ったアイシャに、「私もアイシャが好きだ……愛してる」と甘い口付けを贈った。達して直ぐなのに、もう硬くなってきている。
「今度は後ろからしようね、アイシャ」
 繋がったまま、アイシャの身体を反転させ、まろやかな腰を持ち上げる。そのまま軽く腰を動かすと、アイシャがぶるりと震えた。
「ああんっ、そこはっ」
「アイシャはここが弱いよね? 存分に突いてあげるから」
「あんっまって、あああんっ」
 もう待たないよ、アイシャ。こうしてアイシャを手に入れるのに十年待ったのだから。

 リヒトが私を迎えに来、魔王の話をアイシャにした時は縊り殺してやろうかと思った。だが、よく考えてみると、アイシャを永遠に手に入れるためにはノルシュタインに戻る方が得策だと気が付いた。このまま近くにいても、アイシャは私を保護すべき子どもとしか見ないだろう。ならば一度戻り、アイシャを妃にする準備を整え、成人してから正式に申し込めばよい。
 優しいアイシャは、子どもの求婚を受け入れてくれた。ついでに誓いまで立ててくれた。アイシャの髪を受け取った私は、自分の髪をアイシャに渡した。これで離れていても、アイシャの動向は分かるはずだ。
 身を切るような痛みを胸に抱きながら、私はリヒトと共にノルシュタインへと帰還した。 
 ――アイシャを妃に迎える。そう告げた時、当然ながら貴族共の間から反対意見が多数出た。『なぜ辺境の娘を』『しかも十も年上の』『もっと相応しい娘がいるはず。気に入ったなら愛妾にすればいい』どいつもこいつも、好き勝手に言っていた。だが、アイシャを非難する声が出る度に、抑えきれない魔力が城に充満するのを感じた者たちは、いつしかアイシャの事を受け入れるようになっていった。もちろん筆頭魔術師のリヒトが『アイシャ殿が近くにいれば、魔力暴走を抑える事が出来る』と広めてくれたお陰でもあるが。アイシャも私との誓いを守り、男を寄せ付けていないようだ。長もアイシャの好きにさせている。ああ、早くアイシャを抱きたい。アイシャに釣り合う男に成長したい。そればかりを思っていた。

 そうしてようやく成人の儀を迎える事になった時――大臣の一人が、自分の娘を愛妾にと言ってきた。辺境の娘だけではやっていけないからと。
 それを聞いた私は、わざと魔王の力を解放した。城に満ちる高濃度の魔力に、次々と倒れていく貴族や使用人たち。やがて、リヒトのみしか城に立ち入れなくなった時、私はリヒトに告げた。この魔力はアイシャにしか鎮められないと。
 ――その後は、私が想定したよりも早く話は進んだ。アイシャが正式な妃であると示すため、王家の馬車を迎えにやったのだが、まさかアイシャが先に一人で馬に乗って来るとは思ってはいなかった。
 ああ、だがアイシャが来てくれた時の喜びは、今でも忘れられない。そうして、アイシャは今、この腕の中にいる。城の誰もが、魔力を抑えたアイシャを歓迎した。もちろん、アイシャの心根を知った者たちは、純粋にアイシャを慕うようになっていったが。

「アイシャ……っ!」
「あ、あああ、ああん、ああああーっ!」
 アイシャが何度目かに達した後、私も自分自身を解放した。ぐったりと汗まみれになったアイシャ。美しく気高い私のアイシャ。こんな乱れたアイシャを見るのも私だけだ。
「決して放さないよ……アイシャは私のモノだから」
 気を失うように眠ってしまったアイシャの唇に、私はそっと自分の唇を重ねたのだった。
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