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――レイナード様……?
私は目を開けたまま、レイナード様を見ていた。長いまつ毛が貴婦人のようで。重ねられた唇が、熱かった。身動きしない私に、少し唇を離したレイナード様が言った。
「口を開けて、舌を出せ」
レイナード様の命令通りにすると、私の舌はレイナード様の舌に絡み取られた。口の中にもレイナード様の舌が入ってきて、いろんなところを舐め回している。
「んんんっ……」
なんだか、ヘン。胸がどきどきする。頬が熱くなってきてる。
(私……変、なの……?)
魔法人形は何も感じないはずなのに。心臓だって、こんな変な動きをするのはおかしい。レイナード様に唇を舐められただけで、手足がびくっと震えるなんて、おかしい。
「ひっ」
レイナード様が私の胸にかぶり付いてる。吸われる感じがする。どうして、背中がこんなにぞくぞくするの? やっぱり調子がおかしいの?
(もし、壊れてたら、私……)
壊れた魔法人形は適切に処理されてしまう。魔物が核になっている事が多いから、器である身体が壊れると中身が外に出て危険だと本で読んだ。私は機械仕掛けだけど、それでも体内に自然によくない物質が入ってるかも知れない。
(こわ、い)
「レイナード、さま」
「……何だ」
縋る様にレイナード様の名前を呼ぶと、私の胸からレイナード様が不機嫌そうな顔を上げた。もう片方の胸は、レイナード様の指に弄られてる。変な感覚に怯えながら私は聞いた。
「わ、たし……処理されるんですか?」
「処理?」
レイナード様の黒い瞳がますます黒くなった気がした。私は小さく頷いた。
「わた、し、変です。壊れてるのかも、知れません。そうしたら、私……」
「何故壊れてると判断した?」
レイナード様の声が少し硬い感じがした。私は恐る恐る「だって」と話し始めた。
「レイナード様が触ったら、胸がどきどき痛いんです。さっきも手足が震えて、背中もぞくぞくして、変なんです」
嫌だ。処理されたら、全部壊されて、覚えてる事も忘れてしまうって。レイナード様の事、忘れるの、嫌だ。
レイナード様の顔が霞んで見えた。はあと溜息をついたレイナード様が、また唇を合わせてきた。
「……こうすると胸が痛いのか?」
「は、い。心臓がいつもと違ってて、あ、熱くて。体温上がらないはずなのに」
「……それは正常な反応だ。お前を処理などさせないから、安心しろ」
――正常反応? これが? 私が目を丸くすると、レイナード様が私の耳に息を吹きかけた。
「ひゃあん」
出した事のない声が口から出た。喉の音程がおかしくなったのかも知れない。でもレイナード様はどこ吹く風だった。
「新月だったら、もっと感じて余計な事を考えずに済んだものを。あの王太子めが」
ぶつぶつと呪いを吐くレイナード様の手が、私の身体のあちこちを撫ぜ始めた。レイナード様の肌が、なんだか光ってる。汗が光りに反射してるのかな。レイナード様の身体はとても綺麗。私の身体とは大違いだ。
「いいか、リィ。これから私が行う儀式にお前がどのような反応をするのか、この目で確かめる。反応を隠すな。声を出したかったら出せ。他にも気が付いた事があれば言え」
「はい、レイナード様」
レイナード様が言うんだから、これは正常反応なんだ。どんな反応なのか、実験で確認したいんだ。そう思った私は、レイナード様の儀式に全てを委ねた。
「あ、ああん」
少し膨らんだ胸をやわやわと揉まれる。揉みながら、レイナード様が満足げに呟いた。
「ふむ、いい張り具合だ。これならよい形になるだろう」
「そ、うですか?」
「ああ――この柔らかな白い膨らみ。その上で硬く尖っているピンク色の乳首。色も手触りも味も申し分ない」
レイナード様に褒められた。その事が嬉しくて、私はへらっと笑った。レイナード様は、乳首を引っ張ったり抓んだり、舐めたり吸ったりして、私の反応を確かめていた。
「これはどうだ?」
ちゅくちゅく音を立てて乳首を吸われた私は、もじもじと脚を摺り寄せた。
「なんだかむずむずします」
「どこだ?」
「あ、あの……脚の、間が」
さっきから、お腹がヘン。奥の方がむずむずして、熱くて。それに脚の間がなんだか……。
「濡れてきたか?」
「ひゃあああああんっ!」
するりとレイナード様の手が、脚の間に滑り込んできた。指がそこを擦ると、稲妻が身体を走り抜けた。だめ、こんな刺激を受けたらっ!
「やあっ、レイナード様、やめて! 私壊れちゃう!」
「これしきの事で壊れはしない。もっと力を抜いて、快楽に身を任せろ」
「かい……らく?」
なに、それは。私が理解できない間にも、レイナード様の指が下に生えた毛の塊をより分けてる。
「ほら、これだ」
「ああああああんっ!」
どこかをきゅっと抓まれたのと同時に、また稲妻が身体を通り抜けた。ねちゃねちゃと粘着性の音がする。呼吸も浅く早くなって、なんだか息苦しい。
「れい、なーど、さまっ……!」
レイナード様が指を動かしながら、頷いた。
「ああ、よく濡れているぞ。お前は優秀だな、リィ。入口は狭いが、これなら咥え込む事が出来そうだ」
「くわ……える?」
どこで? 口じゃないの? 何を咥えるの? それを聞こうとした時――レイナード様が私の脚の間に唇をつけた。
「ひゃああんっ、あああああああーっ!」
どろりと内容物が外に出てきた感触がした。レイナード様の舌が、私を舐めている。ぴちゃぴちゃと音を立てて、私の脚の間を舐め回してる。
「美味だな。まだ青さは残っているが、甘くて雌のよい香りがする」
「あっ、はあんっ」
変な声が止まらない。身体がぴくぴく震えてるけど、正常なのだろうか。それすらも判らない。レイナード様の舌と指が、私から反応を引き出していく。
「ひあっ!?」
レイナード様が何かを吸った。何かが目の前で弾けて、視界が真っ白に染まった。
「目、目がおかしいですっ、ああああんっ」
「おかしくはない。それが、『イク』という感覚だ。よく覚えておけ」
「は、はい、レイナード様……あああああん!」
イク? 真っ白になって、稲妻が走るこの現象が? 判らないうちに、また舌を動かされて、私の身体は勝手に動いた。いくら叫んでも、いくら身体を震わせても、レイナード様の舌は止まらなかった。ようやくレイナード様が顔を上げた時、私はもう何も考える事が出来なかった。
「そろそろ……よいか」
「うあ……?」
息も絶え絶えになった私を見て、レイナード様がズボンの紐に手を掛けた。
「れい、なーどさま」
ズボンを脱ぎ棄てたレイナード様の身体。何も身に纏っていない身体。お風呂で背中をお流しする時に見た事はあるけれど、こんなに綺麗だった?
「これを見ろ、リィ」
「これは……?」
レイナード様が私の上に跨り、硬くそそり立った肉の塊を見せた。筋が張って張りつめたそれは、太くて赤黒く染まっていて……色の白いレイナード様の一部とは思えなかった。
「これが今からお前のナカに入る」
「えっ、こんな大きなの、入りませんっ」
ぷるぷると私が首を横に振ると、レイナード様は大丈夫だ、と呟いた。
「お前はもう十分に濡れている。それはこれを受け入れる為だ。今までの儀式は、これがナカに入る為の準備にすぎん」
「準備……」
あんなにも真っ白になったのに。あんなにも高い声を出したのに。全部準備運動だったなんて。私は呆然とレイナード様を見上げた。
「いいから力を抜け、リィ。私に任せろ」
「は、い……」
レイナード様の腰が、私の脚の間に沈んだ。ぐっと熱くて硬いものが、むずがゆくてしかたがない場所に当てられた――その瞬間。
「きゃああああああああっ!」
「くっ……!」
私とレイナード様は同時に悲鳴を上げた。焼けつく様な痛みが、身体の中心から全身へと伝わった。レイナード様も同じだったらしい。
「ちっ……! やはりコレのせいか」
レイナード様が私の左太股の内側に手を当てた。そこには、黒色で複雑な文様が刻まれていた。てっきりレイナード様の術式かと思っていたけれど、違ったの……?
レイナード様は身体を起こし、再び服を着始めた。いつもの黒いローブ姿になるまで、私はぼんやりと着替えを見つめていた。レイナード様が私の唇にまた唇を重ねて言った。
「やはり新月でなければならないようだ。この文様の効果が切れる、次の新月が」
「は、い」
レイナード様の瞳が妖しく揺れた。
「今夜の儀式の事覚えておけ……次の新月には、お前のナカに入って儀式を完成させるからな」
「はい、レイナード様……」
レイナード様が私の手足の枷を外して、軽々と私を抱き上げた。そのまま浴室に私を連れて行き、身体の調子を整えながら綺麗に洗浄してくれたのだった。
***
「……行ってくる。いいか、外に出るんじゃないぞ」
「はい、いってらっしゃいませ、レイナード様」
私はぺこりとお辞儀をして、王宮に向かうレイナード様の後ろ姿を見送った。
――明日が新月、か……
はたきを掛けながら、ぼんやりと私はレイナード様の事を考えていた。あれから幾度も『儀式の練習』を積んだ私の身体は、ほんの少しレイナード様が触っただけで『イク』ようになってしまった。『イク』と暫く身体が痺れて動かないから、次の朝掃除が出来なくなるんだけれど、『そんなことよりも儀式が優先だ』と言われてしまった。今日も何だか身体が重だるい。
――いい子だ、リィ。たっぷり濡れる様になってきたな
――ひくひく動いてるぞ。私を求めているのだな
――お前の喘ぎ声をもっと聞かせろ
――白い肌がピンク色に染まる様が、なんとも美しい
――お前は私だけのものだ、判ったな、リィ
(私はいつだって、レイナード様のものなのに)
魔法人形はご主人様には逆らえない。だから私は、レイナード様が私を捨てるまで、レイナード様のものなのに。どうしてレイナード様は……
――こんこん
「はい……っ、王太子様!?」
ノックの音と共に、重い樫の木の扉が開いた。黒いマントを被った王太子様が、もう一人マントを被った人と一緒に立っていた。
「やあ、リィ。私の事はウィーと呼ぶ約束だろう?」
そう言って微笑んだ王太子様は、とても綺麗だった。レイナード様の闇夜の漆黒の美しさとは違う、明るい太陽の様な金色の髪。そして澄んだ空の色の瞳がきらきらと輝いていた。
「で、でも」
私が戸惑っている間に、王太子様達は塔の中へと入って来た。――何も起こらない。
(この方も、王家の血を引く人……?)
私がマントのフードを深く被ったままじっとしている人に目を向けると、王太子様がその人のフードをゆっくりと外した。フードの下から現れたのは、王太子様と同じ色の髪と目をした、綺麗な女性だった。
「――リリアーナ!」
あれと思う間もなく、私は誰かに抱き締められていた。ふわりと香る匂いはどこかで嗅いだ事がある。柔らかくて温かい感触に、私は何も反応できなかった。
「ああ、リリアーナ! 生きていたなんて! こうしてまた貴女を抱き締められる日が来るなんて……っ!」
……この人、泣いてる? 声が掠れてる……。
「母上、いきなり抱きついたら、リィがびっくりしますよ。彼女は何も知らないのですから」
鼻をすするような音がして、「ごめんなさい、そうだったわね、ウィラード」と女性が身体を離した。
(今、母上って言った?)
確かに王太子様によく似てる。金髪も青い瞳も。でも、王太子様と比べると、髪の色がやや白っぽくなっている感じで、少し頬がこけている気がした。
「あの、あなた……は」
さっと青い瞳が翳った。俯き加減に涙ぐむ女性に代わって、王太子様が私の両手を手に取った。
「この方は私の母上――アンテローゼ王妃だ。今日はリィに会わせるために連れて来たんだ」
「おうひ、さま?」
私が首を傾げると、王妃様は悲しげに微笑んだ。
「どうかお母様と呼んで頂戴? 貴女の事は――リィ、でいいのかしら?」
「はい、レイナード様はいつもそう呼んでます」
レイナード様の名前に、王太子様の顔が凍りついた。王妃様は、「そう、レイナードが名付けたのね」と優しく微笑んでいた。
「――リィ。これから我々と王宮に来てくれないか」
王太子様の言葉に、私は目を丸くした。
「私、ここから出るなとレイナード様に言われています。王宮には行けません」
私がそう言うと、王太子様がゆっくりと言った。
「リィ。ここを出るのがお前の為だ。レイナードには、王妃から話が行く事になっている」
王妃様も頷いたのを見て、私は慌てて言った。
「で、でも! まだ新月が」
新月の儀式を終えないと。そう言った途端――王太子様の雰囲気が変わった。
「あいつ、まさか――!」
がっと王太子様が私の両二の腕を掴んだ。少し痛い。私が顔を顰めても、王太子様が手を離す事はなかった。王太子様が私の耳元で囁いた。
「リィ。詳しくは王宮で話す。とにかく今は来てくれ――母上のために」
「王妃様の?」
「母上は病で伏せっていて、やっと起き上げれるようになったところなんだ……頼む」
王太子様の声は切羽詰まっていた。そっと王妃様の方を見ると、王妃様は潤んだ瞳で私を見ていた。切ない思いを秘めた瞳に、胸のあたりが痛くなった。
「一緒に来てくれるのよね、リィ?」
よく見ると、王妃様の手は細く痩せていた。身体も細くて今にも倒れてしまいそうだ。
「レイナードの事なら心配いらないわ。あの子は私の我儘を聞き入れてくれるから」
「あの子?」
筆頭魔術師であるレイナード様をあの子? 私が目を瞬くと、王太子様が言った。
「孤児たっだレイナードの魔力を見出し、教育を受けさせ、王宮魔術師へと導いたのは、母上だ。レイナードは母上の頼みなら何でも聞く」
「王妃……様が」
黒髪、黒目で強大な魔力を持つレイナード様が、生みの親に捨てられたという話は聞いた事がある。じゃあ。
「あの子はね、小さい頃から人に忌み嫌われてきたから、自分の感情を出さなくなって誤解されやすいのだけれど。でも、とても優しい子」
王妃様が私に歩み寄り、私の頭をよしよしと撫ぜた。
「あなたをこうして助けてくれたのですものね、感謝しなければ」
王太子様が私から離れると、王妃様が私の両手を手に取った。
「一緒に来て頂戴? ね、リリアーナ」
「王妃様……」
青い瞳がとても悲しそうで、縋るようで……私は王妃様の細い手を振り払う事が出来なかった。
***
ピンク色と白の可愛らしい部屋の中、綺麗な白い椅子に座り、私は頭を垂れていた。王妃様と王太子様は、私にこの部屋にいて欲しいとおっしゃった。そして王妃様が、転移先から戻ったレイナード様に直接私の事を話すから、待っててほしい、とも。服もレースのついた綺麗なドレスに着替えるよう言われたけれど、この着慣れたメイド服がいいとお断りした。
(レイナード様……ごめんなさい)
何度も心の中で、レイナード様に謝った。私が塔から出たって判ったら、きっと怒るよね……。
(でも……)
塔から出てはいけない、と主人であるレイナード様に言われていたのに。悲しそうな王妃様を放っておけなかった。胸の奥がちくちくと痛む。
(やっぱり私、故障してる……?)
魔法人形にとって、主の命令は絶対のはず。でも私はその命に叛いてしまった。胸だってずっと痛いし。
(故障してたら……処理される……)
魔法人形は人よりも力が強い事が多い。だから故障して暴走すると大惨事になるため、動作がおかしい人形は処理=記憶をリセット、をされる。そして身体を再調整されるのだ。
(全部、忘れちゃう……?)
レイナード様の事も? 今までの事全部?
私が目が覚めた時、その前の事なんて何も覚えていなかった。あれと同じようになるの?
(いや……)
レイナード様の事忘れたくない。ぎゅっと膝の上で拳を握り締めた時、こんこんとノックの音がした。ぱっと立ち上がった私は、「はい」と返事をして白い扉を開けた。
「リィ、気分は悪くないか?」
「王太子様」
瞳と同じ色の青いチュニックに着替えた王太子様が部屋に入ってきた。王太子様は私の右手を掴み、ベッドの方へと引っ張って行った。
「ほら、お座り。まだ顔色が悪い」
半ば強引にベッドに腰掛けさせられた私は、目の前に立つ王太子様を見上げた。
「王太子様」
王太子様が優しく微笑んだ。王妃様もだけど、王太子様も本当に綺麗なお方だ。
「ウィーと呼んでくれるはずだろう?」
私は恐る恐る言った。
「……ウィー……様」
王太子様の顔がぱっと明るくなった。私の隣に腰掛けた王太子様が、王妃様のように私の頭をなぜなぜした。ふっと王太子様の表情が真面目になる。
「リィに聞きたい事がある」
「はい、何でしょうか?」
私が首を傾げると、王太子様が私の肩を掴んで後ろに押した。
「え」
ふかふかのベッドに押し倒された私は、私の上に圧し掛かってきた王太子様をじっと見上げた。王太子様が「済まない……が、確認させてもらう」と言った。
「確認って……きゃああ!」
紺色のスカートを王太子様の大きな手がめくり上げた。太腿まである白い長靴下をぐいっと下ろされ、左の膝を立てさせられた。
「いやあっ!」
逃げようとした私の太腿を、大きな手がぐっと抑えてきた。左の太腿の内側に、長い指が触れる。
「……この文様。やはり、そうか」
王太子様の目が怖かった。ものすごく怒ってるのが判る。私の肌に触れる指はとても優しかったが、私は怖くて堪らなかった。
「おう、たいしさま、お願い、許して」
私が涙ぐみながらそう言うと、はっと王太子様の顔付きが元に戻った。王太子様はすぐに靴下とスカートを元に戻し、ベッドから立ち上がった。
「済まなかった、リィ。どうしても見たかったのだ、お前の左太腿……そこにある文様を」
「もん、よう?」
私は目を丸くした。あの儀式の時、すごく痛かったのは、この文様のせいだと思っていたけれど。
王太子様が跪き、私の髪をまた撫ぜた。
「……これは、我が王家に伝わる魔法。代々この王家に生まれた姫の太腿にこの文様は刻まれる。これは、『王家の姫』が成人するまで――姫の力を手に入れんとする不埒な輩から、姫の身体を守るものだ」
「王家の姫?」
どうしてそんな文様が、魔法人形の私にあるのだろう。私の疑問を読み取ったかのように、王太子様が言葉を続けた。
「リィ。お前には信じられないかもしれないが……レイナードはお前を騙している」
「えっ」
私は息を呑んだ。レイナード様が私を騙してる? 私はがばっと身体を起こし、王太子様に向き直った。
「そんな事あり得ません。レイナード様が魔法人形の私を騙すなんて」
ベッドの上で正座した私の両手を、王太子様が握り締めた。
「お前のその文様が何よりの証拠。お前は――」
王太子様の手に力が一層込められて、握られた手が痛い。
「――魔法人形ではない。六年前に死んだとされていた私の妹、リリアーナ=ファリスタ王女。それがお前の本当の名だ」
魔法人形ではない? 私が?
「リリアーナ……?」
突然そんな事を言われた私は、呆然と王太子様を見る事しか出来なかった。
私は目を開けたまま、レイナード様を見ていた。長いまつ毛が貴婦人のようで。重ねられた唇が、熱かった。身動きしない私に、少し唇を離したレイナード様が言った。
「口を開けて、舌を出せ」
レイナード様の命令通りにすると、私の舌はレイナード様の舌に絡み取られた。口の中にもレイナード様の舌が入ってきて、いろんなところを舐め回している。
「んんんっ……」
なんだか、ヘン。胸がどきどきする。頬が熱くなってきてる。
(私……変、なの……?)
魔法人形は何も感じないはずなのに。心臓だって、こんな変な動きをするのはおかしい。レイナード様に唇を舐められただけで、手足がびくっと震えるなんて、おかしい。
「ひっ」
レイナード様が私の胸にかぶり付いてる。吸われる感じがする。どうして、背中がこんなにぞくぞくするの? やっぱり調子がおかしいの?
(もし、壊れてたら、私……)
壊れた魔法人形は適切に処理されてしまう。魔物が核になっている事が多いから、器である身体が壊れると中身が外に出て危険だと本で読んだ。私は機械仕掛けだけど、それでも体内に自然によくない物質が入ってるかも知れない。
(こわ、い)
「レイナード、さま」
「……何だ」
縋る様にレイナード様の名前を呼ぶと、私の胸からレイナード様が不機嫌そうな顔を上げた。もう片方の胸は、レイナード様の指に弄られてる。変な感覚に怯えながら私は聞いた。
「わ、たし……処理されるんですか?」
「処理?」
レイナード様の黒い瞳がますます黒くなった気がした。私は小さく頷いた。
「わた、し、変です。壊れてるのかも、知れません。そうしたら、私……」
「何故壊れてると判断した?」
レイナード様の声が少し硬い感じがした。私は恐る恐る「だって」と話し始めた。
「レイナード様が触ったら、胸がどきどき痛いんです。さっきも手足が震えて、背中もぞくぞくして、変なんです」
嫌だ。処理されたら、全部壊されて、覚えてる事も忘れてしまうって。レイナード様の事、忘れるの、嫌だ。
レイナード様の顔が霞んで見えた。はあと溜息をついたレイナード様が、また唇を合わせてきた。
「……こうすると胸が痛いのか?」
「は、い。心臓がいつもと違ってて、あ、熱くて。体温上がらないはずなのに」
「……それは正常な反応だ。お前を処理などさせないから、安心しろ」
――正常反応? これが? 私が目を丸くすると、レイナード様が私の耳に息を吹きかけた。
「ひゃあん」
出した事のない声が口から出た。喉の音程がおかしくなったのかも知れない。でもレイナード様はどこ吹く風だった。
「新月だったら、もっと感じて余計な事を考えずに済んだものを。あの王太子めが」
ぶつぶつと呪いを吐くレイナード様の手が、私の身体のあちこちを撫ぜ始めた。レイナード様の肌が、なんだか光ってる。汗が光りに反射してるのかな。レイナード様の身体はとても綺麗。私の身体とは大違いだ。
「いいか、リィ。これから私が行う儀式にお前がどのような反応をするのか、この目で確かめる。反応を隠すな。声を出したかったら出せ。他にも気が付いた事があれば言え」
「はい、レイナード様」
レイナード様が言うんだから、これは正常反応なんだ。どんな反応なのか、実験で確認したいんだ。そう思った私は、レイナード様の儀式に全てを委ねた。
「あ、ああん」
少し膨らんだ胸をやわやわと揉まれる。揉みながら、レイナード様が満足げに呟いた。
「ふむ、いい張り具合だ。これならよい形になるだろう」
「そ、うですか?」
「ああ――この柔らかな白い膨らみ。その上で硬く尖っているピンク色の乳首。色も手触りも味も申し分ない」
レイナード様に褒められた。その事が嬉しくて、私はへらっと笑った。レイナード様は、乳首を引っ張ったり抓んだり、舐めたり吸ったりして、私の反応を確かめていた。
「これはどうだ?」
ちゅくちゅく音を立てて乳首を吸われた私は、もじもじと脚を摺り寄せた。
「なんだかむずむずします」
「どこだ?」
「あ、あの……脚の、間が」
さっきから、お腹がヘン。奥の方がむずむずして、熱くて。それに脚の間がなんだか……。
「濡れてきたか?」
「ひゃあああああんっ!」
するりとレイナード様の手が、脚の間に滑り込んできた。指がそこを擦ると、稲妻が身体を走り抜けた。だめ、こんな刺激を受けたらっ!
「やあっ、レイナード様、やめて! 私壊れちゃう!」
「これしきの事で壊れはしない。もっと力を抜いて、快楽に身を任せろ」
「かい……らく?」
なに、それは。私が理解できない間にも、レイナード様の指が下に生えた毛の塊をより分けてる。
「ほら、これだ」
「ああああああんっ!」
どこかをきゅっと抓まれたのと同時に、また稲妻が身体を通り抜けた。ねちゃねちゃと粘着性の音がする。呼吸も浅く早くなって、なんだか息苦しい。
「れい、なーど、さまっ……!」
レイナード様が指を動かしながら、頷いた。
「ああ、よく濡れているぞ。お前は優秀だな、リィ。入口は狭いが、これなら咥え込む事が出来そうだ」
「くわ……える?」
どこで? 口じゃないの? 何を咥えるの? それを聞こうとした時――レイナード様が私の脚の間に唇をつけた。
「ひゃああんっ、あああああああーっ!」
どろりと内容物が外に出てきた感触がした。レイナード様の舌が、私を舐めている。ぴちゃぴちゃと音を立てて、私の脚の間を舐め回してる。
「美味だな。まだ青さは残っているが、甘くて雌のよい香りがする」
「あっ、はあんっ」
変な声が止まらない。身体がぴくぴく震えてるけど、正常なのだろうか。それすらも判らない。レイナード様の舌と指が、私から反応を引き出していく。
「ひあっ!?」
レイナード様が何かを吸った。何かが目の前で弾けて、視界が真っ白に染まった。
「目、目がおかしいですっ、ああああんっ」
「おかしくはない。それが、『イク』という感覚だ。よく覚えておけ」
「は、はい、レイナード様……あああああん!」
イク? 真っ白になって、稲妻が走るこの現象が? 判らないうちに、また舌を動かされて、私の身体は勝手に動いた。いくら叫んでも、いくら身体を震わせても、レイナード様の舌は止まらなかった。ようやくレイナード様が顔を上げた時、私はもう何も考える事が出来なかった。
「そろそろ……よいか」
「うあ……?」
息も絶え絶えになった私を見て、レイナード様がズボンの紐に手を掛けた。
「れい、なーどさま」
ズボンを脱ぎ棄てたレイナード様の身体。何も身に纏っていない身体。お風呂で背中をお流しする時に見た事はあるけれど、こんなに綺麗だった?
「これを見ろ、リィ」
「これは……?」
レイナード様が私の上に跨り、硬くそそり立った肉の塊を見せた。筋が張って張りつめたそれは、太くて赤黒く染まっていて……色の白いレイナード様の一部とは思えなかった。
「これが今からお前のナカに入る」
「えっ、こんな大きなの、入りませんっ」
ぷるぷると私が首を横に振ると、レイナード様は大丈夫だ、と呟いた。
「お前はもう十分に濡れている。それはこれを受け入れる為だ。今までの儀式は、これがナカに入る為の準備にすぎん」
「準備……」
あんなにも真っ白になったのに。あんなにも高い声を出したのに。全部準備運動だったなんて。私は呆然とレイナード様を見上げた。
「いいから力を抜け、リィ。私に任せろ」
「は、い……」
レイナード様の腰が、私の脚の間に沈んだ。ぐっと熱くて硬いものが、むずがゆくてしかたがない場所に当てられた――その瞬間。
「きゃああああああああっ!」
「くっ……!」
私とレイナード様は同時に悲鳴を上げた。焼けつく様な痛みが、身体の中心から全身へと伝わった。レイナード様も同じだったらしい。
「ちっ……! やはりコレのせいか」
レイナード様が私の左太股の内側に手を当てた。そこには、黒色で複雑な文様が刻まれていた。てっきりレイナード様の術式かと思っていたけれど、違ったの……?
レイナード様は身体を起こし、再び服を着始めた。いつもの黒いローブ姿になるまで、私はぼんやりと着替えを見つめていた。レイナード様が私の唇にまた唇を重ねて言った。
「やはり新月でなければならないようだ。この文様の効果が切れる、次の新月が」
「は、い」
レイナード様の瞳が妖しく揺れた。
「今夜の儀式の事覚えておけ……次の新月には、お前のナカに入って儀式を完成させるからな」
「はい、レイナード様……」
レイナード様が私の手足の枷を外して、軽々と私を抱き上げた。そのまま浴室に私を連れて行き、身体の調子を整えながら綺麗に洗浄してくれたのだった。
***
「……行ってくる。いいか、外に出るんじゃないぞ」
「はい、いってらっしゃいませ、レイナード様」
私はぺこりとお辞儀をして、王宮に向かうレイナード様の後ろ姿を見送った。
――明日が新月、か……
はたきを掛けながら、ぼんやりと私はレイナード様の事を考えていた。あれから幾度も『儀式の練習』を積んだ私の身体は、ほんの少しレイナード様が触っただけで『イク』ようになってしまった。『イク』と暫く身体が痺れて動かないから、次の朝掃除が出来なくなるんだけれど、『そんなことよりも儀式が優先だ』と言われてしまった。今日も何だか身体が重だるい。
――いい子だ、リィ。たっぷり濡れる様になってきたな
――ひくひく動いてるぞ。私を求めているのだな
――お前の喘ぎ声をもっと聞かせろ
――白い肌がピンク色に染まる様が、なんとも美しい
――お前は私だけのものだ、判ったな、リィ
(私はいつだって、レイナード様のものなのに)
魔法人形はご主人様には逆らえない。だから私は、レイナード様が私を捨てるまで、レイナード様のものなのに。どうしてレイナード様は……
――こんこん
「はい……っ、王太子様!?」
ノックの音と共に、重い樫の木の扉が開いた。黒いマントを被った王太子様が、もう一人マントを被った人と一緒に立っていた。
「やあ、リィ。私の事はウィーと呼ぶ約束だろう?」
そう言って微笑んだ王太子様は、とても綺麗だった。レイナード様の闇夜の漆黒の美しさとは違う、明るい太陽の様な金色の髪。そして澄んだ空の色の瞳がきらきらと輝いていた。
「で、でも」
私が戸惑っている間に、王太子様達は塔の中へと入って来た。――何も起こらない。
(この方も、王家の血を引く人……?)
私がマントのフードを深く被ったままじっとしている人に目を向けると、王太子様がその人のフードをゆっくりと外した。フードの下から現れたのは、王太子様と同じ色の髪と目をした、綺麗な女性だった。
「――リリアーナ!」
あれと思う間もなく、私は誰かに抱き締められていた。ふわりと香る匂いはどこかで嗅いだ事がある。柔らかくて温かい感触に、私は何も反応できなかった。
「ああ、リリアーナ! 生きていたなんて! こうしてまた貴女を抱き締められる日が来るなんて……っ!」
……この人、泣いてる? 声が掠れてる……。
「母上、いきなり抱きついたら、リィがびっくりしますよ。彼女は何も知らないのですから」
鼻をすするような音がして、「ごめんなさい、そうだったわね、ウィラード」と女性が身体を離した。
(今、母上って言った?)
確かに王太子様によく似てる。金髪も青い瞳も。でも、王太子様と比べると、髪の色がやや白っぽくなっている感じで、少し頬がこけている気がした。
「あの、あなた……は」
さっと青い瞳が翳った。俯き加減に涙ぐむ女性に代わって、王太子様が私の両手を手に取った。
「この方は私の母上――アンテローゼ王妃だ。今日はリィに会わせるために連れて来たんだ」
「おうひ、さま?」
私が首を傾げると、王妃様は悲しげに微笑んだ。
「どうかお母様と呼んで頂戴? 貴女の事は――リィ、でいいのかしら?」
「はい、レイナード様はいつもそう呼んでます」
レイナード様の名前に、王太子様の顔が凍りついた。王妃様は、「そう、レイナードが名付けたのね」と優しく微笑んでいた。
「――リィ。これから我々と王宮に来てくれないか」
王太子様の言葉に、私は目を丸くした。
「私、ここから出るなとレイナード様に言われています。王宮には行けません」
私がそう言うと、王太子様がゆっくりと言った。
「リィ。ここを出るのがお前の為だ。レイナードには、王妃から話が行く事になっている」
王妃様も頷いたのを見て、私は慌てて言った。
「で、でも! まだ新月が」
新月の儀式を終えないと。そう言った途端――王太子様の雰囲気が変わった。
「あいつ、まさか――!」
がっと王太子様が私の両二の腕を掴んだ。少し痛い。私が顔を顰めても、王太子様が手を離す事はなかった。王太子様が私の耳元で囁いた。
「リィ。詳しくは王宮で話す。とにかく今は来てくれ――母上のために」
「王妃様の?」
「母上は病で伏せっていて、やっと起き上げれるようになったところなんだ……頼む」
王太子様の声は切羽詰まっていた。そっと王妃様の方を見ると、王妃様は潤んだ瞳で私を見ていた。切ない思いを秘めた瞳に、胸のあたりが痛くなった。
「一緒に来てくれるのよね、リィ?」
よく見ると、王妃様の手は細く痩せていた。身体も細くて今にも倒れてしまいそうだ。
「レイナードの事なら心配いらないわ。あの子は私の我儘を聞き入れてくれるから」
「あの子?」
筆頭魔術師であるレイナード様をあの子? 私が目を瞬くと、王太子様が言った。
「孤児たっだレイナードの魔力を見出し、教育を受けさせ、王宮魔術師へと導いたのは、母上だ。レイナードは母上の頼みなら何でも聞く」
「王妃……様が」
黒髪、黒目で強大な魔力を持つレイナード様が、生みの親に捨てられたという話は聞いた事がある。じゃあ。
「あの子はね、小さい頃から人に忌み嫌われてきたから、自分の感情を出さなくなって誤解されやすいのだけれど。でも、とても優しい子」
王妃様が私に歩み寄り、私の頭をよしよしと撫ぜた。
「あなたをこうして助けてくれたのですものね、感謝しなければ」
王太子様が私から離れると、王妃様が私の両手を手に取った。
「一緒に来て頂戴? ね、リリアーナ」
「王妃様……」
青い瞳がとても悲しそうで、縋るようで……私は王妃様の細い手を振り払う事が出来なかった。
***
ピンク色と白の可愛らしい部屋の中、綺麗な白い椅子に座り、私は頭を垂れていた。王妃様と王太子様は、私にこの部屋にいて欲しいとおっしゃった。そして王妃様が、転移先から戻ったレイナード様に直接私の事を話すから、待っててほしい、とも。服もレースのついた綺麗なドレスに着替えるよう言われたけれど、この着慣れたメイド服がいいとお断りした。
(レイナード様……ごめんなさい)
何度も心の中で、レイナード様に謝った。私が塔から出たって判ったら、きっと怒るよね……。
(でも……)
塔から出てはいけない、と主人であるレイナード様に言われていたのに。悲しそうな王妃様を放っておけなかった。胸の奥がちくちくと痛む。
(やっぱり私、故障してる……?)
魔法人形にとって、主の命令は絶対のはず。でも私はその命に叛いてしまった。胸だってずっと痛いし。
(故障してたら……処理される……)
魔法人形は人よりも力が強い事が多い。だから故障して暴走すると大惨事になるため、動作がおかしい人形は処理=記憶をリセット、をされる。そして身体を再調整されるのだ。
(全部、忘れちゃう……?)
レイナード様の事も? 今までの事全部?
私が目が覚めた時、その前の事なんて何も覚えていなかった。あれと同じようになるの?
(いや……)
レイナード様の事忘れたくない。ぎゅっと膝の上で拳を握り締めた時、こんこんとノックの音がした。ぱっと立ち上がった私は、「はい」と返事をして白い扉を開けた。
「リィ、気分は悪くないか?」
「王太子様」
瞳と同じ色の青いチュニックに着替えた王太子様が部屋に入ってきた。王太子様は私の右手を掴み、ベッドの方へと引っ張って行った。
「ほら、お座り。まだ顔色が悪い」
半ば強引にベッドに腰掛けさせられた私は、目の前に立つ王太子様を見上げた。
「王太子様」
王太子様が優しく微笑んだ。王妃様もだけど、王太子様も本当に綺麗なお方だ。
「ウィーと呼んでくれるはずだろう?」
私は恐る恐る言った。
「……ウィー……様」
王太子様の顔がぱっと明るくなった。私の隣に腰掛けた王太子様が、王妃様のように私の頭をなぜなぜした。ふっと王太子様の表情が真面目になる。
「リィに聞きたい事がある」
「はい、何でしょうか?」
私が首を傾げると、王太子様が私の肩を掴んで後ろに押した。
「え」
ふかふかのベッドに押し倒された私は、私の上に圧し掛かってきた王太子様をじっと見上げた。王太子様が「済まない……が、確認させてもらう」と言った。
「確認って……きゃああ!」
紺色のスカートを王太子様の大きな手がめくり上げた。太腿まである白い長靴下をぐいっと下ろされ、左の膝を立てさせられた。
「いやあっ!」
逃げようとした私の太腿を、大きな手がぐっと抑えてきた。左の太腿の内側に、長い指が触れる。
「……この文様。やはり、そうか」
王太子様の目が怖かった。ものすごく怒ってるのが判る。私の肌に触れる指はとても優しかったが、私は怖くて堪らなかった。
「おう、たいしさま、お願い、許して」
私が涙ぐみながらそう言うと、はっと王太子様の顔付きが元に戻った。王太子様はすぐに靴下とスカートを元に戻し、ベッドから立ち上がった。
「済まなかった、リィ。どうしても見たかったのだ、お前の左太腿……そこにある文様を」
「もん、よう?」
私は目を丸くした。あの儀式の時、すごく痛かったのは、この文様のせいだと思っていたけれど。
王太子様が跪き、私の髪をまた撫ぜた。
「……これは、我が王家に伝わる魔法。代々この王家に生まれた姫の太腿にこの文様は刻まれる。これは、『王家の姫』が成人するまで――姫の力を手に入れんとする不埒な輩から、姫の身体を守るものだ」
「王家の姫?」
どうしてそんな文様が、魔法人形の私にあるのだろう。私の疑問を読み取ったかのように、王太子様が言葉を続けた。
「リィ。お前には信じられないかもしれないが……レイナードはお前を騙している」
「えっ」
私は息を呑んだ。レイナード様が私を騙してる? 私はがばっと身体を起こし、王太子様に向き直った。
「そんな事あり得ません。レイナード様が魔法人形の私を騙すなんて」
ベッドの上で正座した私の両手を、王太子様が握り締めた。
「お前のその文様が何よりの証拠。お前は――」
王太子様の手に力が一層込められて、握られた手が痛い。
「――魔法人形ではない。六年前に死んだとされていた私の妹、リリアーナ=ファリスタ王女。それがお前の本当の名だ」
魔法人形ではない? 私が?
「リリアーナ……?」
突然そんな事を言われた私は、呆然と王太子様を見る事しか出来なかった。
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