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浅海琉夏

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 浅海あさうみ琉夏るかは、クラスで一番かわいいと評判の女子だ。

 黒髪のミディアムボブに、ツリ目だが決して怖い印象はなく、かわいい笑顔で教室に花を咲かせている。フレンドリーな性格で、いつも女子の輪の中心にいるし、もちろん男子の注目だって集めている。

 要するに、典型的なスクールカースト最上位の女子なのだ。

 そしてモブ男子Aのようなこの俺、嶋村しまむら一斗かずとは、そんな浅海に対して密かに好意を抱いていた。

 あんなかわいい女子と付き合えれば、今のモノクロな青春がどれほどカラフルになることだろうか。まったく、想像がつかないな。ま、地味で冴えない、なんの才能も発揮したことがない俺を選ぶなんて、太陽が地球を中心に回るくらいにありえないことだけど。

「ん、また浅海見てるぞー?」

 昼食の時間、教室で一緒にメシを食う沢村さわむらが小声で俺に指摘する。女子グループの中で楽しそうにおしゃべりしながら弁当を食べる浅海を、俺がチラッと見たことに気づいたようだ。

「見ちゃ悪いか」

 俺が浅海に気があることを沢村は知っている。

 浅海は好きなY-Tuberわいちゅーばーを語っている。一応解説しておくと、Y-Tubeわいちゅーぶとはインターネット上の動画投稿サイトのことで、Y-TuberはY-Tubeで継続的に動画を投稿する人たちのことを指す。
 浅海はネットで動画を見るのが好きなようで、特に好きなのは都心のスイーツ店巡りを投稿する女性インフルエンサーのY-Tuberらしい。

 沢村は噂好きのおばちゃんのような口ぶりで、

「知ってるか、浅海また告られたらしいぜ。それもサッカー部のエースで、イケメンって評判の先輩らしい」
「知ってるよ。ま、いつものことだ」

 そう。ずいぶんとモテモテの浅海だが、相手がたとえどんなに高スペックだろうと断り続けている。一週間前は野球部のエースピッチャーが撃沈したし、先月は品行方正と評判高い生徒会長が撃沈した。
 沢村は俺に対し、必要もないのに同情的にうなずいて、

「そういう訃報を聞くたびに、お前のことを考えて胸が苦しくなるぜ」
「ダメな前提かよ。応援してくれよ……」

 とはいえ、俺の恋が叶うわけないのは沢村だけではなく、俺自身も承知している。
 勝ち目ゼロの戦いなのだ。

「はぁ」

 意味のないため息をつく俺。

 だからこそ、俺は驚いた。


 まさか俺が、近くて遠い世界で佇むあの浅海琉夏と、――――【偽装】カップルY-Tuberとしてデビューするなんて。
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