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エピローグ
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一年後――
風もすっかり暖かくなり始めた三月の下旬。
東池袋中央公園。
初めてここに来たあの日。ここの桜は葉桜だったが、今は満開に咲き誇っている。その満開の桜を眺めながらオレは、公園の入口でアイカが来るのを待っていた。
しかし、アイカに会う為だけに東京に出て来たわけじゃない。オレは、四月から東京の高校に通う為に上京してきたのだった。
プロデビューを目指すなら絶対に東京に居た方が有利だと考えたオレは、生活費はなるべくバイトで稼ぐ事を条件に半年掛けて親を説得し、死ぬほど受験勉強もして、再びの上京を勝ち取ったのだった。
……それにしても、あの高校に、よく自分も受かったものだと、今でも不思議に思う。アイカには、LINEで随分と勉強を教えてもらった。まさかアイカが、あんなに勉強が出来たなんて……
そうなのだ。アイカも一年遅れで高校に通う事が決まったのだった。つまり、オレとアイカは、四月から同じ高校の同級生というわけだ。
いや、違うんだ! アイカにどこの高校を受けるのか聞いたら、その学校の校風が自由で魅力的だったからオレも受けてみようと思っただけで、決して、アイカと同じ高校に通いたからそこを選んだわけじゃない。決して……
この一年、受験の事も含めてアイカとは何度も連絡を取り合っていた。しかし、オレ達のような未成年にとって東京と山口の距離は地の果てのように遠かった。およそ一年振りに会ったのは、寒風吹きすさぶ一月下旬の受験日でのこと。
もっとも、その時は魔法少女アイカではなく、受験の緊張も相まってテンションだだ下がりの斉藤良子だったが。
「今から変身してこようかな……」とか、わりと本気で呟き始めたので、それだけはやめておけ、とオレも本気で止めた。
だから、魔法少女アイカと会うのは、本当に一年ぶりだ。いや、別に嬉しくはない。なるべくなら普通の格好で会いたいのだが、そんな事を聞くアイカであるはずもない……
「勇貴くーん!」
燦々と春の日差しが降り注ぐ中、手を振りながら駆けてくる魔法少女。
「相変わらずの格好だな……」
オレは呆れ返るが、ふと気付く。ただでさえ派手なレースフリルに、さらに派手なラメが入ってやがる。キラキラキラキラと、さらにイタイタしくパワーアップしてやがった……
そんなアイカは、オレの前に来ると、やっぱりやった。腰をひねって片足を上げ、左手は腰に、マジカルステッキを握る右手は頭上に高々と掲げ、そして言い放つ。
「どんな小さな声だって、わたしの心に鳴り響く。世界は愛で回るから! ラブリィウィッチ・魔法少女アイカ。おまたせ!」
「わかったわかった……」
中二病全開のこの感じ、久しぶりに見てもやっぱりイタい……
「……それで、その格好で来たって事は、養護施設の職員さんは、やっとマショカツを許してくれたのか?」
この一年、アイカがマショカツの事を口にする事はなかった。オレも、もし出来ていなかったらと、傷付けちゃいけないと思って触れる事もしなかったのだが――
アイカは、イイ笑顔で答えた。
「全然。まったく」
当然、オレは思わず顔をしかめた。
「おいおい、大丈夫なのかよ……?」
「でもね、施設の子供達は知ってるの。応援してくれているんだよ。だから、みんな職員さんにはナイショにしてくれているの。やっぱり魔法少女はこうじゃないとね」
なんか嬉しそうだなぁ……
「あっ、それからね、聞いて聞いて。わたし、高校に入ったらマショカツ部を作ろうと思うの。マショカツに興味のある子を集めて、みんなで愛の魔法を広げるんだよ」
それ、全然ナイショになってないが?
「それじゃあ勇貴君。せっかく会ったんだから、今からマショカツ手伝ってね」
「また、酔っ払い運びか……?」
いや、今は昼間だからそれはないか。でも、似たような事をさせられるような気がする……
しかし、そんなオレになんてお構いなしに、アイカはオレの手を強く握って言うのだった。
「さあ、世界を愛で回しに行こう!」
〈了〉
風もすっかり暖かくなり始めた三月の下旬。
東池袋中央公園。
初めてここに来たあの日。ここの桜は葉桜だったが、今は満開に咲き誇っている。その満開の桜を眺めながらオレは、公園の入口でアイカが来るのを待っていた。
しかし、アイカに会う為だけに東京に出て来たわけじゃない。オレは、四月から東京の高校に通う為に上京してきたのだった。
プロデビューを目指すなら絶対に東京に居た方が有利だと考えたオレは、生活費はなるべくバイトで稼ぐ事を条件に半年掛けて親を説得し、死ぬほど受験勉強もして、再びの上京を勝ち取ったのだった。
……それにしても、あの高校に、よく自分も受かったものだと、今でも不思議に思う。アイカには、LINEで随分と勉強を教えてもらった。まさかアイカが、あんなに勉強が出来たなんて……
そうなのだ。アイカも一年遅れで高校に通う事が決まったのだった。つまり、オレとアイカは、四月から同じ高校の同級生というわけだ。
いや、違うんだ! アイカにどこの高校を受けるのか聞いたら、その学校の校風が自由で魅力的だったからオレも受けてみようと思っただけで、決して、アイカと同じ高校に通いたからそこを選んだわけじゃない。決して……
この一年、受験の事も含めてアイカとは何度も連絡を取り合っていた。しかし、オレ達のような未成年にとって東京と山口の距離は地の果てのように遠かった。およそ一年振りに会ったのは、寒風吹きすさぶ一月下旬の受験日でのこと。
もっとも、その時は魔法少女アイカではなく、受験の緊張も相まってテンションだだ下がりの斉藤良子だったが。
「今から変身してこようかな……」とか、わりと本気で呟き始めたので、それだけはやめておけ、とオレも本気で止めた。
だから、魔法少女アイカと会うのは、本当に一年ぶりだ。いや、別に嬉しくはない。なるべくなら普通の格好で会いたいのだが、そんな事を聞くアイカであるはずもない……
「勇貴くーん!」
燦々と春の日差しが降り注ぐ中、手を振りながら駆けてくる魔法少女。
「相変わらずの格好だな……」
オレは呆れ返るが、ふと気付く。ただでさえ派手なレースフリルに、さらに派手なラメが入ってやがる。キラキラキラキラと、さらにイタイタしくパワーアップしてやがった……
そんなアイカは、オレの前に来ると、やっぱりやった。腰をひねって片足を上げ、左手は腰に、マジカルステッキを握る右手は頭上に高々と掲げ、そして言い放つ。
「どんな小さな声だって、わたしの心に鳴り響く。世界は愛で回るから! ラブリィウィッチ・魔法少女アイカ。おまたせ!」
「わかったわかった……」
中二病全開のこの感じ、久しぶりに見てもやっぱりイタい……
「……それで、その格好で来たって事は、養護施設の職員さんは、やっとマショカツを許してくれたのか?」
この一年、アイカがマショカツの事を口にする事はなかった。オレも、もし出来ていなかったらと、傷付けちゃいけないと思って触れる事もしなかったのだが――
アイカは、イイ笑顔で答えた。
「全然。まったく」
当然、オレは思わず顔をしかめた。
「おいおい、大丈夫なのかよ……?」
「でもね、施設の子供達は知ってるの。応援してくれているんだよ。だから、みんな職員さんにはナイショにしてくれているの。やっぱり魔法少女はこうじゃないとね」
なんか嬉しそうだなぁ……
「あっ、それからね、聞いて聞いて。わたし、高校に入ったらマショカツ部を作ろうと思うの。マショカツに興味のある子を集めて、みんなで愛の魔法を広げるんだよ」
それ、全然ナイショになってないが?
「それじゃあ勇貴君。せっかく会ったんだから、今からマショカツ手伝ってね」
「また、酔っ払い運びか……?」
いや、今は昼間だからそれはないか。でも、似たような事をさせられるような気がする……
しかし、そんなオレになんてお構いなしに、アイカはオレの手を強く握って言うのだった。
「さあ、世界を愛で回しに行こう!」
〈了〉
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