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軽い刺激
閑話、魔王と英雄
しおりを挟む4月1日
久々にセリスと出会ってから数時間。
冬という季節なだけあっという間に夜になってしまった。
タタタタタタタタと軽やかな音を立てながら真っ暗な中を気持ち良く走る。
長時間走り少し火照った体を撫でる夜風が気持ちいい。
子供の頃から好きだったけど、いくつになっても走る事が楽しいのは変わらない。
とは言っても私達ワービーストは気まぐれな者が多く私もその例外じゃないから気分によるけどね。
「そろそろかな……ヨッ……ハッ……ヨイッショッ!!!」
1回、2回と軽い跳躍から三回目を全力での跳躍で王国と帝国の国境にある壁を軽々と飛び越える。
少し飛び過ぎたね、もう少し前方向に飛べば雲の上まで飛ぶことはなかったのに。
「ん……なあに?私と遊びたいの?」
「お前がセリスとか言う魔法使いか?」
着地を狙って技の斬撃が飛ばされたのでそれを蹴り落とす。
なんか金髪でガタイの良い大男が剣持って挨拶してくれたし遊びたいのか聞いてみたのだけど、どうやら人違いされたみたいだ。
けどさぁ~……白い髪と赤い髪の違いとさ、170㎝とギリギリ150㎝無い私を見間違えるって何なのかねぇ?目ぇ腐ってんの?
あ……もしかしたら魔力量で判断したとか?
剣士からしてみたらどちらも強大な魔力の持ち主という意味じゃ違いなんて無いだろうし……
うん、それっぽい……
この世界、500年ちょっとでだいぶ弱くなっちゃったからねぇ。
「セリス?セリスは私の友達だけど?」
「そうか……セリスと貴様はどちらが強い?」
セリスの強さ?
いや、セリスって意外と泣き虫で臆病で寂しがりやで目を離すとすぐ自分の心を縛り上げて我慢しちゃうからミィお姉ちゃんとしては心配なんどけど……
でも今はメリルがいるなら安心できると思ってて……結論を言うとセリスは弱いんだけどなぁ……
単純な魔力量ならそりゃ凄いけどね。
「う~ん……セリスは今の私の倍以上だね。
あ、一服して良いかい?」
私は返事を聞かず煙筒を取りだし一服する。
「セリスという魔法使いの力は倍以上……?」
……なんかコイツ、ワービーストと同じ臭いがする。
全員がそうじゃないんだけど、ワービーストはこんな感じの奴が多いんだよね。
少なくとも私の生まれ故郷はそんな感じだった。
だけど何か変なの。
初めは構えが変なのかなと思ったけど何か違う気がする。
「では、貴様を倒して魔法使いと戦おうではないか!!!」
「え~……お姉さん、手加減、苦手な、ん、だけど!」
初手の切り落としをバックステップで鼻スレスレで回避、剣が地面に刺さりその足元から熱を持つ岩が飛んできたので煙筒で捌く。
その隙にとでも思われたらしく大振りの横凪ぎが放たれたのでしゃがんで回避しつつ足払い、続けて足だけ魔王化させつつ大きく振り上げ踵落とし。
「ッ!?」
ズガァンッ!!!とただひび割れただけでは起こらない音が響き渡る。
紫の落雷、エレキオーラと私が呼んでいる魔王の力。
魔王の鉤爪が地面に触れた事で魔壊に汚染される。
魔王化すると常にエレキオーラを纏う事になり、それに触れると魔力抵抗の低い者は魔壊に汚染された魔力へ還る。
魔力抵抗の弱い者は魔壊によって空気感染して滅びる恐れもあるため弱者は文字通り魔王に近づくことすらできないんだよね。
私の側に近づけば、私の意思とは関係無く生き物が死滅する。
魔壊に汚染された特有の特徴が地面に現れ、紫色に変色し雷のようなものを発している。
時間と共に消滅するとはいえ二次災害が怖いしさっさと魔壊を私の中へ戻すとしよう。
しかしうん、今の避けてくれたし遊んであげても良いかもね。
弱いくせに遊んでくれなんてワガママ言い出す坊やには死ぬほど痛い目に合ってもらう予定だったけどこれなら魔王の力で終わらせるなんてつまらない真似しなくて良い。
今のでおおよその力量は計れたけど最初から全力で飛んだり跳ねたりしてもつまらないだろうし。
「避けたね偉い偉い。
それくらいできない奴じゃ男とは認めない事にしてるんだよ私は…………フー……」
あぁ煙がうんっまい!
適度に運動した後に煙に混じる魔力と魂の欠片が体に染みる染みる!
これと酒を知らない奴は人生の半分は損してる。
酒なんて半分以上魂の欠片でヤバイくらい染み渡るじゃん。
「いや~、生きてるって幸せだねぇ?
お兄さんもそう思うだろう?」
「……あぁ、かすり傷1つで死は免れんな」
とか言ってるけど嬉しそうに私が狙った頬を撫でてるよ。
頬にかすったら死ぬとでも本気で思ってるの?
「なあに馬鹿な事言ってんのさ、魔壊に侵食されたくらいで死ぬような柔な体じゃないだろうに。
精々死ぬほど痛い目に合うだけだよ」
ん、少し高めに剣を握り直したね。
次は何をしてくるのかな?
ちなみに私の技の基本は回転であり、遠心力と並外れた身体能力を合わせた武術が私の一族が受け継いできた戦い方なんだけど、もう失伝しているだろうね。
たぶん私が最後の使い手。
だが受け継がれていただけあって無駄を省き続けた技術は強いよ!脳みそまで筋肉でできてそうな魔王とは違うのだ!
「ヒートヴェイブ!」
「えっ?」
な……何今の?避けるのギリギリになってしまった。
………いや、本当に何今の?
あんな弱い技放つのに態々技名言わなきゃ放てないの?
確かに技名言えば発動補助や威力強化も狙えるけどフェイクに使うなら態々する必要無いし、半分も速度出してないけど私の機動力を知ってるのだから今使っても案山子同然とわかるだろ。
流石に罠かと思ってギリギリまで回避行動取らなかったから変な避け方になったじゃないか。
「ウオオオオオオオオオッ!!!」
お、気合いの踏み込みからの連撃。
敵を休ませないよう手足、肘すらも追撃として使っていて形として成り立っているのがポイント高いね。
もしかして遠距離技は苦手とか……っと、手に魔力が集まっている、来る!
「フォースフィスト!」
「なぁ!?」
振りかぶり大声で技名を上げる事にビックリした。
フェイントか!?と身構えたが普通に殴ってきた。
軽く受け流し、ついでにコイツの背中を足場に高くジャンプする。
すると、コイツは私を無視して地面を殴り、地面から光のレーザーが私に向かって複数飛んできた。
……うん、技としての繋ぎは悪くないよ?
「下手くそ」
私はそう言って、攻撃が全て直撃した。
「………今のが無傷だと?」
「この下手くそ!魔力量が多い相手にただ力任せに魔力ぶつけたって吸収されるか利用されるだけでしょうが!」
私がした事は簡単。
生きる為に常日頃行う空気を吸い、吐き出すのと同じ行動。
ただ飛んできた魔力を吸い込んで後ろに吐き出した。これだけ。
私が魔王でなかろうとこれくらいできるよ。
せめて属性くらい付け足せばこうはならなかったよ。
最初の斬撃みたいに工夫しないからこうなるんだって。
「あのさぁ……そんな程度じゃ………」
正直、かなり興醒めしていた。
けど目の前の男の眼は死んでいなかった。
むしろ熱くなっていてその闘気は私の背中をチリチリと暖めていると感じさせるもので少し評価を改める。
「……そういえばお姉さんの名前言ってなかったよね?
私はミィ、そこらにいるただの元魔王だよ」
「魔王……その力はホラと捨て去るにはあまりに……
私は剣王等と呼ばれていたが、今はただの挑戦者だろうな……
私は戦士ミカエル、貴女のような強者と闘える事を誇りに思う!」
ミカエルはとても楽しそうにそう言った。
うん、ついにお姉さんの魅力に気付く男が現れたかな?
セリスの世界では血走って狂ったような目をしている奴が多くてこんな熱い視線を向けられて嬉しそうに語られたのは初めてだよ。
「さぁて!攻めてこないならお姉さんから行くよ!!」
「グッ!」
地を蹴り、180度回転し『空』を全力で蹴り雨粒のようにミカエルへ急加速し、魔王化した両足で踏み付けるが避けられる。
「遅い遅い!」
避けたのは良いが建て直しが遅い。
大地に侵食した魔壊を操り、地面が浮かび槍へと変わる。
「ハァッ!」
良くしなる槍を見切り横凪ぎを良くぞ防いだ。けど……
「ッ!?」
槍は鎌へと姿を変え、ミカエルへと刃が伸び髪を切り裂くだけでこれも避けた。
避けながらミカエルの目線は私の目から外れない。
良いね、それ。弱いからって思ってたけど良い!
その熱、ずっと昔に忘れてしまっていた。
闘いとはこれ程楽しいものだったんだって。
悪いけど、今の私は休ませてあげられる気はしないよ!
「なっ!?」
一歩目、とびっきり遅く、けれどミカエルから見て違和感の無いように。
二歩目、足が地へ付く前に空で踏み出した。全力で。
最初の踏み付けですら全力の半分も速度を出していなかったのだから、今の速度はミカエルにはどう見えてるんだろうねぇ?
「シッ!」
「つ・か・ま・え・た」
フェイント8回、ミカエルは見事に空振りしたので槍を捨て抱き締め、そのまま空中へ飛び出し私を中心に高速回転する。
「天舞大車輪ッ!!!」
私もされたことあるから分かるけど、ミカエルは上も下も分からなくなってね、方向感覚を失い地面に叩き付けられるのはとにかく痛いんだよねぇ。
実際ミカエルは頭を守り、私はそれを見て背中から叩き付ける事にした。
この技の強味はここで、予想可能防御不能さ。
痛みが来ると分かってても、どこから来るか分かってないと怯むものだ……
「ハァッ!!!」
「ッ!?」
なっ……全然怯まない!?
今のは相当な痛みのはず。どこから来るかわかってなければセリスだって怯む一撃だってのに。
「ブレイブフォースッ!!!」
ミカエルの空気が変わった。
身体強化系の技だろうけど……
「ガァッ!!!」
「遅い遅い、そんな大降りじゃ背中ががら空きだよ?」
的確に低空横回転蹴りが背中に当たった。
「クッ!」
「すぐに復帰するんだ、堅いねぇ~♪」
うん、だいたいミカエルから感じた違和感がわかった。
ミカエルは私やセリスと同等な力を持ち得る存在だろう。
けれど、ミカエルは強者に恵まれなかった。
ミカエルは本当の実戦。
苦戦はするが勝てる事がわかっている戦いではなく、自分が死ぬ可能性が高い戦いをあまり知らないんだと思う。
それこそ技や魔法が下手でも勝てるくらいに強すぎてさ。
だから普通の人には理解できないけど、私にはそれに出会えた事へのミカエルの喜びが理解できる。
だけどさ……
「そんな生き生きとした嬉しそうな目で見ないでよ、照れちゃうじゃないか」
笑みを浮かべつつも決死の覚悟すら灯したら瞳が私の動きを捕らえようと見詰めていて、つい私の頬が熱くなっているのが分かる。
うん、こう言う己のプライドを掛けてこの瞬間を楽しむような戦いなら大歓迎だね。
セリスの世界では常に何かを競っているようで、そこに喜びはあったものの楽しいと言うものは見失っている奴が多すぎる。
「ごめんね、私はまだ技を殆ど使ってないんだよ。
ミカエルは私が見た中でも9種は使用してるよね?」
私が使ったのは技術、技は肉体や武器を使った魔法であり魔力を変換させて使わなければ技とは言えない。
私が空を蹴るのは空気中の魔力を蹴っているだけ。
コツは違うけど水の上を走るのとやり方は変わらない。
これは技ではなく技術なんだよ。
「ちょっと失礼すぎた気がするから謝らせて。
変わりに……今から私の基本にして最強の技を叩き込むから死なないでね?」
私も楽しい気持ちが一杯になっていて自然と頬がつり上がるのを感じる。
「行くよ!」
ドンッ!と地を踏み締め魔法を使い、周囲に岩盤を複数出現させて準備オッケー!
「神獣の爪!」
地を蹴り回転する。
ただし技を使っているので先程までと比べ物にならない回転速度で、私が通った後は鋭利な刃物で切られたよう線が残る。
ミカエルは横に飛び回避するけど……
やっぱり実戦不足。
私の技、神獣の爪は私自身を神獣の牙に見立てている技でね、つまり私は神獣の頭部なんだよね。
それを横に回避するって事はまぁ……
「うん、予想道理の結末だね」
周囲から不規則に襲いかかってきた神獣の爪の餌食になり血塗れで倒れている。
ミカエルは血塗れで全身を刃物で切られたような跡があるのだけど、致命傷も無ければ全てが急所から外れている。
意図的に急所だけは死守したんだろうね。
「お~い、生きてる~?
傷は浅いんだからショック死しないで生きててくれ~」
側でしゃがんで揺らしていた時、ミカエルの傷がもう既に塞がりかかっている事に気が付いた。
「おお凄いなお前!
よし、後で飲むつもりだったけど特別に私のお酒をくれてやろう」
収納魔法から取り出したセリスからちょっと拝借した焼酎の蓋を開けてダバダバッとミカエルに浴びせる。
ミカエルが苦痛に感じたのか唸り始めるが消毒は大切だ。
「ん……セリスよりも大きいだけあって背負い難いな……」
気絶している190㎝くらいありそうなミカエルを背負い、夜道を再び駆け出した。
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