『半魚囚人ジル』 深海監獄アビスロックからの脱出

第二章 深淵を裂く影の侵攻

CHAPTER24『波乱の予兆』

新たなる囚人たち──沈黙の牙の洗礼


巨大な護送艦『ネプチューンズ・コフィン』がアビスロックの第一階層に到着した。重い鉄扉が開かれると、新たに連行されてきた囚人たちがぞろぞろと階段を下り第二階層へと押し込まれていく。
そこには腕組みをし、不敵な笑みを浮かべる沈黙の牙の幹部の姿があった。


【キャラクター紹介：デューガン】
種族：ゴマモンガラ魚人
所属：沈黙の牙 幹部
性格：横暴かつ冷酷非道。囚人の支配を力によって徹底的に行う。
能力：強靭なアゴと牙を生かした噛み砕き攻撃。腕力も非常に高い。

デューガンは新入りたちを見下ろしながら、大声で宣言した。
「おい新入りども、よく聞け！ここアビスロックは俺たち『沈黙の牙』が支配している。てめぇらが長生きしたいなら俺たちに絶対服従だ。分かったな？」


囚人の一人が反抗的に前に出る。
「ふざけんな！誰がテメーらに従うか！」

次の瞬間、デューガンの鋭い牙が囚人の身体を無残に噛み千切った。
「…他に意見のあるやつは？」

囚人たちは怯え、うつむく。しかし、その中にはまったく動じない者たちも数人いた。


不敵なる新入り──濃藍色の異端者

その中の一人、ダークネイビーブルーの肌を持つ若い囚人が、傍に立つ囚人に静かに尋ねた。
「…おい、この監獄はどんな場所なんだ？」


囚人は怯えながらも答える。
「ここは地獄だ…。今の『沈黙の牙』に加え、『霧の幻影』、『深海の狂気』、そして最近勢力を広げてる『蒼海の解放軍』の四つの派閥がこの牢獄で力を争っている。
一時壊滅した『深海の狂気』は最近、さらに凶暴になって復活した。俺たちは巻き込まれるだけだ…」

若い囚人は薄く笑った。
「へぇ…そいつは面白そうだな」

【キャラクター紹介：アルデン】
種族：クロマグロ魚人
所属：元海賊団『黒潮』
性格：好戦的だが冷静沈着で知略に長ける。常に余裕ある態度で周囲を観察している。
能力：圧倒的なスピードと強靭な筋力、素手による高速連撃が得意。
備考：海洋を荒らしまわった大海賊団『黒潮』の元メンバー。政府軍に壊滅させられ本国の監獄に収監されていたが、中で暴れて騒ぎを起こした為、アビスロックへ移監させられた。

アルデンは薄い笑みを浮かべながら、自分の居場所を見定めようとしていた。


霧の幻影の拠点──影虎との会談

その頃、ジルたちは霧の幻影の拠点に到着していた。拠点の奥に入ると、影虎が座る横には回復したゼオンの姿があった。

「ゼオン！体はもう大丈夫なのか？」

ゼオンは穏やかに頷いた。
「ああ、影虎のおかげでな。今後のことを話し合っていたところだ」

影虎はジルたちに問いかける。
「第三階層で何があった？」


ジルは第三階層で起きた出来事をありのままに説明した。影虎は険しい顔になる。
「…やはり『魚人兵器』を作っていたのか」

ゼオンも怒りを隠せない様子だ。
「奴らは許せん…だが、この非道な計画の首謀者はギルバートではない。政府内部の誰かだろう。おそらくは…政府高官の中でも特に狡猾な男、『バルデマー』だ」


タイタンは不敵に笑った。
「ほんなら、監獄をぶち壊して外に出て、そのバルデマーとやらに直接喧嘩売るしかねえのう！」

バレルも力強く同意した。
「まったくだ。監獄ごとひっくり返して、政府をぶっ潰そうぜ！」

しかし影虎は冷静に制した。
「いや、その為にはまだ準備が足りん。囚人たちをまとめ、十分な力を蓄える必要がある」

ジルも影虎に同意する。
「ああ、俺たち『ブルータイドリベレーションズ』もまだまだ力不足だ。もっと強力な仲間を集め、囚人たちを一つにまとめなければならない」

影虎はジルの言葉に微かに笑みを浮かべた。
「その通りだ。すべての準備が整ったとき、この監獄の秩序は完全に崩壊し、政府をも揺るがすだろう」


影虎の言葉に一同は決意を新たにした。


第二階層では、新たな囚人たちの到着とブルータイドリベレーションズの活躍によって、さらなる混乱と期待が渦巻いていた。
新たな力を秘めた囚人、アルデンの登場。そしてジルたちの目指す監獄脱出への道──。
 アビスロックに静かに響き始めた激震は、徐々にその規模を拡げつつあった。
そして──ついに『霧の幻影』と『蒼海の解放軍』は、共通の目的のために手を組むこととなるのだった。



沈黙の牙──新兵の到着

デューガンが沈黙の牙の拠点に戻ると、その背後には連れてきた新人囚人が十人ほどいた。しかし、その中にはアルデンを含む数人の姿がなかった。

デューガンは肩をすくめて不機嫌そうに言った。
「チッ…もう少し頭数はいたはずだが、途中で何人か逃げちまったみたいだな」

ドゥームは目を閉じ、静かに口を開いた。
「まぁいい…ここに辿り着けん弱者など役にも立たん」


その場にはドゥームを筆頭に、ローレンス、ウルス、カイゼルら幹部が勢揃いしていた。

力を試す者──巨大魚人の挑戦

新人たちの中でも特に巨大な魚人が、他の囚人たちを押しのけて前に出た。
【キャラクター紹介：グラッド】
種族：アブラボウズ魚人
所属：元賞金稼ぎ
性格：豪放磊落で力に絶対の自信を持つ。誰にでも挑戦を挑み、強者に従う主義。
能力：巨大な体躯から繰り出す一撃は壁をも粉砕する。
備考：自分が納得できる相手にしか従わない。自らの力で頂点を狙う。

グラッドは低く唸るような声で堂々と言った。
「この中で一番強いのは誰だ？俺がそいつを倒したら、俺がボスになるってことでいいよな？」

その傲慢な態度にウルスが怒り、牙をむき出しにしながら前に出る。
「新入りの分際で舐めた口利くじゃねえか…。俺が海の底に沈めてやろうか？」

しかしその瞬間、ドゥームが冷たく前へ出た。
「下がっていろ、ウルス。俺がここのボスだ。…かかって来い」


圧倒的な差──ドゥームの実力

グラッドは巨体を揺らし、全力で拳を振りかぶる。空気が震えるほどの一撃がドゥームを襲った。

しかし──

ドゥームは片手でその拳を受け止め、何の動揺も見せずに強く握り締めた。
「…ほう、多少は力があるな」

グラッドは歯を食いしばり、自由なもう一方の拳で追撃を繰り出すが、ドゥームは軽く横に頭をずらし避ける。
「こんなもんじゃねえぞ！」

グラッドは体を回転させ、その遠心力を利用した強烈な蹴りを放った。その威力に周囲の囚人たちはどよめき、地響きが拠点に響いた。だが、ドゥームはそれすらも片腕で軽々と受け止める。
「…本気でやってるのか？」


「くそがァァッ！」
グラッドは怒りに任せて再び拳を連打する。だが、そのすべてをドゥームは冷淡な表情のまま的確にいなし、まるで子供の戯れを受け流すように対応した。

その時、ドゥームが初めて攻撃に転じた。目にも止まらぬ速度の強烈な蹴りがグラッドの腹に深々と食い込む。

「ぐ…ガァァッ！！」
激しい衝撃で吹き飛ばされたグラッドは壁に激突。壁に巨大なヒビが走った。

ドゥームは冷たく見下ろし、挑発するように言う。
「さぁ、もう一度来い。俺が本物の力というものを教えてやる」

グラッドは立ち上がり、再びドゥームに襲いかかった。渾身の一撃を繰り返すが、その攻撃はことごとく避けられ、反撃の拳が容赦なくグラッドの体を貫く。ついにグラッドは膝をついた。

認められた力──幹部への抜擢

愕然とするグラッドに、ドゥームは薄く笑いかける。
「だが、お前の拳は悪くない。俺の下で幹部として働く資格はあるようだな」

グラッドは少し息を整えた後、素直に認めるように頷いた。
「…わかったぜ、アンタの下につく」


その時、一人の部下が慌てた様子で拠点に駆け込んできた。
「ドゥーム様！拠点の一つが深海の狂気に潰されました！」

ドゥームの眼が鋭く光る。
「…そうか、バシリスクたちが動いたようだな。ならばすぐに出るぞ。奴らに我々の力を思い知らせてやれ」

ウルスとローレンスも不敵に笑い、即座に動き始めた。


報復の炎──沈黙の牙が動き出す
沈黙の牙がついに全面的な報復に打って出る。
 アビスロック第二階層は、再び激しい抗争の炎に包まれることとなるのだった──。