『半魚囚人ジル』 深海監獄アビスロックからの脱出

アオミ レイ

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第三章 政争の導火線、監獄の鼓動

CHAPTER46『蘇る暴虐』

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視察団を取り囲む混沌の渦――

怒号と鉄音が交錯する戦場を、ひときわ鋭く切り裂くように一頭の野獣が駆け抜ける。

「邪魔じゃい!!」
轟く声とともに、オルドが巨体を揺らして突撃してくる。
その手に握られた鉄製の棍棒が、シャドウレギオンと思わしき囚人と裏切りの看守たちを次々と薙ぎ倒していった。
砕けた壁の破片が飛び散り、血と悲鳴が後を追う。
 
怒涛の突破を繰り広げながら、オルドは後方のギルバートを引き連れ、混戦をかき分けて進む。
そして、レインハルトの位置へとたどり着く。

そこには、一瞬たりとも警戒を解かぬゼルファードの姿があった。
両手にレイジトンファーを構え、睨み据えるのは二人の刺客――ノーザンとレザリオン。

片や狂気を宿した剣士。片や、長きにわたり偽りの忠誠を演じてきた沈黙の刃。
ゼルファードの額には汗が滲んでいた。

辿り着いたギルバートへ、視線を逸らさぬまま低く言葉を投げる。
「……ギルバート。俺は……レインハルト様を守らなければならない、こいつらの始末を頼んでもいいか」

ギルバートは短く頷く。
「――もちろんだ」

ゼルファードの目がわずかに細められ、苦笑めいた息が漏れる。
「……だが、こいつらはなかなか厄介だぞ」

ギルバートは目の奥に鋭い光を灯しながら、静かに言い放った。
「ならば――すぐに終わらせよう」

 
――その時

空気を切り裂くような風鳴りが、戦場の一角から響いた。

「おりゃああッ!!」
叫びとともに、高く跳躍する影。

ジル――トビウオ魚人がその種族の力を最大限に活かし、乱戦のただ中へと飛び込んだ。
跳躍の勢いそのままに、鋼鉄と化した右腕を振りかぶり――
「沈めえッ!!」

その拳が、グレンダルと斧を打ち合っていたガルヴォスの背中に炸裂した!

「グフッ……!」
衝撃音とともに、ガルヴォスの巨体が壁際まで吹き飛ばされる。重厚な身体が石壁に叩きつけられ、石片が飛び散った。

地に降り立ったジルが、叫ぶ。
「おまえらが……シャドウレギオンだな!!」

その拳を強く握り締め、続けた。
「おまえらの好きにはさせないぞ!俺たちが蒼海の解放軍(ブルータイドリベレーションズ)だ!!」

その言葉に、数人の兵士が息を呑んだ。

ガルヴォスはゆっくりと身を起こし、口元から赤い血をぬぐった。
そして、にじむ痛みにも顔をゆがめず、低く呟く。
「……チッ。何だこいつは…」

想定外の乱入に、内心の焦燥が滲む。
(クソッ……無傷で“持ち帰ろう”と思っていたが……そうも言ってられんな)

ガルヴォスは静かに手を首元へ――
首飾りに触れるその仕草に、僅かな異様な気配が立ち上った。


ノーザン、レザリオンVSギルバート、オルド

「……ノーザン、久しぶりだな」
レザリオンが、感情のない声で隣に立つ巨漢に語りかける。

「……ああ…レザリオンか……」
ノーザンがゆっくりと首を傾げ、目を細める。
「……久しぶりだな……こいつらは……強くて……面白いぞ……」

「そうか。相変わらずだな……そこの年老いた男を殺して、すぐに終わらせよう」

「……うん。わかった。終わったら……また、遊ぼう」

「……そうだな」
そう返したレザリオンの声が途切れると同時に、彼の姿が霞んだ。
構え直されたショートブレードが、風を裂いてレインハルトへと迫る。

――しかし、その前に立ちはだかる影があった。
「おっと、こっから先は通さへんで、兄ちゃん」
鉄棍をぶんと振るいながら、オルドが笑みを浮かべてレザリオンの前に割って入る。

土埃が舞い上がり、戦場の空気が一段と張り詰めた。
レザリオンは微動だにせず、無表情のままショートブレードを構え直す。

その一方――
ノーザンが、逆方向からゆっくりと歩を進め始めた。

次の瞬間、彼の姿が風とともに消えた。

「――ッ!?」
視界が追いつかない速さ。

ノーザンはレインハルトの死角から一気に跳び込み、剣を振り抜こうとした――

だが――

「……随分と粗末な武器だな」
無造作に伸ばされたギルバートの手が、骨剣の刃を掴んでいた。

「……!」
ノーザンが目を見開く。

ギルバートは眉一つ動かさず、静かにそのまま剣を引き抜こうとする。
しかし――ノーザンの腕にも、とてつもない力がこもっていた。
「……これは……ランスロットが……くれた……竜の…背骨からできた剣だ……おまえには……渡さない……!」

「……竜だと!?」
ギルバートの目がわずかに見開かれた。
その瞳が一瞬だけ鋭く揺れる。


直後、ノーザンが咆哮とともに鉄鱗をギルバートに向けて放つ。
鉄のウロコが猛射のように飛来するが――


「……フン。厄介か……なるほどな」
ギルバートは微動だにしなかった。

鉄鱗はその皮膚に弾かれ、まるで木の葉のように地面に落ちる。

「だが私にとっては……子供とおもちゃで遊んでいるようなものだぞ」
ちらりとゼルファードを横目に見ながら、ギルバートが右拳を握りしめた。

そして――

「せいぜい……あの世で遊んでろ」

バキィィィッ!!

拳がノーザンの顔面を捉えた。
凄まじい音と衝撃。ノーザンの巨体が宙を舞い、まるで砲弾のように数十メートル先の壁へと叩きつけられた。
「……ッ……グッ……」
壁が崩れ、ノーザンが瓦礫の中へと崩れ落ちていく。

(……これが、アビスロックのギルバートか!)
ゼルファードが目を見張る。

その拳一発でノーザンを数十メートル吹き飛ばした衝撃は、言葉以上の説得力を持っていた。


ギルバートの背後――

オルドは棍棒を振り回しながら、レザリオンへと間合いを詰めていく。
「へいへい、来ぉへんのか、坊や。おっちゃんが遊んだるぞぉ?」
底知れぬ笑みを浮かべつつも、全身から放たれる威圧は鋭い。

レザリオンは微動だにせず、冷たくその動きを見据えていた――

その死角、
素早く飛び込んできたのは、鉄杭を握りしめたベルクだった。


「ッ!」
轟音を響かせ、ベルクの鉄杭がオルドの棍棒に激突する。

ゴギィィィン!!!

重金属同士の衝突に、周囲の空気が振動した。

「おぉ、ベルク~……おまえ、敵やったんやなあ!」
オルドが笑いながら棍棒を振るい、ベルクの攻撃を強引に弾き飛ばす。

「仏頂面で気に喰わん思とったがなぁ……堂々と叩き潰せるんは、気持ちええわッ!!」

バゴォッ!!

肩口に叩き込まれた重い一撃に、ベルクの体が揺れる。
「……クッ!」
呻き声を上げながらも踏みとどまるベルク――


だがその一瞬の隙を、レザリオンは見逃さなかった。
(……ベルクの作ってくれた隙……無駄にはせん)

風のように舞う黒衣。
その身が再びレインハルトの懐へと滑り込む。

シュバッ!

鋭く放たれたショートブレードが、空を切る――

だが、再びそれを阻んだのはゼルファードだった。
レイジトンファーが交差し、刃の進路を正確に抑える。

火花が散り、二人の目が交錯する。

「……ミルド、貴様……よくも我々を欺いてくれたな」
抑えた怒りを込めて告げるゼルファード。

対するレザリオンは、あくまで淡々と呟く。
「…仕事はちゃんとこなしましたよ……そして、これこそが……真の私の仕事なんですよ」

その声音に、感情は一切なかった。
まるで定められた手順をなぞるだけのように、冷静で静かな決意がそこにはあった。

「……フン」
ゼルファードが鼻を鳴らし、両手のトンファーにじわりと力を込める。
その瞳に浮かんだのは怒りでも驚きでもなく――ただ、護るべき者を前にした覚悟。

ジル、ヴォルグ、タイタン、アルデン、モーリス、グレンダルVSガルヴォス、??

「ジルッ!!」
仲間たちの声が混戦の中から響いた。

乱戦をかき分け、ヴォルグ、タイタン、アルデン、モーリスが、血に塗れた戦場を駆けてくる。

「ふぅ……ジル、おまえ…そんなに高く飛べたんじゃのう……!」
タイタンが驚きの声を上げる。

「すげぇ跳躍力だな」
アルデンが目を細めて笑いながらも、すでに全身に戦意をみなぎらせていた。

ジルは仲間たちをちらと見るだけで、目線を逸らさず前を睨み据える。
その視線の先には、ガルヴォス。冷ややかな眼差しでこちらを見返していた。


そして――

「……フッ」
ガルヴォスが、ゆっくりと首飾りに手を添える。その仕草だけで、場の空気がひりついた。

(首飾り……!? まさか……!)
ジルの心に一瞬、警鐘のような直感が走る。


  ――ドカンッ!!

突如、背後で凄まじい衝撃音が鳴り響いた。

振り返った仲間たちの目に映ったのは、片膝をついて傷を押さえていた護衛のグロックが、何者かに背後から吹き飛ばされる姿だった。
巨体が弾き飛ばされ、地面を数メートル転がる。


その先に、ぬうっと立ち塞がる影――

「……ッ!」
轟くような足音。
ゆっくりと現れたのは、全身を鋭い筋肉と殺気で包んだ異形の魚人だった。

「こ、こいつは……!?」
グレンダルが顔を引きつらせ、咄嗟に声を上げる。

【キャラクター紹介:ゼオルク】
種族:バラクーダ魚人


所属:シーヴァント(現在は政府の極秘実験により「魚人兵器」となる)


背景:アクア・ドミナ本国で発生した「ネザリア騒乱」の首謀者。政府軍施設を襲撃し、将校・技術者を含む多数の死傷者を出した凶悪犯。
 反政府思想を掲げたが、その行動はあまりにも暴力的かつ過激であり、速やかに逮捕・死刑に処された。



砂煙の中から、鋼のような肉体を持つ異形の魚人が姿を現した。
剥き出しの筋肉、縫い合わされたような皮膚、無感情な双眼――
それは、もはや“生物”というより“殺戮のために再構築された兵器”のようだった。

「グレンダル! こいつは何者だ!? 魚人兵器か!?」
ジルが怒鳴るように問いかける。

その声にも、戦場の空気にも動じることなく、異形はただ立っていた。


「……こいつは……」
グレンダルが唸るように呟く。
「政府海軍本部を襲撃し、将校含む数十名を殺害した……【ネザリア騒乱】の首謀者、ゼオルクだ」

ジルの目がわずかに見開かれる。
「即刻処刑され……数日前、C-7に送致されたばかりだった。だが――すでに魚人兵器化が完成していたとは……!」


「なんだと……!」
ジルが拳を握りしめる。

「そういや……」
アルデンが思い出したように呟く。
「この前、バラストが言ってたな。『本国で騒ぎがあった』って……まさか、こいつのことだったのかよ」


そんな彼らの会話などまるで耳に入っていない様子で、ゼオルクは虚空を睨みつけていた。
「……どこだ、ここは……ッ!」

目を見開き、肩がピクリと痙攣する。
「……クソッ、ドレイコスめ……ッ!!」

怒号と共に吐き捨てた名は、政府の現海軍大将――かつてゼオルクと因縁を持った男の名だった。

「……貴様らも、俺の敵か……!」
血走った目が、ジルたちを順に捉える。

「いいだろう……! 蹴散らしてくれるわァッ!!」
轟音とともに、ゼオルクが地面を踏み砕くように突進を始める。

「来るぞ!!」

ヴォルグが鋭く叫ぶと同時に、戦線が再び燃え上がる――


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