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第一章 監獄に吹く新たな風
CHAPTER 10『影兵団・シャドウレギオン』
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深海監獄アビスロック 第二階層──霧の幻影の拠点へ
ジルたちは、ヴィクターの抹殺という 影虎との取引 を果たし、霧の幻影の拠点へと向かっていた。
ガレオンが先導し、ジル、バレル、ヴォルグ、レクスの四人がその後ろを歩く。
「ようやく一息つけるな……」
バレルが 肩を回しながら ぼやいた。
「とはいえ、ここが本当に安全かどうかは分からねぇがな」
ヴォルグが慎重な様子を見せる。
「少なくとも、沈黙の牙の勢力がこの場には及ばない。影虎様が拠点を維持できている限り、ここは監獄内で最も安全な場所の一つだろう」
ガレオンは淡々と説明する。
「だが、忘れるな。我々とお前たちは、あくまで利害の一致による協力関係だ」
「……わかってるさ」
ジルは静かに答えた。
「それに、こっちにもまだ話がある」
ガレオンが目を細める。
ジルは一歩、ガレオンに近づいた。
「俺たちは影虎に会う。ゼオンの元に行かせてもらうためにな」
影虎との交渉
霧の幻影の本拠地──影虎の居室
影虎は、ジルたちを じっと見つめながら 静かに言った。
「お前たち、約束は果たしたな。ヴィクターを討ち、沈黙の牙に打撃を与えた」
「なら、こっちの要望も聞いてもらおう」
ジルが 鋭い眼差しで影虎を見据える。
「ゼオンに会わせてもらう」
影虎は 表情こそ変えなかったが、一瞬だけ沈黙した。
「……ゼオンに会って、何をするつもりだ?」
「話がしたい。それだけだ」
影虎は 椅子に腰を下ろし、指を組んだままジルをじっと見つめた。
「ゼオンは俺たちにとっても重要な存在だ。……約束を果たしたとはいえ、お前が何を企んでいるのか、慎重に見極める必要があるな」
「何も企んでねぇよ」
ジルは即答する。
「……俺は、ただ確かめたいだけだ」
その目はまっすぐに影虎を見据えていた。
「かつて俺がいた組織が、どうして潰れたのか。ゼオンが、どうやって生き延びたのか……そして、あのとき俺たちが信じていたものは、今もどこかに残ってるのか――」
声は静かだが、言葉の奥に強い意志がにじんでいた。
「それを、ちゃんと本人の口から聞いておきたい……それだけだ」
影虎は ジルの目を見つめ続ける。
そのまま、数秒の沈黙が流れた。
やがて、影虎は ふっと小さく笑った。
「……わかった。ゼオンに会わせてやる」
「……!」
ジルの表情が わずかに動いた。
「ただし」
影虎が 指を一本立てる。
「ゼオンは今、安全な場所に隔離されている。殺されかけたばかりだ。余計な刺激は与えるな」
「……了解した」
ジルが 静かに頷く。
影虎はガレオンに目配せし、ガレオンが 再びジルたちの先導を務める ことになった。
霧の幻影の拠点──隔離された療養区画
霧の幻影の拠点の奥、比較的静かで隔離された区域があった。
ガレオンは扉の前で 立ち止まる。
「ここだ」
ジルたちが中を覗くと、部屋の奥に 一つの影が座っていた。
「……ゼオン」
ジルが ゆっくりと部屋に入る。
ゼオンは 壁にもたれかかりながら目を閉じていた。
しかし、ジルの声を聞いた途端、彼は 微かに笑みを浮かべた。
「……久しい友の声だな」
「……!」
ジルは 息をのんだ。
「ゼオン……」
【キャラクター紹介:ゼオン】
種族:トラザメ魚人
所属:元ブルータイドのリーダー
性格:冷静沈着で知略に長け、仲間を大切にする理想主義者。
特徴:高い指導力 を持ち、多くの仲間を束ねていた。戦闘センスが優れ、素早い動きと精密な攻撃を得意とする。
備考:政府にとって危険視され、深海監獄の第三階層に幽閉されていた。沈黙の牙の暗殺者に狙われたが、影虎によって救出される。ブルータイド壊滅後も「自由」の可能性を信じ続けている。
ジルのかつての上官であり、 彼にとって最も影響を与えた存在の一人。
ゼオンの生存が判明したことで、 ジルの戦う理由にも変化が生まれる可能性がある。
ゼオンは ゆっくりと目を開け、ジルを見た。
「お前が生きているとはな…」
「それは……こっちの台詞だ」
ジルの 拳が震えた。
「あんたが死んだと聞かされていたんだ……ずっと」
ゼオンは ゆっくりと息を吐く。
「ブルータイドが潰されたあの日……俺は捕らえられ、深海監獄の最下層に幽閉された」
「最下層……第三階層か」
バレルが 低く呟く。
「そうだ」
ゼオンは 目を閉じ、一瞬だけ沈黙する。
「そこには、俺以外にも……政府が決して外に出したくない者たちが閉じ込められていた」
「……ゼオン、お前はどうやってここまで来た?」
ジルが 真剣な眼差しで問う。
ゼオンは ゆっくりと目を開き、ジルを見つめた。
「影虎が、俺を助け出した」
ゼオンは 静かに頷く。
「沈黙の牙の幹部の一人が、俺を抹殺しにやってきた。刃が喉を掠めた瞬間、、影虎が現れた」
「……影虎が、あんたを守ったのか?」
ジルの 表情が険しくなる。
「霧の幻影は、ゼオンの命を利用するつもりなんじゃないのか?」
ゼオンは わずかに笑った。
「お前らしいな……そんな風に考えるとは」
「……」
「影虎の目的は俺にも分からないが、少なくとも俺は命を救われた。今はそれで十分だ」
ジルは ゼオンの言葉を噛みしめるように聞いた。
「……ゼオン、あんたはこれからどうするんだ?」
ゼオンは一瞬だけ視線を遠くにやり、やがてジルをまっすぐに見た。
「怪我が治ったら……しばらくは霧の幻影に世話になる。影虎の手伝いをしながら、身体を整えるつもりだ」
そして、ふっと口元を緩める。
「お前は……まだ自由を諦めていないな?」
ジルは 強く頷いた。
「当然だ」
ゼオンは 微かに微笑んだ。
「……なら、お前は俺の最後の希望かもしれないな。この監獄の中で、自分の意志で動ける者はそう多くない。だが、お前なら――世界を変える力がある」
ジルの目が鋭く光る。
「ブルータイドの火は、まだ消えてねぇ!……ゼオン、あんたも俺たちと一緒に、この監獄を抜け出そう!」
ゼオンは静かに目を閉じた。
「……ああ」
その声は低く穏やかだったが、凍りついていた心に、わずかな炎が灯ったようだった。
ジルの目は真っ直ぐにゼオンを捉える。
「……ところでゼオン、俺たちは…なぜあの時、政府に集中的に狙われていたんだ?」
ゼオンは わずかに微笑を浮かべ、肩をすくめる。
「ふっ……お前らしいな、ジル。会って早々、核心を突いてくるとはな」
ジルは 黙ってゼオンの言葉を待った。
ゼオンは ゆっくりと口を開く。
ブルータイドが政府に狙われた理由
「……俺達は、政府の"影の兵団・シャドウレギオン"の存在を知ってしまった」
その言葉に、バレルが 怪訝な表情を浮かべる。
「影の兵団……?」
ゼオンは わずかに表情を曇らせながら続ける。
「政府は表向きには、正義を掲げ、治安維持のために"秩序を守る軍"を持っている」
「だが、その中に 政府の意向とは別に動く"影の兵団"を組織した高官がいた」
ヴォルグが 鋭い目を向ける。
「……つまり、政府内部の一部の者が独断で軍隊を作っていたということか?」
ゼオンは 頷く。
「その通りだ」
ゼオンの目は 鋭く光っていた。
「そいつらは 政府の決定とは関係なく、独自の利益のために戦争を引き起こし、支配を強めようとしていた」
バレルが 信じられないという表情を浮かべる。
「クソ……そんなもん、完全に私利私欲じゃねぇか」
ゼオンは 苦い笑みを浮かべた。
「そうさ……だが、それを止める者はいなかった」
「そして、俺はそれを暴こうとした……だが、先に動かれた」
政府に捕えられるまで
「俺とブルータイドの幹部数名は、"影兵団・シャドウレギオン"に関する証拠を集めていた。奴らの資金の流れ、訓練施設、指揮系統……すべてを明るみに出す準備をしていた」
「だが…… ブルータイドの動きを察知した奴らが、先に攻撃を仕掛けてきた」
ゼオンは 悔しそうに奥歯を噛む。
「俺は奴らの拠点の一つを襲撃し、重要なデータを手に入れた。その瞬間、 影兵団の指揮官である政府高官が俺を危険視し、すぐに動いた」
「俺の周囲にいた者たちは次々と姿を消し、情報提供者は"事故"や"病気"で死んでいった……そして、 俺自身も奴らの精鋭部隊によって捕えられ、ブルータイドは総攻撃を受けた」
ジルは 静かにゼオンの言葉を聞いていた。
ゼオンは 低く笑う。
「……お前たちも知っているだろう。政府は、"処刑するよりも幽閉する"ほうが都合のいい時がある」
ヴォルグが 冷静に分析する。
「だから、お前はこの監獄に送られた、ということか」
ゼオンは 頷く。
「そういうことだ。政府は、俺がここで"消える"ことを望んでいた」
ゼオンは乾いた笑みを浮かべ、かすかに肩をすくめた。
「……奴らも分かってたんだ。俺を処刑すれば、それが引き金になるってな」
ジルが目を細める。
「引き金?」
「ああ。表向き、ブルータイドは“反乱分子”扱いされてたが……国内外には、俺たちを支持する動きもあった。自由を掲げて戦った組織ってのは、そう簡単に『悪』のレッテルは貼れない」
ゼオンはゆっくりと手を広げた。
「だからだ。公開で殺せば“正義の象徴を粛清した”って噂が世界中に広まる。下手すりゃ、英雄扱いだ。政府にとっちゃ、それは最悪の展開だからな」
ヴォルグがうなった。
「……だから、お前は“殺される”んじゃなく、“消される”道を選ばれた」
ゼオンは無言で頷いた。
そして目を閉じる。
「この深海で朽ちれば、誰の記憶にも残らない。最初から存在しなかったように……それが奴らの狙いだった」
ジルの決意
ジルは ゼオンの話を聞き終え、ゆっくりと口を開いた。
「……政府内部に、そんな軍隊を動かしている奴がいるとはな。そしてそいつらがブルータイドを壊滅させたのか…」
ゼオンは ジルを見つめる。
「俺は消される運命だった。だが、まだ生きている」
ジルは目を閉じ、考え込んだ。
(ゼオンが知った真実は、世界の裏側で渦巻く陰謀のほんの一部かもしれない。だが……これを知った以上、俺たちはどう動くべきか?)
静かな沈黙が続く。
そんな中、ゼオンが ゆっくりとジルに語りかけた。
「……ジル、お前はどうする?」
ジルは ゆっくりと目を開き、ゼオンを見据えた。
「俺は…この監獄の中で、何が真実なのかを見極める」
「そして…… 俺たちは、俺たちの意志で動く」
ゼオンは 微かに微笑んだ。
「……それでこそ、お前だ」
ゼオンの話を聞いたジルたちは、政府の闇が 想像以上に深いことを知った。
この監獄は、単なる囚人の収容施設ではない。
ここには 政府の影が息づき、真実が封じ込められている。
ジルたちの戦いは、まだ始まったばかりだった──。
ジルたちは、ヴィクターの抹殺という 影虎との取引 を果たし、霧の幻影の拠点へと向かっていた。
ガレオンが先導し、ジル、バレル、ヴォルグ、レクスの四人がその後ろを歩く。
「ようやく一息つけるな……」
バレルが 肩を回しながら ぼやいた。
「とはいえ、ここが本当に安全かどうかは分からねぇがな」
ヴォルグが慎重な様子を見せる。
「少なくとも、沈黙の牙の勢力がこの場には及ばない。影虎様が拠点を維持できている限り、ここは監獄内で最も安全な場所の一つだろう」
ガレオンは淡々と説明する。
「だが、忘れるな。我々とお前たちは、あくまで利害の一致による協力関係だ」
「……わかってるさ」
ジルは静かに答えた。
「それに、こっちにもまだ話がある」
ガレオンが目を細める。
ジルは一歩、ガレオンに近づいた。
「俺たちは影虎に会う。ゼオンの元に行かせてもらうためにな」
影虎との交渉
霧の幻影の本拠地──影虎の居室
影虎は、ジルたちを じっと見つめながら 静かに言った。
「お前たち、約束は果たしたな。ヴィクターを討ち、沈黙の牙に打撃を与えた」
「なら、こっちの要望も聞いてもらおう」
ジルが 鋭い眼差しで影虎を見据える。
「ゼオンに会わせてもらう」
影虎は 表情こそ変えなかったが、一瞬だけ沈黙した。
「……ゼオンに会って、何をするつもりだ?」
「話がしたい。それだけだ」
影虎は 椅子に腰を下ろし、指を組んだままジルをじっと見つめた。
「ゼオンは俺たちにとっても重要な存在だ。……約束を果たしたとはいえ、お前が何を企んでいるのか、慎重に見極める必要があるな」
「何も企んでねぇよ」
ジルは即答する。
「……俺は、ただ確かめたいだけだ」
その目はまっすぐに影虎を見据えていた。
「かつて俺がいた組織が、どうして潰れたのか。ゼオンが、どうやって生き延びたのか……そして、あのとき俺たちが信じていたものは、今もどこかに残ってるのか――」
声は静かだが、言葉の奥に強い意志がにじんでいた。
「それを、ちゃんと本人の口から聞いておきたい……それだけだ」
影虎は ジルの目を見つめ続ける。
そのまま、数秒の沈黙が流れた。
やがて、影虎は ふっと小さく笑った。
「……わかった。ゼオンに会わせてやる」
「……!」
ジルの表情が わずかに動いた。
「ただし」
影虎が 指を一本立てる。
「ゼオンは今、安全な場所に隔離されている。殺されかけたばかりだ。余計な刺激は与えるな」
「……了解した」
ジルが 静かに頷く。
影虎はガレオンに目配せし、ガレオンが 再びジルたちの先導を務める ことになった。
霧の幻影の拠点──隔離された療養区画
霧の幻影の拠点の奥、比較的静かで隔離された区域があった。
ガレオンは扉の前で 立ち止まる。
「ここだ」
ジルたちが中を覗くと、部屋の奥に 一つの影が座っていた。
「……ゼオン」
ジルが ゆっくりと部屋に入る。
ゼオンは 壁にもたれかかりながら目を閉じていた。
しかし、ジルの声を聞いた途端、彼は 微かに笑みを浮かべた。
「……久しい友の声だな」
「……!」
ジルは 息をのんだ。
「ゼオン……」
【キャラクター紹介:ゼオン】
種族:トラザメ魚人
所属:元ブルータイドのリーダー
性格:冷静沈着で知略に長け、仲間を大切にする理想主義者。
特徴:高い指導力 を持ち、多くの仲間を束ねていた。戦闘センスが優れ、素早い動きと精密な攻撃を得意とする。
備考:政府にとって危険視され、深海監獄の第三階層に幽閉されていた。沈黙の牙の暗殺者に狙われたが、影虎によって救出される。ブルータイド壊滅後も「自由」の可能性を信じ続けている。
ジルのかつての上官であり、 彼にとって最も影響を与えた存在の一人。
ゼオンの生存が判明したことで、 ジルの戦う理由にも変化が生まれる可能性がある。
ゼオンは ゆっくりと目を開け、ジルを見た。
「お前が生きているとはな…」
「それは……こっちの台詞だ」
ジルの 拳が震えた。
「あんたが死んだと聞かされていたんだ……ずっと」
ゼオンは ゆっくりと息を吐く。
「ブルータイドが潰されたあの日……俺は捕らえられ、深海監獄の最下層に幽閉された」
「最下層……第三階層か」
バレルが 低く呟く。
「そうだ」
ゼオンは 目を閉じ、一瞬だけ沈黙する。
「そこには、俺以外にも……政府が決して外に出したくない者たちが閉じ込められていた」
「……ゼオン、お前はどうやってここまで来た?」
ジルが 真剣な眼差しで問う。
ゼオンは ゆっくりと目を開き、ジルを見つめた。
「影虎が、俺を助け出した」
ゼオンは 静かに頷く。
「沈黙の牙の幹部の一人が、俺を抹殺しにやってきた。刃が喉を掠めた瞬間、、影虎が現れた」
「……影虎が、あんたを守ったのか?」
ジルの 表情が険しくなる。
「霧の幻影は、ゼオンの命を利用するつもりなんじゃないのか?」
ゼオンは わずかに笑った。
「お前らしいな……そんな風に考えるとは」
「……」
「影虎の目的は俺にも分からないが、少なくとも俺は命を救われた。今はそれで十分だ」
ジルは ゼオンの言葉を噛みしめるように聞いた。
「……ゼオン、あんたはこれからどうするんだ?」
ゼオンは一瞬だけ視線を遠くにやり、やがてジルをまっすぐに見た。
「怪我が治ったら……しばらくは霧の幻影に世話になる。影虎の手伝いをしながら、身体を整えるつもりだ」
そして、ふっと口元を緩める。
「お前は……まだ自由を諦めていないな?」
ジルは 強く頷いた。
「当然だ」
ゼオンは 微かに微笑んだ。
「……なら、お前は俺の最後の希望かもしれないな。この監獄の中で、自分の意志で動ける者はそう多くない。だが、お前なら――世界を変える力がある」
ジルの目が鋭く光る。
「ブルータイドの火は、まだ消えてねぇ!……ゼオン、あんたも俺たちと一緒に、この監獄を抜け出そう!」
ゼオンは静かに目を閉じた。
「……ああ」
その声は低く穏やかだったが、凍りついていた心に、わずかな炎が灯ったようだった。
ジルの目は真っ直ぐにゼオンを捉える。
「……ところでゼオン、俺たちは…なぜあの時、政府に集中的に狙われていたんだ?」
ゼオンは わずかに微笑を浮かべ、肩をすくめる。
「ふっ……お前らしいな、ジル。会って早々、核心を突いてくるとはな」
ジルは 黙ってゼオンの言葉を待った。
ゼオンは ゆっくりと口を開く。
ブルータイドが政府に狙われた理由
「……俺達は、政府の"影の兵団・シャドウレギオン"の存在を知ってしまった」
その言葉に、バレルが 怪訝な表情を浮かべる。
「影の兵団……?」
ゼオンは わずかに表情を曇らせながら続ける。
「政府は表向きには、正義を掲げ、治安維持のために"秩序を守る軍"を持っている」
「だが、その中に 政府の意向とは別に動く"影の兵団"を組織した高官がいた」
ヴォルグが 鋭い目を向ける。
「……つまり、政府内部の一部の者が独断で軍隊を作っていたということか?」
ゼオンは 頷く。
「その通りだ」
ゼオンの目は 鋭く光っていた。
「そいつらは 政府の決定とは関係なく、独自の利益のために戦争を引き起こし、支配を強めようとしていた」
バレルが 信じられないという表情を浮かべる。
「クソ……そんなもん、完全に私利私欲じゃねぇか」
ゼオンは 苦い笑みを浮かべた。
「そうさ……だが、それを止める者はいなかった」
「そして、俺はそれを暴こうとした……だが、先に動かれた」
政府に捕えられるまで
「俺とブルータイドの幹部数名は、"影兵団・シャドウレギオン"に関する証拠を集めていた。奴らの資金の流れ、訓練施設、指揮系統……すべてを明るみに出す準備をしていた」
「だが…… ブルータイドの動きを察知した奴らが、先に攻撃を仕掛けてきた」
ゼオンは 悔しそうに奥歯を噛む。
「俺は奴らの拠点の一つを襲撃し、重要なデータを手に入れた。その瞬間、 影兵団の指揮官である政府高官が俺を危険視し、すぐに動いた」
「俺の周囲にいた者たちは次々と姿を消し、情報提供者は"事故"や"病気"で死んでいった……そして、 俺自身も奴らの精鋭部隊によって捕えられ、ブルータイドは総攻撃を受けた」
ジルは 静かにゼオンの言葉を聞いていた。
ゼオンは 低く笑う。
「……お前たちも知っているだろう。政府は、"処刑するよりも幽閉する"ほうが都合のいい時がある」
ヴォルグが 冷静に分析する。
「だから、お前はこの監獄に送られた、ということか」
ゼオンは 頷く。
「そういうことだ。政府は、俺がここで"消える"ことを望んでいた」
ゼオンは乾いた笑みを浮かべ、かすかに肩をすくめた。
「……奴らも分かってたんだ。俺を処刑すれば、それが引き金になるってな」
ジルが目を細める。
「引き金?」
「ああ。表向き、ブルータイドは“反乱分子”扱いされてたが……国内外には、俺たちを支持する動きもあった。自由を掲げて戦った組織ってのは、そう簡単に『悪』のレッテルは貼れない」
ゼオンはゆっくりと手を広げた。
「だからだ。公開で殺せば“正義の象徴を粛清した”って噂が世界中に広まる。下手すりゃ、英雄扱いだ。政府にとっちゃ、それは最悪の展開だからな」
ヴォルグがうなった。
「……だから、お前は“殺される”んじゃなく、“消される”道を選ばれた」
ゼオンは無言で頷いた。
そして目を閉じる。
「この深海で朽ちれば、誰の記憶にも残らない。最初から存在しなかったように……それが奴らの狙いだった」
ジルの決意
ジルは ゼオンの話を聞き終え、ゆっくりと口を開いた。
「……政府内部に、そんな軍隊を動かしている奴がいるとはな。そしてそいつらがブルータイドを壊滅させたのか…」
ゼオンは ジルを見つめる。
「俺は消される運命だった。だが、まだ生きている」
ジルは目を閉じ、考え込んだ。
(ゼオンが知った真実は、世界の裏側で渦巻く陰謀のほんの一部かもしれない。だが……これを知った以上、俺たちはどう動くべきか?)
静かな沈黙が続く。
そんな中、ゼオンが ゆっくりとジルに語りかけた。
「……ジル、お前はどうする?」
ジルは ゆっくりと目を開き、ゼオンを見据えた。
「俺は…この監獄の中で、何が真実なのかを見極める」
「そして…… 俺たちは、俺たちの意志で動く」
ゼオンは 微かに微笑んだ。
「……それでこそ、お前だ」
ゼオンの話を聞いたジルたちは、政府の闇が 想像以上に深いことを知った。
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ここには 政府の影が息づき、真実が封じ込められている。
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