『半魚囚人ジル』 深海監獄アビスロックからの脱出

アオミ レイ

文字の大きさ
21 / 74
第一章 監獄に吹く新たな風

CHAPTER 20『解き放たれた災厄』

しおりを挟む
深海監獄アビスロック 第三階層──囚人区画


レクスが冷や汗をかきながらうめく。
「バシリスクのやつ、面白くなりそうな策って……凶悪な囚人をさらに解放することかよ…」

ゴクリと唾を飲み込むレクス。その言葉通り、牢獄の奥から、二つの影がゆっくりと歩み出てくる。

サガ(オニカサゴ魚人)とザンダー(ブルーカンディル魚人)。


グレンダルはすぐに状況を把握し、冷徹に判断を下す。

「まずはこいつを始末せねば……これ以上囚人どもを解放させるわけにはいかん」
そう言って、横たわるバシリスクの頭を潰そうと斧を振り上げる──その瞬間。


ドガンッ!!!

ジルの鋼鉄化した拳がグレンダルの腰のあたりを直撃した。

「グッ!」
強烈な衝撃にグレンダルの巨体がわずかに揺らぐ。
「邪魔をするな……!こんな害獣は駆除せねば、秩序が保たれんだろう……!」


そう言った後、グレンダルはゴフッと少し血を吐く。
「……貴様、なかなか重い拳だな。何者だ?」


ジルは拳を握りしめながら、一歩前に踏み出した。
「俺は蒼海の解放軍ブルータイドリベレーションズのジル・レイヴンだ!」

グレンダルがジルを見据えながら、斧を再び構える。


一方、解放されたばかりのザンダーは辺りをゆっくりと見回しながら、不気味な笑みを浮かべる。
「……獲物」

次の瞬間、ザンダーに向かって看守五人が一斉に襲いかかる。
「こいつを止めろ!包囲して叩き潰せ!!」


しかし──

バキィィ!!

「ギャアアア!!!」
わずか数秒で、全員が戦闘不能。

ザンダーは地面に倒れた看守の肩の肉を噛みちぎり、そのまま頬張る。
「……ん。美味い」


看守たちは恐怖に震えながら、逃げることが頭によぎり始めていた。
「な、なんだこいつ……!?」
「ひ、化け物……!!」


サガもまた、背中の毒棘を飛ばし、看守たちを麻痺させながら、周囲を見渡していた。
「へぇ……面白そうなことになってるじゃねぇか。どういう状況だ?」


ジルたちもこの暴走を目の当たりにし、彼らを敵に回すのは危険だと悟る。


グレンダルは冷たい眼差しでジルを見据え、斧を肩に担ぎながら低く呟いた。
「……貴様のような雑魚の名前など知る価値もなかったが……覚えておいてやろう」


その言葉が響くと同時に、轟音とともに看守たちが吹き飛ばされた。

クラーケンが突進してきてバシリスクを肩に担いだのだ。


「バシリスクを助けに来たのか……」
グレンダルはすぐに状況を把握し、無駄のない動きで斧を振り下ろす。
狙いはバシリスクの頭部。執拗な追撃が続く。


だが──

ガキィィィン!!

クラーケンは片手に持った剣でグレンダルの一撃を受け止め、ニヤリと笑う。
「……へへ、ようやく戦場の勘が戻ってきたようだぜ……」


クラーケンとグレンダルの激闘の最中、ジルは素早く背後から、鋼鉄の拳でグレンダルを強襲しようとした。



その時──

「……副監獄長殿。これは少々分が悪いようですな」
傷を負いながらも立ち上がったサイファーが、ジルの行動を阻止するように割り込んできた。


サイファーの鋭い拘束攻撃がジルの動きを封じようとする。

「くっ……!」
だが、ジルは動きを止めなかった。鋼鉄の拳がサイファーの腹を貫くように叩き込まれた。
「うおぉぉぉ!!」


バゴォーン!!

「!……ぐふっ…」
サイファーの身体が地面に沈み、動かなくなった。


ジルは息を整えながら戦況を見渡す。

その時、ザンダーが静かに前に出た。
飢えた獣のような眼光を放ちながら、一言だけ呟く。
「……次はどいつだ」


そして、一瞬で目の前の看守の喉元に喰らいついた。
短い悲鳴とともに、血が飛び散る。


その混乱の中、サガが静かに動き出す。
戦場の喧騒とは対照的に、その歩みはまるで音を消したかのように滑らか。
しかし、その背後からは無数の毒針が生み出され、まるで蛇の舌のようにしなりながら周囲の敵をなぎ払っていく。

看守たちが気づいた時には、すでにサガの毒針が何本も突き刺さっていた。
そのまま静かに、だが確実にグレンダルの背後に迫る──。


一方、別の戦場では、タイタン、バレル、レクス、ヴォルグの連携による猛攻に、ルードヴィヒもさすがに疲弊してきていた。

「ハァ……ハァ……この私が……ここまで押されるとはねぇ……!」
血を滲ませながらも、それでもルードヴィヒは倒れない。


ドロマとモルドは、なおも動ける看守たちを次々と葬り去っていく。


ザンダーは狂気の目を輝かせながら、目の前を動く者へ容赦なく喰らいつづけていた。
「次は……どいつだ……!」
その異様な光景に、看守たちは恐怖を覚え、徐々に戦意を失いつつあった。

ジルとクラーケンの猛攻を受けながらも、グレンダルは冷静に動きを見極め、弾き返していた。
しかし、その背後からサガが静かに近づき、無数の毒針を放とうとした──



──その時


「そこまでだ!」
轟音とともに、圧倒的な威圧感が場を支配する。


監獄長ギルバートが乱入してきたのだ。
その両脇には二人の異様な魚人──監獄の強者たちが並んでいた。

【キャラクター紹介】
◆戦闘教官 オルド
種族:マッコウクジラ魚人
所属:深海監獄アビスロック・戦闘訓練部門
性格:実力至上主義
能力:巨大な体躯を活かした圧倒的な打撃力と耐久力。看守たちに格闘術を叩き込んできた猛者。



◆特務隊長 シェイド
種族:ヒョウモンダコ魚人
所属:深海監獄アビスロック・特務隊長
性格:飄々としているが、極めて冷静な策略家
能力:俊敏な動きと神経毒を活かした暗殺術。 高速移動と変幻自在の触手攻撃




その背後には、数十名の看守たちが一列に並び、完全な包囲網を形成していた。
戦場の空気が一変する。


ジルたちは即座に戦況を把握し、身構える。

バレルが低く唸りながら舌打ちをする。
「……マズいな。」


グレンダルはすっと姿勢を正し、ギルバートを見やる。
「監獄長殿、この混乱を抑えきれず申し訳ありません……しかし…お待ちしておりました」


ギルバートは余裕のある笑みを浮かべながら言う。
「お前が苦戦しているのを見て、少し眺めていたくなったのだ」

グレンダルは忌々しげにギルバートを見つめるが、今はそれをどうこう言っている場合ではない。


ジルはギルバートの戦力を分析しながら、一瞬の静寂の中で呼吸を整えた。
「……この状況、どうする?」


監獄の最強戦士たちが集結した今、アビスロック第三階層の決戦が、ついに始まる──!



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...