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1章 とある父親の運命

父親の運命3

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「それで、ハトさん。何か、考えはあるのですか?」

 アルブルヘムはハトに問いかけた。

「まだ、よくわかりませんが。話を聞いてると、解決できそうな道筋は一つだけかな、って。病気の治療法が発見されるのが早くなることです」

「なるほど。それはいい考えかもしれませんね。治療法の発明は1年後と、運命により決められています。しかし、あなたならその運命の隙間を縫って、何かしら干渉ができるかもしれませんね。確かに運命の書では誰がいつ発見するかが決まっています。しかし、あなたが関与することにより、発見にいたる過程を大幅に短縮する手助けができるかもしれません」

 アルブルヘムはいつのまにか、いつもの優しい表情に戻っていた。

「では、少し、運命の書を括ってみましょう」

 そういうと、アルブルヘムは持っていた黄色い本とは別の本を近くの棚から抜き、ペラペラとページをめくっていった。

「えっと…。病気の治療法を発明するのはドガーという人物のようですね。ちょっと、それ以上詳しいことは調べるのが、時間がかかります。複数の運命が絡んでくることなので、様々な本に情報が散らばっています」

「わかりました。では、まずは、そのドガーという人物のところに行ってみましょうか?」

 ハトはうなだれているガーボスに声をかけた。話を飲み込めないガーボスであったが、何かにすがり付いてもという気持ちはまだ残っている。ハトの問いかけに、ただただ肯いた。


 ドガーという男が住んでいるのはモノタリという街だ。周りを大きな森に囲まれた街だが、ここ、ハドホックでは比較的大きな街にあたる。ガーボスが暮らしているのも、モノタリの街だ。ハトもここ、ハドホックの世界の住人だったので、モノタリの街のことは知っていた。道に迷うことなく辿りつけそうだ。

 出発の準備をしていると、アルブルヘムがハトに一つのネックレスを渡してこう言った。

「ハトさん。これはこの世界樹の力の一部を移植した石です。あなたの助けになるでしょう。この石を持ち、強く念じれば一瞬にしてこの世界樹の図書館に戻ってこれます」

 石は小さな菱形の宝石だった。中心部が青白く光っている。

「くれぐれも無理はしないでくださいね。危険を感じたら、すぐに戻ってきてくださいね。あと、運命の書の力が必要になったら戻ってきてください。でも、注意してくださいね。石に込められた力でここに戻せるのはハトさん一人だけです。そして、図書館に戻れるだけです。また、元いた場所に戻るには、自分の足で歩いて行くしかありません」

 ハトは頷き、決して無理はしないことをアルブルヘムと約束した。たった1日の付き合いではあったが、アルブルヘムがハトにこれほど良くしてくれる理由がハトには思いつかなかった。

 木の精霊が用意した食料などの必要最低限の荷物をまとめると、ハトはガーボスを連れてアルブルヘムの元を後にした。

 来る時には気がつかなかったが、世界樹の図書館の周りには沢山の門があった。ツルを編んだような植物でできた門だ。ハト達はアルブルヘムに指定された門の前に来ていた。門はまるでシャボン玉の幕に覆われてるように向こう側が歪んで見えた。ハト達は門をくぐって世界樹の図書館から出た。


 外には見覚えのある世界が広がっていた。世界樹にいたのはたった1日だったのに、ハトはいやに不思議な感覚を覚えていた。

 ハトとガーボスはまわりの地形を確認し、今、自分たちがいる位置を把握した。幸い、自分たちがどこにいるか全くわからないといったことはなかった。ハト達は頭の中の地図を頼りにモノタリの街を目指して歩いた。ガーボスは世界樹まで馬に乗ってきたそうだが、無理な長旅で馬も疲弊していた。世界樹の図書館から無事に戻れるかわからなかったガーボスは、その場で馬を離してあげたそうだ。人に飼い慣らされた馬が、自然界で生きていけるのかどうか、謎だが、止まっていないところを見ると、好きにどこかに行ったのだろう。


 モノタリの街には半月ほど歩き、到着した。ガーボスが旅に出てから一月は経っていた。

「すまない。ハトくん。まずはウチによってもらえないだろうか?娘の様子が気になるんだ」

 運命の書によるとガーボスの娘が亡くなるのは半年後だ。今すぐに絶命していると言ったことはないのだろう。だが、やはり我が子のことは心配になる。当然のことだろう。

「いいですよ」

 ハトはそう言うとガーボスの案内で、娘が待つ、家に向かった。
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