十秒探偵『ナポレオン＆トモロー』 すべての謎はナポレオンに解かれたがっている！

神倉海岸

北村遥香

「ほォ」
　鰐口警部補は肩をすくめて苦笑した。


『ところで、この海岸も当然ですが、真夜中は上げ潮だったんですよね』
　ナポレオンはリモート画面で海岸線を眺めた。

　海は遠浅で、たくさんの海水浴客で賑わっていた。



　今は引き潮でかなり現場から波打ち際までは距離があった。



「ああァ、まァそうだな」
　警部補は気のない返事をした。


『被害者のすぐそばまで上げ潮が近づいていたんでしょ？』


「ああァ、そうだが上げ潮がどうかしたのか。まさかその波で容疑者の足跡が消えたと思っているのか？」



『いえ、ところで被害者の元ホスト、幡地は相当、みんなから怨まれていたようですが』




「ああァ、まァな。いろいろ問題があってなァ」



「ふぅん、問題ねえェ？」
　美人弁護士のクリスが腕を組んだまま聞き返した。


「実は幡地は半グレ集団『ヘルズドラゴン』の幹部だったんだ」
　鰐口警部補が応えた。
　

「くぅッ！」
　かすかに辺見レイカの頬が引きつったようにみえた。


「『ヘルズドラゴン』といえば暴行事件などで何かと問題の多い半グレ集団ですよねェ」
　ボクは気になって警部補に聞き返した。



「ああァ、中でも北村遥香さんを拉致して監禁した事件に幡地が大きく関わっていたらしいんだ」



「北村遥香さん？」
「！」また辺見レイカの顔色が変わった。


「ああァ、北村遥香は辺見レイカのお姉さんだ」
　鰐口がつらそうに話した。



「え、でも辺見と北村では苗字が違いますが」
　ボクは素直に疑問を口にした。

　どうして苗字が違うのにお姉さんなのだろうか。




「両親が離婚して、姉の遥香は父方の北村の姓を名乗って、私は母方の辺見を名乗っているんです」
　辺見レイカが真摯に応えた。


「ふぅん、なるほど。その北村遥香さんはその後どうされたんですか？」
　なんとなくボクは訊いた。


　あまり良い予感はしない。