十秒探偵『ナポレオン＆トモロー』 すべての謎はナポレオンに解かれたがっている！

解決編

ナポレオン

『いいえ、答えのヒントにはなりますね』
　ナポレオンは余裕すら感じられた。
　とても小学生とは思えないコメントだ。



「ヒント？」


「ン、そうか！」
　ようやくボクも答えが脳裏に閃いた。



「どうしたの。トモロー。何か、わかったの？」
　隣りにいる美人弁護士のクリスが訊いてきた。


「ええェ、かんたんなトリックですよ。ナポレオンの言うとおり。これは盲点なんですよ」
　わかった瞬間、ボクも呆れた。



「おいおい、ガキにしかわからねえェのか。いったいどんなトリックだよ」
　すぐさま九頭クズはボクを睨みつけた。

「……」鰐口警部補も同様だ。


「さっきもあなたがふざけて言った水遁すいとんの術を使ったんですよ」
　そう、この方法なら防犯カメラにも映らず被害者に接近することが可能だ。



「はァ、水遁すいとんの術だってェ、おいおいジョークだろう。誰がそんな忍術を使えるって言うんだよォ。伊賀モノか。それとも甲賀かァ。風魔かァ？」
　九頭クズは自分で言ったクセに僕には難癖をつけた。



『別に忍術ではないですよ。付近の防犯カメラに映らず、砂浜に足跡を残さずに接近する方法は……』



「あ、そうか。真犯人は海中から接近したのね！」
　ようやく美人弁護士のクリスも気づいたみたいだ。


「ぬウゥ！」思わず鰐口警部補もうめき声を上げた。



『そうです。それこそ盲点なんですよ。今は引き潮で無理ですが、犯行時刻は上げ潮で被害者のすぐ近くまで波打ち際が迫っていたんです』
　ナポレオンがトリックの解説をした。



「ううゥン」誰とはなしに唸り声を上げた。



「だとしてもどうやって首を切ったと言うんだ？」
　しかし鰐口警部補はまだ納得していない。


「ンううゥ…！」
　そうか。

　確かに防犯カメラに映る事なく砂浜に足跡もつけずに被害者に接近する方法はわかった。


　だけど、まだ首を切った方法はわからない。


　ボクもまだ全部を解決したわけではないのだ。



「いいか。手裏剣で首を切ったとしても、警察が付近をクマなく探したんだ。未いまだに凶器は見つかっていない。どんなトリックがあるんだ？」
　鰐口警部補も両手を広げてアピールした。


「ううゥン……」
　警察だってこの暑い中、必死に捜索したのだろう。


　だが未だに犯行に使った凶器は発見されていない。

　いったいどうやって真犯人は被害者の首を切ったと言うんだ。



『ええェ、ですから幡地の残したダイイングメッセージですよ』
　ナポレオンが応えた。


「またか。ダイイングメッセージは『へ』かァ。バカバカしい」
　九頭クズは両手を広げ、大げさなポーズでアピールした。
　


『そうです。真犯人は『へ』を使って被害者の首を切ったんですよ』



「ムチャクチャ言うな。『へ』で殺すなんて不可能だ」
　鰐口警部補も怒り出した。無理もない。


「ぬウゥ」
　さすがに相棒のボクだって承服しかねた。

　どう考えても『へ』で殺すなんて有り得ないことだ。



『フフゥン、ナポレオンの辞書に不可能と解けない謎はないんです！』
　またナポレオンは自信たっぷりに宣言した。



「チィッ、ふざけるな。ペッ」
　九頭クズはツバを吐き捨てた。



『もちろん『へ』で殺すなんて不可能ですよ。けれどもダイイングメッセージをよく見てください』



「ぬウゥ、ダイイングメッセージを」
　全員の視線が砂浜に書かれたダイイングメッセージに注がれた。




『そうです。皆さんも『ヘ』によく似た形を見たことがあるはずです』



「『へ』に似た形……？」
　一斉に、みんな考え中だ。


「そうか。わかったよ！」
　またボクの脳裏に閃いた。