12 / 64
炎と竜の記録
知らせ
しおりを挟む
ふとペンを握っていた手を止める。
綴られた文字は絶えず流れる川のような流麗さで並び、ところどころ添えられるように書かれた紋様や魔法陣により一種の芸術作品のような風合を見せていた。
もっとも、それは彼女にはどうでも良い事だった。
「なんだか騒がしいね」
そう言う視線の先には沢山の鳥たちが慌ただしく羽ばたいている。
普段は静かな森の中、ポツンとあいた小さな広場に足れたてログハウス。
窓から見える景色など雪化粧か春の花くらいしか変化など与えない。
しかし、そのどちらとも言えない違和感のようなものは確かにあった。
窓の縁に一羽の白い鳥が止まり、コツコツと叩く。
開けてやると鳥は肩に止まり、『チッチッチ、チチ、チッチチッチ』と独特な鳴き方をした。
一通りを聞くと大きく溜息を一つ。
それから鳥を開いている手の指に乗せると「待ってろ、て伝えな」と言って外へ放した。
鳥が見えなくなると白髪交じりの灰色頭を掻いて、それからペンを置く。そして適当な麻布の袋を取ってくると、脇に山のように積まれていた、丸めた羊皮紙を乱暴に中へと詰め込んでいく。最後にその口を茶色の紐で結べば、袋に描かれていた魔法陣が淡い紫色の光を放ち出した。
「さて、こんなもんかね」
そう言って今度は丁度インクの乾いた羊皮紙と何も書かれていない羊皮紙、ペンにインクなどを壁に架けてあった手持ちカバンへ丁寧に詰め込んでいく。
箱型のしっかりしたカバンはいくつかの仕切りを持っており、それぞれの道具は区切られた空間にピッタリと収まるようになっている。綺麗で分かりやすく、しかし汎用性の無い作りだ。
だが、他に入れる予定のものなどないから問題はない。
仕事に関わる物を纏めたら次は純粋な身支度だ。
使い古しで痛みところどころ色の落ちて白くなっている鳶色のコートを衣服の上に羽織り、厚手のベルトにはいくつものポーチを取り付ける。
中身はそれぞれに決まった物を詰めていき、それが終わると大きな背負いカバンも物置の奥から引っ張り出してくる。
先ほどの麻布の袋の他、干し肉などの水の入った瓶など最低限の保存のきく飲食物。ハサミや布、ロープ、ピッケル、チョークの予備(ポーチにも入っている)などと、おおよそ必要になるかもしれないと思った道具、最後に念のため何種類かの塗り薬と飲み薬を詰め込んだ。
一つ一つは細々としていても、集まって見れば随分な量になるようで、カバンに隙間は殆ど空いていない。
持って運ぼうとした瞬間、少しだけ体がフラリと揺れたのを踏ん張って堪え溜息。
「まったく、もうそんなに若くないってのに無茶を言うもんだよ」
そんな事をボヤキながら、随分と内履きから随分と使い込んではいるものの手入れのしっかりとなされたブーツへと履き替える。
ブーツにはこれまた紋様が描かれており、履いた瞬間に薄っすらと白い光を宿した。
大きなカバンを背負い、小さなカバンを手に持って立ち上がると、一度部屋の中を見回す。
目を閉じ、「よし」と言って開くと、扉の脇に掛けられていた杖を持った。
外へ出て、扉を閉め、鍵を回すことで崩れていた守護の魔法陣を正しい形へと戻す。
ちゃんと魔法が聞いている事を二度確認してから、指を咥えるにして“ピー”と甲高い音を一つ吹いた。その音は風に乗って森の隅々へと響き、コダマが返事のように帰ってくる。
暫く待つと、『ピュイー』と指笛より少し低い鳴き声が聞こえてきた。
更に待つと、広場のポッカリあいた空から一羽の鳥が降りてくる。
離れてみたならば不思議に思わないかもしれない。しかし近づけばその鳥が異様に大きい事に誰もが驚く事だろう。
広げた翼は片翼だけでも大人ひとりを軽々覆い隠せてしまうほどだ。
「キュリウス悪いが急ぎなんだ。力を借りるよ」
『キュイ』
ジッと目を合わせて真面目に頼めば、訳を言わずとも鳥は身を低く乗りやすくしてくれる。
ふかふかの羽毛に半ば身を沈めながら登り、両羽の付け根の裏に膝が来るように座って一息。それから人間でいえば方に当たる部分を通すように首に腕を回して体をピッタリくっつける。
「それじゃあ頼むよ、全速力で!」
いうのと同時にギュッと口を閉じる。
直後、地面を蹴って飛び上がった巨鳥は翼の一振り一振りで猛烈に加速していく。
地上からは豆粒のような高さまで舞い上がると、今度はその勢いを目的地へ進む力へと転化し軽い衝撃波を巻き起こしながら移動を始める。
まさに風の如しだが、やはり若くない身には少々辛いものがあると内心で溜息を1つ吐いた。
綴られた文字は絶えず流れる川のような流麗さで並び、ところどころ添えられるように書かれた紋様や魔法陣により一種の芸術作品のような風合を見せていた。
もっとも、それは彼女にはどうでも良い事だった。
「なんだか騒がしいね」
そう言う視線の先には沢山の鳥たちが慌ただしく羽ばたいている。
普段は静かな森の中、ポツンとあいた小さな広場に足れたてログハウス。
窓から見える景色など雪化粧か春の花くらいしか変化など与えない。
しかし、そのどちらとも言えない違和感のようなものは確かにあった。
窓の縁に一羽の白い鳥が止まり、コツコツと叩く。
開けてやると鳥は肩に止まり、『チッチッチ、チチ、チッチチッチ』と独特な鳴き方をした。
一通りを聞くと大きく溜息を一つ。
それから鳥を開いている手の指に乗せると「待ってろ、て伝えな」と言って外へ放した。
鳥が見えなくなると白髪交じりの灰色頭を掻いて、それからペンを置く。そして適当な麻布の袋を取ってくると、脇に山のように積まれていた、丸めた羊皮紙を乱暴に中へと詰め込んでいく。最後にその口を茶色の紐で結べば、袋に描かれていた魔法陣が淡い紫色の光を放ち出した。
「さて、こんなもんかね」
そう言って今度は丁度インクの乾いた羊皮紙と何も書かれていない羊皮紙、ペンにインクなどを壁に架けてあった手持ちカバンへ丁寧に詰め込んでいく。
箱型のしっかりしたカバンはいくつかの仕切りを持っており、それぞれの道具は区切られた空間にピッタリと収まるようになっている。綺麗で分かりやすく、しかし汎用性の無い作りだ。
だが、他に入れる予定のものなどないから問題はない。
仕事に関わる物を纏めたら次は純粋な身支度だ。
使い古しで痛みところどころ色の落ちて白くなっている鳶色のコートを衣服の上に羽織り、厚手のベルトにはいくつものポーチを取り付ける。
中身はそれぞれに決まった物を詰めていき、それが終わると大きな背負いカバンも物置の奥から引っ張り出してくる。
先ほどの麻布の袋の他、干し肉などの水の入った瓶など最低限の保存のきく飲食物。ハサミや布、ロープ、ピッケル、チョークの予備(ポーチにも入っている)などと、おおよそ必要になるかもしれないと思った道具、最後に念のため何種類かの塗り薬と飲み薬を詰め込んだ。
一つ一つは細々としていても、集まって見れば随分な量になるようで、カバンに隙間は殆ど空いていない。
持って運ぼうとした瞬間、少しだけ体がフラリと揺れたのを踏ん張って堪え溜息。
「まったく、もうそんなに若くないってのに無茶を言うもんだよ」
そんな事をボヤキながら、随分と内履きから随分と使い込んではいるものの手入れのしっかりとなされたブーツへと履き替える。
ブーツにはこれまた紋様が描かれており、履いた瞬間に薄っすらと白い光を宿した。
大きなカバンを背負い、小さなカバンを手に持って立ち上がると、一度部屋の中を見回す。
目を閉じ、「よし」と言って開くと、扉の脇に掛けられていた杖を持った。
外へ出て、扉を閉め、鍵を回すことで崩れていた守護の魔法陣を正しい形へと戻す。
ちゃんと魔法が聞いている事を二度確認してから、指を咥えるにして“ピー”と甲高い音を一つ吹いた。その音は風に乗って森の隅々へと響き、コダマが返事のように帰ってくる。
暫く待つと、『ピュイー』と指笛より少し低い鳴き声が聞こえてきた。
更に待つと、広場のポッカリあいた空から一羽の鳥が降りてくる。
離れてみたならば不思議に思わないかもしれない。しかし近づけばその鳥が異様に大きい事に誰もが驚く事だろう。
広げた翼は片翼だけでも大人ひとりを軽々覆い隠せてしまうほどだ。
「キュリウス悪いが急ぎなんだ。力を借りるよ」
『キュイ』
ジッと目を合わせて真面目に頼めば、訳を言わずとも鳥は身を低く乗りやすくしてくれる。
ふかふかの羽毛に半ば身を沈めながら登り、両羽の付け根の裏に膝が来るように座って一息。それから人間でいえば方に当たる部分を通すように首に腕を回して体をピッタリくっつける。
「それじゃあ頼むよ、全速力で!」
いうのと同時にギュッと口を閉じる。
直後、地面を蹴って飛び上がった巨鳥は翼の一振り一振りで猛烈に加速していく。
地上からは豆粒のような高さまで舞い上がると、今度はその勢いを目的地へ進む力へと転化し軽い衝撃波を巻き起こしながら移動を始める。
まさに風の如しだが、やはり若くない身には少々辛いものがあると内心で溜息を1つ吐いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる