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炎と竜の記録
カウントダウン 1
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イーファは槍を地面に突き立てる。
槍と言っても鎌の刃を向きを変えて取り付けただけの代物であり、金属部分にはいくらか錆のようなものも浮かんで見えるが、その丈夫さだけは長きに渡る農作業に耐えて来ただけあって確かなものだ。
今いる場所は村の井戸であり、その周りをグルリと取り囲む円を描いていた。
ガリガリと音を立てて何年かけて踏み固められた地面に傷をつけ、線と線が繋がったところでフッと力を抜き、その線から伸びる別な線をまた力を込めて描いて行く。
既に腕はパンパンで、手の平に出来たマメは潰れ持ち手を赤く染めている。
痛みには歯を食いしばり、疲労には確固たる意志の力を持って抗う。
「まだ、……まだ大丈夫」
刺すような痛みに一瞬手を止めてしまう。きっとまた新しく出来たマメが潰れたのだろう。
ただ痛いだけなら全然平気だ。
“ギリ”と歯を食いしばってイーファは止まった腕を再び動かし始める。
今の自分はあの時のような無力ではない。
精霊石を作った時と同じく自らの役目を持って、その為に全力を持って準備を進めている。
仲間たち、恩人たち、そして守りたい村の人達のために力を尽くしているのだ。
体が熱くなる。
何処からか力が湧いてくる。
この場に、この魔法陣を見てくれる相手は一人もいない。もしも失敗していたら、もしも間違いが合ったら、もしも未熟で不十分だったら、そんな不安が何度も込み上げてきて緊張による眩暈と吐き気に幾度となく襲われながらもイーファは止まらない。
線は井戸を離れ外へと伸びていく。
一本だけでは弱い。編み込むように中心の線と共にいくつもの線を書き足していく。
もしも十分に時間があれば、そう悔やむ気持ちには蓋をした。
きっとリオンなら、クリフなら、比べるとあまりに未熟な自分に、しかし落ち込まず自嘲の笑いを浮かべるだけに止める。そうして自分の学んだ知識より今この場で可能な最大限にして最適な紋様を描き続けていく。
不安はあっても決して迷わない。
過ぎたものを直している時間があれば、先へと回路を伸ばし指定の場所まで到達することを目指す。
それが出来ると信じられ任されたから今、イーファはここに一人でいるのだ。
「ダメ、集中しなきゃ」
イーファは首を振る。
それが己を卑下するものでも、鼓舞するものであろうと、この場においては邪魔な邪念でしかない。
目の前にある一本に集中し他の事は何も考えないのだと言い聞かせる。
それこそが最初に教わり、最も大切な事だと諭された。
考えるのは悪くない。良いものを作りたいと思うのも当然のことだ。しかし結局のところ最も大切なのはより正確に、よりちゃんと線を引く事でそれ以外はおまけに過ぎない。
そうクリフは言っていた。
手に力を込める。槍の先端に意識を向ける。
何処までも正確に、何よりもクッキリと大地に刻み付ける事で力は最大限に発揮される。
「お疲れさん」
声を掛けられた。
見上げると壁の上よりクリフが降りてくるところで、その服も手も顔も黒いインクで汚れてしまっている。しかし顔は晴れやかで疲れを感じさせいない。
「さあ、最後にここに一本書き足すだけだ。ミスするんじゃないよ?」
意地悪な笑みは本心で言っている事ではない証拠。
イーファは肩の力を抜いて言われた場所に、最高の一本を引き終える。
こうして全ての井戸と防壁とを繋ぐ巨大な魔法陣と紋様の複合回路がここに完成した。
槍と言っても鎌の刃を向きを変えて取り付けただけの代物であり、金属部分にはいくらか錆のようなものも浮かんで見えるが、その丈夫さだけは長きに渡る農作業に耐えて来ただけあって確かなものだ。
今いる場所は村の井戸であり、その周りをグルリと取り囲む円を描いていた。
ガリガリと音を立てて何年かけて踏み固められた地面に傷をつけ、線と線が繋がったところでフッと力を抜き、その線から伸びる別な線をまた力を込めて描いて行く。
既に腕はパンパンで、手の平に出来たマメは潰れ持ち手を赤く染めている。
痛みには歯を食いしばり、疲労には確固たる意志の力を持って抗う。
「まだ、……まだ大丈夫」
刺すような痛みに一瞬手を止めてしまう。きっとまた新しく出来たマメが潰れたのだろう。
ただ痛いだけなら全然平気だ。
“ギリ”と歯を食いしばってイーファは止まった腕を再び動かし始める。
今の自分はあの時のような無力ではない。
精霊石を作った時と同じく自らの役目を持って、その為に全力を持って準備を進めている。
仲間たち、恩人たち、そして守りたい村の人達のために力を尽くしているのだ。
体が熱くなる。
何処からか力が湧いてくる。
この場に、この魔法陣を見てくれる相手は一人もいない。もしも失敗していたら、もしも間違いが合ったら、もしも未熟で不十分だったら、そんな不安が何度も込み上げてきて緊張による眩暈と吐き気に幾度となく襲われながらもイーファは止まらない。
線は井戸を離れ外へと伸びていく。
一本だけでは弱い。編み込むように中心の線と共にいくつもの線を書き足していく。
もしも十分に時間があれば、そう悔やむ気持ちには蓋をした。
きっとリオンなら、クリフなら、比べるとあまりに未熟な自分に、しかし落ち込まず自嘲の笑いを浮かべるだけに止める。そうして自分の学んだ知識より今この場で可能な最大限にして最適な紋様を描き続けていく。
不安はあっても決して迷わない。
過ぎたものを直している時間があれば、先へと回路を伸ばし指定の場所まで到達することを目指す。
それが出来ると信じられ任されたから今、イーファはここに一人でいるのだ。
「ダメ、集中しなきゃ」
イーファは首を振る。
それが己を卑下するものでも、鼓舞するものであろうと、この場においては邪魔な邪念でしかない。
目の前にある一本に集中し他の事は何も考えないのだと言い聞かせる。
それこそが最初に教わり、最も大切な事だと諭された。
考えるのは悪くない。良いものを作りたいと思うのも当然のことだ。しかし結局のところ最も大切なのはより正確に、よりちゃんと線を引く事でそれ以外はおまけに過ぎない。
そうクリフは言っていた。
手に力を込める。槍の先端に意識を向ける。
何処までも正確に、何よりもクッキリと大地に刻み付ける事で力は最大限に発揮される。
「お疲れさん」
声を掛けられた。
見上げると壁の上よりクリフが降りてくるところで、その服も手も顔も黒いインクで汚れてしまっている。しかし顔は晴れやかで疲れを感じさせいない。
「さあ、最後にここに一本書き足すだけだ。ミスするんじゃないよ?」
意地悪な笑みは本心で言っている事ではない証拠。
イーファは肩の力を抜いて言われた場所に、最高の一本を引き終える。
こうして全ての井戸と防壁とを繋ぐ巨大な魔法陣と紋様の複合回路がここに完成した。
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