53 / 64
炎と竜の記録
失ったもの
しおりを挟む
勝利を確信した。
獰猛な本能が喜びの賛歌を奏で、目の前に横たわる冒険者の絶望する顔に酔いしれる。
目障りな連中は遂に圧倒的な力によって潰えた。
もはや反抗するものはいなくなり、暴力により全ては支配されるのだ。
『キシシシシシシ』
思わず笑いが込み上げてくる。
さあ、最後の一手間だ。目の前にいる心折れた人間を血祭りにあげるだけである。
アレほど怒りに燃えて無駄に暴れていたというのに、随分と大人しいものだ。
ああそうだ。その顔が見たかったのだ。
いつまでも諦めず戦い続けるなんて馬鹿のする事、世界に蔓延る理不尽に飲み込まれて心折れ、二度と立ち上がれないほどの傷を負うだけなのだから。
だが、他人がそれに打ちひしがれる顔を見る事の何と愉快な事か。
大きく口を開ける。
その絶望のさなかに死んだら、魂はどうなるのだろうな。
自分と同じような怪物になり果てて世界を呪い続けるのだろうか?
ああ考えるほどに愉快だ。
世界を守るなんてチンケで滑稽な夢を追いかけている、反吐の出る冒険者どもが逆に世界に仇なす怪物になり果てるなんて最高じゃないか。
体を屈めながら、本能の求めるままに血肉を喰らうのだ――。
「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア?!?!?!?!」
何が起きた? 何があった?
全身を駆け抜けるのは経験にないほどの強烈な激痛。
まるで細かな針で体中を隙間なく一挙に刺し貫かれたかのような悍ましい感覚。
目の前は真っ白に染まり、痛みに体が反り返る。
なんだ? なんなんだ!
答えてくれる相手はいない。
まるで視覚を失ってしまったかのように、いくら首を回しても自分の姿すら見る事はできない。
何が起きている!
言葉は不可思議な怪物の遠吠えにしかならず、答えてくれる部下の声は一つも聞こえない。
俺を置いて逃げたのか? 何故? どうして?
何も分からない。自分が何をやったかも、今まで何が行われていたのかも。
ピシリ、と何かのひび割れるような音がきこえた。
間もなくガラスの割れるような音が続き、真っ黒な塊が沢山自分の回りの落ちて散らばる。それらも白い光に飲み込まれると直ぐに消滅した。
へドランは、それが炎であると理解しゾッとする。
「ふざけんな!」
その手に握った水色の短刀を振るう。
「ふざけんな! ふざけんな! ふざけんなあああああああああ!!」
恐怖に引きつった裏返った声で叫びながら短刀を振るう。
炎が迫ってくる!
また俺から全てを奪おうと迫ってくる!
俺はもう二度と奪われないために、奪う側になったのだ。
二度と燃やされないように力も手に入れたのだ。
だというのに、どうしてまた迫ってくる。
どうしていつまでも俺の邪魔をする!!
叫びながら水の壁を作り出す。何度も、何度も、炎と自分を分かつ境界を作り続けるために担当をがむしゃらに振り続ける。
――水色短刀はついに力を失った。
色を失った。罅割れた。崩れていった。
自分を守ってくれていた力が消えていき、へドランは叫び声を上げながらその残滓を掬おうと蹲って地面をひっかくようにかき集めた。
黒い粒子をかき集めて、かき集めて、かき集めて――。
水の壁が破られた。
白き炎が押し寄せて哀れな盗賊を飲み込む。
ああ、本当に世界はクソったれた。
最後に盗賊は悲鳴に似た咆哮を上げ世界を呪う。
誰にも届かない、激情を吐き出しつくし、そして世界は静寂に包まれた。
獰猛な本能が喜びの賛歌を奏で、目の前に横たわる冒険者の絶望する顔に酔いしれる。
目障りな連中は遂に圧倒的な力によって潰えた。
もはや反抗するものはいなくなり、暴力により全ては支配されるのだ。
『キシシシシシシ』
思わず笑いが込み上げてくる。
さあ、最後の一手間だ。目の前にいる心折れた人間を血祭りにあげるだけである。
アレほど怒りに燃えて無駄に暴れていたというのに、随分と大人しいものだ。
ああそうだ。その顔が見たかったのだ。
いつまでも諦めず戦い続けるなんて馬鹿のする事、世界に蔓延る理不尽に飲み込まれて心折れ、二度と立ち上がれないほどの傷を負うだけなのだから。
だが、他人がそれに打ちひしがれる顔を見る事の何と愉快な事か。
大きく口を開ける。
その絶望のさなかに死んだら、魂はどうなるのだろうな。
自分と同じような怪物になり果てて世界を呪い続けるのだろうか?
ああ考えるほどに愉快だ。
世界を守るなんてチンケで滑稽な夢を追いかけている、反吐の出る冒険者どもが逆に世界に仇なす怪物になり果てるなんて最高じゃないか。
体を屈めながら、本能の求めるままに血肉を喰らうのだ――。
「ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア?!?!?!?!」
何が起きた? 何があった?
全身を駆け抜けるのは経験にないほどの強烈な激痛。
まるで細かな針で体中を隙間なく一挙に刺し貫かれたかのような悍ましい感覚。
目の前は真っ白に染まり、痛みに体が反り返る。
なんだ? なんなんだ!
答えてくれる相手はいない。
まるで視覚を失ってしまったかのように、いくら首を回しても自分の姿すら見る事はできない。
何が起きている!
言葉は不可思議な怪物の遠吠えにしかならず、答えてくれる部下の声は一つも聞こえない。
俺を置いて逃げたのか? 何故? どうして?
何も分からない。自分が何をやったかも、今まで何が行われていたのかも。
ピシリ、と何かのひび割れるような音がきこえた。
間もなくガラスの割れるような音が続き、真っ黒な塊が沢山自分の回りの落ちて散らばる。それらも白い光に飲み込まれると直ぐに消滅した。
へドランは、それが炎であると理解しゾッとする。
「ふざけんな!」
その手に握った水色の短刀を振るう。
「ふざけんな! ふざけんな! ふざけんなあああああああああ!!」
恐怖に引きつった裏返った声で叫びながら短刀を振るう。
炎が迫ってくる!
また俺から全てを奪おうと迫ってくる!
俺はもう二度と奪われないために、奪う側になったのだ。
二度と燃やされないように力も手に入れたのだ。
だというのに、どうしてまた迫ってくる。
どうしていつまでも俺の邪魔をする!!
叫びながら水の壁を作り出す。何度も、何度も、炎と自分を分かつ境界を作り続けるために担当をがむしゃらに振り続ける。
――水色短刀はついに力を失った。
色を失った。罅割れた。崩れていった。
自分を守ってくれていた力が消えていき、へドランは叫び声を上げながらその残滓を掬おうと蹲って地面をひっかくようにかき集めた。
黒い粒子をかき集めて、かき集めて、かき集めて――。
水の壁が破られた。
白き炎が押し寄せて哀れな盗賊を飲み込む。
ああ、本当に世界はクソったれた。
最後に盗賊は悲鳴に似た咆哮を上げ世界を呪う。
誰にも届かない、激情を吐き出しつくし、そして世界は静寂に包まれた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる