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商人と影たちの記録
売り込み面接
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ボンヤリ眼で目を覚ますのは一人の女性。
いや、幼さのある顔つきや残念な体型から少女と言った方がいいかもしれない。
人間とは決定的に違う獣人族特有のとんがり耳と尻尾は髪と同じ白色で、アーモンド形な琥珀色の目は、瞳孔が今の状況を飲み込めていないようで真ん丸となっていた。
「はてさて、ここはいったい?」
ボンヤリと少女は首を回す。
傍には何やらブツブツと呟きながら難しい顔で書き物を行っている男の姿。
その姿はどこか見覚えがあるのだが中々思い出せない。では何か思い出すきっかけでも無い物かと視線を移していけばイヤーな記憶をフラッシュバックさせる赤い塊があり――。
「あ、ああああああああ!! ドラゴン!! みんな何のんびりしているのさ?! 早く逃げないと揃って丸のみに……」
そこまで言って「あっ」とこれまでの経緯の全てを思い出した。
集まる視線に対し、少女はただアハハと引きつった笑みを見せる事しかできなかった。
リオンは目を覚ました少女を前に座る。
少女の見上げるその視線のさきにあるのは肩に乗ったミュールであり、文字通りの瞬殺の悲劇を思い出してしまった様子で怯えたように震えていた。
何があったかと言えば、怒ったミュールがその尻尾で叩き上げた後、足で踏んづけて止めを刺そうとしたのをリオンが止めたのである。少女は体が頑丈なのか当たり所が良かったのか、はたまたミュールが加減をしたのかは分からないが、かつて才ある若き冒険者たちの自信と骨をへし折った一撃を受けて服の下にあざを作っただけで済んでいた。
怪我の具合を確かめるための不可抗力にして必要最小限の範囲であり、リオンに下心などが無かった事は加えておきたい。
それで大した外傷も無かったので取りあえず目が覚めるまで待っていたのである。
「まず最初に、どうして襲って来たの?」
至極当然の疑問である。
返答によっては今後の対応を色々と考えなければならない。
「それは、その~」
『あ?』
「ヒッッッ!! ――――実は、ちょっとした依頼を受けていたのです……」
「その依頼とは?」
「えーっと……近く、町を訪れる者の中に危ない系のがいるから、懐柔するか殺すかしてこいと…………その、私は普段はそんな依頼とか受けないんですでも最近は出費がかさんでお金が無くて、それで魔が差しただけなんです本当ですこの目を見てくださいこんな綺麗な目をした美少女がそんな荒事すると思いますかいいえするわけがありませんだからその大変申し訳がないと心から反省をしていますし足も洗うのでどうか命だけはお助けを――」
「あ、はい分かりました」
「ええそうですよねそう簡単には納得できませんよねでは罪の償いとなりますが先ほどもいったように持ち合わせも無くアナタ様を満足させられるものが提示できるかは分かりませんが生娘たるこの体を代償として――へ?」
「事情は分かりませんが、何か依頼を受けて危ない人を退けようとしたって事ですよね?」
「あーまあ、はい、そういう事ですけど」
「ならいいです。“そういう類”なら進路変更の必要ありませんし」
「お兄さん、もしかして訳あり系?」
「まあ色々とありまして」
詳しくは流石に話せない。
しかし少女は何かを考えこむように難しい顔で黙ってしまう。
果たして変な勘違いでもされてしまっただろうか、と少しばかりリオンは不安になった。
「では、私を雇いません?」
あんまりにも唐突な提案にミュールまで意味を理解しかねて唖然とした。
目の前の少女は、自分が命を狙った相手に売り込みを行っているのである。そういう行為は傭兵という稼業の者ですら信用にかかわる為、滅多な理由が無い限り行わない禁じ手のようなものというのが常識だ。
そもそも相応の理由があったとして、相手がその提案を受け入れるかは別の話である。
一度でも命を狙って来た以上、寝返ったフリをして再び命を奪う機を伺っている可能性を否定できないだろう。信用などできようはずもない。
進んでそんな危険を取り込む狂人が果たして世界に何人いるというのか。
流石のリオンも現実的に考えて目の前の少女と共に街へ向かうのは、些かならず抵抗がある。
「私、フィリアンと言うもので所謂ところの傭兵みたいなものです」
「フィリアン?」
その名前に反応を示したのはオーリアだった。
「知っているんですか?」
「フィリアンっていや、今向かっている町に最近来た変わり者の名前と同じだな。道端の大道芸で金貰ってよ、それで孤児院のガキどもにパンを買ってやってるんだと」
「あ、はい。そのフィリアンで間違いないです」
『ほんとか?』
そんな人物がどのような経緯を得て他人の命を狙う事になったのか、謎は深まる一方だ。
「雇うとは、具体的にどのような?」
「聞いての通り私は近くの町に最近暮らしているので色々と案内とかガイドとか出来ると思います。それに警護に関しても自信ありです。町中ではそちらのドラゴンさんは先ほどみたいに戦う事は出来ませんよね? ならそれをカバーするのに私はうってつけだと思います!」
「……どう思います?」
「俺は悪くねぇと思うがなー」
『我は反対だ。この小娘、まだ隠している事が多すぎる』
「私を雇った人の情報とかも正式雇用してくれたら教えますぜ?」
へへへ、と悪い顔を作ってフィリアンは言う。
コロコロと態度も表情も良く変わる人だ。確かにミュールの言う通り信用するには怪しすぎるように見えるが、逆にここまで怪しいと大丈夫なのではないかとも思えてくる。
決定権はリオンにあるので暫し悩む。
「あ、そうだ一つ聞きたいことがあったんでした」
そう思い出してミュールの方を向く。
「彼女を雇わないとして、逃がすとしたらミュールはどうする?」
『有無を言わさず殺す。有益な情報がこれ以上手に入らない以上、生かしておく価値がない。リオンに傷をつけた罪で影も形も残さず焼き尽くす』
怯えたように震えるフィリアンと、再燃する怒りに目をギラつかせるミュール。
この返答を受けてリオンの選択は一つとなった。
「じゃあ、様子見込みで雇いましょう」
ポカンとするフィリアン。
直後すぐ隣と正面からそっくりな、しかし込められた意味が正反対の叫び声が同時にあがる。
この影響でその後少し、リオンは自分の耳が正常であるか心配をすることになった。
いや、幼さのある顔つきや残念な体型から少女と言った方がいいかもしれない。
人間とは決定的に違う獣人族特有のとんがり耳と尻尾は髪と同じ白色で、アーモンド形な琥珀色の目は、瞳孔が今の状況を飲み込めていないようで真ん丸となっていた。
「はてさて、ここはいったい?」
ボンヤリと少女は首を回す。
傍には何やらブツブツと呟きながら難しい顔で書き物を行っている男の姿。
その姿はどこか見覚えがあるのだが中々思い出せない。では何か思い出すきっかけでも無い物かと視線を移していけばイヤーな記憶をフラッシュバックさせる赤い塊があり――。
「あ、ああああああああ!! ドラゴン!! みんな何のんびりしているのさ?! 早く逃げないと揃って丸のみに……」
そこまで言って「あっ」とこれまでの経緯の全てを思い出した。
集まる視線に対し、少女はただアハハと引きつった笑みを見せる事しかできなかった。
リオンは目を覚ました少女を前に座る。
少女の見上げるその視線のさきにあるのは肩に乗ったミュールであり、文字通りの瞬殺の悲劇を思い出してしまった様子で怯えたように震えていた。
何があったかと言えば、怒ったミュールがその尻尾で叩き上げた後、足で踏んづけて止めを刺そうとしたのをリオンが止めたのである。少女は体が頑丈なのか当たり所が良かったのか、はたまたミュールが加減をしたのかは分からないが、かつて才ある若き冒険者たちの自信と骨をへし折った一撃を受けて服の下にあざを作っただけで済んでいた。
怪我の具合を確かめるための不可抗力にして必要最小限の範囲であり、リオンに下心などが無かった事は加えておきたい。
それで大した外傷も無かったので取りあえず目が覚めるまで待っていたのである。
「まず最初に、どうして襲って来たの?」
至極当然の疑問である。
返答によっては今後の対応を色々と考えなければならない。
「それは、その~」
『あ?』
「ヒッッッ!! ――――実は、ちょっとした依頼を受けていたのです……」
「その依頼とは?」
「えーっと……近く、町を訪れる者の中に危ない系のがいるから、懐柔するか殺すかしてこいと…………その、私は普段はそんな依頼とか受けないんですでも最近は出費がかさんでお金が無くて、それで魔が差しただけなんです本当ですこの目を見てくださいこんな綺麗な目をした美少女がそんな荒事すると思いますかいいえするわけがありませんだからその大変申し訳がないと心から反省をしていますし足も洗うのでどうか命だけはお助けを――」
「あ、はい分かりました」
「ええそうですよねそう簡単には納得できませんよねでは罪の償いとなりますが先ほどもいったように持ち合わせも無くアナタ様を満足させられるものが提示できるかは分かりませんが生娘たるこの体を代償として――へ?」
「事情は分かりませんが、何か依頼を受けて危ない人を退けようとしたって事ですよね?」
「あーまあ、はい、そういう事ですけど」
「ならいいです。“そういう類”なら進路変更の必要ありませんし」
「お兄さん、もしかして訳あり系?」
「まあ色々とありまして」
詳しくは流石に話せない。
しかし少女は何かを考えこむように難しい顔で黙ってしまう。
果たして変な勘違いでもされてしまっただろうか、と少しばかりリオンは不安になった。
「では、私を雇いません?」
あんまりにも唐突な提案にミュールまで意味を理解しかねて唖然とした。
目の前の少女は、自分が命を狙った相手に売り込みを行っているのである。そういう行為は傭兵という稼業の者ですら信用にかかわる為、滅多な理由が無い限り行わない禁じ手のようなものというのが常識だ。
そもそも相応の理由があったとして、相手がその提案を受け入れるかは別の話である。
一度でも命を狙って来た以上、寝返ったフリをして再び命を奪う機を伺っている可能性を否定できないだろう。信用などできようはずもない。
進んでそんな危険を取り込む狂人が果たして世界に何人いるというのか。
流石のリオンも現実的に考えて目の前の少女と共に街へ向かうのは、些かならず抵抗がある。
「私、フィリアンと言うもので所謂ところの傭兵みたいなものです」
「フィリアン?」
その名前に反応を示したのはオーリアだった。
「知っているんですか?」
「フィリアンっていや、今向かっている町に最近来た変わり者の名前と同じだな。道端の大道芸で金貰ってよ、それで孤児院のガキどもにパンを買ってやってるんだと」
「あ、はい。そのフィリアンで間違いないです」
『ほんとか?』
そんな人物がどのような経緯を得て他人の命を狙う事になったのか、謎は深まる一方だ。
「雇うとは、具体的にどのような?」
「聞いての通り私は近くの町に最近暮らしているので色々と案内とかガイドとか出来ると思います。それに警護に関しても自信ありです。町中ではそちらのドラゴンさんは先ほどみたいに戦う事は出来ませんよね? ならそれをカバーするのに私はうってつけだと思います!」
「……どう思います?」
「俺は悪くねぇと思うがなー」
『我は反対だ。この小娘、まだ隠している事が多すぎる』
「私を雇った人の情報とかも正式雇用してくれたら教えますぜ?」
へへへ、と悪い顔を作ってフィリアンは言う。
コロコロと態度も表情も良く変わる人だ。確かにミュールの言う通り信用するには怪しすぎるように見えるが、逆にここまで怪しいと大丈夫なのではないかとも思えてくる。
決定権はリオンにあるので暫し悩む。
「あ、そうだ一つ聞きたいことがあったんでした」
そう思い出してミュールの方を向く。
「彼女を雇わないとして、逃がすとしたらミュールはどうする?」
『有無を言わさず殺す。有益な情報がこれ以上手に入らない以上、生かしておく価値がない。リオンに傷をつけた罪で影も形も残さず焼き尽くす』
怯えたように震えるフィリアンと、再燃する怒りに目をギラつかせるミュール。
この返答を受けてリオンの選択は一つとなった。
「じゃあ、様子見込みで雇いましょう」
ポカンとするフィリアン。
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