【休載】ラストサマーメモリー

綴子

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第1話

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 最寄りの駅の改札を出て駅ビルへの連絡通路を歩いていると、かなめ先輩が急に足を止めた。

「どうかしました?」

「ほら見て、花火大会のポスターがある」

 促されるまま掲示板の方へ視線を向けると、そこにあったのは数年ぶりに開催される花火大会の予告ポスターだった。

「ホントだ。さっき通ったときは、全然気が付きませんでしたよ。今年は花火大会やるんですね」

 協賛企業が減ったとかで規模が縮小され続けて、数年前にとうとう開催を取りやめてしまった花火大会。それが、市制施行五十周年ということで復刻したらしい。

「ね、花火大会行こうよ。のぞむの浴衣姿が見たいなぁ」

「えっ! でもっ……ぼく、浴衣持ってないですっ」

「それなら、買いに行こう」

「い、今からですか?!」

 解散の予定を急遽変更して買った藍色の浴衣。
 だけどその年、ぼくが浴衣に腕を通すことはなかった――。


 +++


「明日から夏休みが始まりますが、学生の本分を忘れてはしゃぎすぎないように。それから、期末テストの補講については――」

 終業式が終わって帰りのホームルーム。
 クラスメイトたちは明日から始まる夏休みに色めきだっていて、さっきの集会でも聞いた注意事項を繰り返している担任の言葉に耳を傾けている生徒の方が少数にだった。

 斯くいうぼくもその一人で、窓の外に広がる薄灰色の空を眺めていた。
 登校時にはほんの少し青空が覗いていたけれど、今では全体を雲が覆い、更に遠くから微かに雷鳴が響いている。まだ昼前だというのに夕方のような薄暗さで、だんだんと教室の中の方が明るいようにすら思えてきた。
 そんな空模様は、まるで明日から始まる夏休みを素直に喜べないぼくの心境を反映しているかのようだ。


 去年の夏、要先輩が死んだ――。
 恋人を喪った悲しみは、夏休みがぼくにとっての鬼門になるきっかけになるには十分すぎた。

 その日はUターンラッシュのピークだった。そんな中、高速道路で起きた玉突き事故。
 不幸な事故だったんだとみんな口を揃えて言っていたけど、ぼくはそんな風に割り切ることが出来なかった。

 もし、花火大会に行く約束なんてしていなければ――と後悔したところで、ぼくがその日に戻るなんて事はできるはずもない。要先輩がいなくなった後の残りの夏休みを、ぼくは抜け殻のようになって過ごしていた。



 学級長の号令でホームルームが終わると黙々と帰り支度をする。鞄に詰め込むのは、今日配布された数枚のプリントだけだからすぐに終わった。

 明日から始まる夏休みの予定を嬉々として語らうクラスメイトを横目に、誰に挨拶をするわけでもなく席を立ち教室を出ようとした瞬間――。

花原はなばら待って!」

 思いもよらない人物から呼び止められた。

「えっ……何……」

 柳川やながわ智人ともひと
 クラスの中心的な人物でいつも友人たちに囲まれている。所謂“陰キャ”と呼称されるぼくなんかとは対照的な存在。クラスメイトとはいえ、関わることなんてこの先ないだろうと思っていた。
 そんな彼が突然声をかけてくる理由が思い当たらなくて、ただただ困惑することしかできなかった。

「あのさ、夏休み一緒に遊ぼうよ」

 柳川の次なる言葉でぼくの頭は更に混乱した。一緒に遊ぶ? 席が隣同士というだけで会話すらした事がない、接点皆無のぼくたちが?

「返事くらいしたら?」

 意味が分からなさすぎて返事をできずにいると、いつも柳川を取り囲んでいるうちの一人、茶髪の女子生徒が面白くなさそうにぼくを睨みつけながら冷たく言い放った。
 だけどそんなことを言われたところで、すぐに返事をすることができるのなら苦労はしない。もだもだとしているぼくに苛立ったのか、気の強そうな彼女は組んだ腕を指でとんとんと打ち始めた。その姿でぼくは更に萎縮する。
 更に、この奇妙な状況に気がついたクラスメイトたちが好奇の視線を向けてきた。普段こんなに注目されたことがないから、緊張して口から心臓が飛び出そうだった。

「いきなり話しかけたから驚かせたよね、ごめん。夏休みってなんか予定ある?」

 柳川は極めて穏やかな口調でそう聞いてきた。何か反応をしなければと、ぼくは必死に首を横に振った。

「よかった。じゃあ一緒に遊べるね」

 いつの間にか柳川と遊ぶことは確定事項になってしまったらしい。もちろん、選択の余地があったとしてもスクールカースト上位に君臨する彼の誘いを断るなんてことはできるはずもないけれど、ぼくには選択肢すら与えられないのかと落ち込んだ。

 そもそも趣味どころか共通の話題だってなさそうなぼくを遊びに誘うということは、きっと財布担当が欲しかったんだろう。穏やかそうな顔をしているのに、そんな一面もあったんだなと勝手に落胆する。

「明日はそうだな、十一時くらいにT駅の東口でいいよね」

 渋々頷くと、柳川は「じゃ、また明日」と言って仲間たちを引き連れて教室を出て行った。残されたぼくは、いまだに向けられるクラスメイトたちからの視線に耐えきれず逃げるように教室を出た。
 幸い、柳川たちは廊下で他のクラスの生徒たちと話をしていて、後ろを早足に通り過ぎるぼくには気がつく様子はなかった。
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