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第8話
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スターズカフェを出たあと、ぼく達はバスに乗っていた。
駅を出発した頃は、埋まっていた座席も空席の方が多い。目的地の最寄りのバス停に着く頃には、乗客はぼく達以外に老夫婦が一組だけになってしまった。
バスに揺られること四十分。市街地を抜けて山道を進んで着いたのは自然公園だった。
この自然公園には、大きな遊具があるアスレチックエリア、テニスやスケートができるスポーツエリア、動植物園・散策コース、サイクリングコースやバーベキューエリアなどがある。
「ここまで上がってくると結構涼しいな」
バスから降りると、柳川は身体を伸ばしながらそんなことを言った。
「ほんとだね。駅前の暑さが嘘みたい」
木陰を通る風がひんやりと心地がいい。市街地のあの暑さがまるで嘘みたいだ。
「行こうか」
バス停の後ろにある中央エリアに続く階段を登る。階段とはいえきちんと舗装されているものではなく、山道を少し整えた程度の階段できちんと段差になっている部分と斜面になっている部分があり歩きづらい。
そんな悪路を顔色ひとつ変えず柳川はすいすいと登って行った。
なんとか登り切ると中央広場に出る。隣にアスレチックエリアから聞こえる子供のはしゃぐ声を聞きながら息を整えていると、柳川がスポーツドリンクのペットボトルを差し出してきた。
「ほら、水分補給」
到着早々にバテているぼくを気遣って目の前にある自動販売機で買ってきてくれたらしい。
「っ……ありがとう」
お礼を言って受け取り、蓋を開けてぼくは一気に煽る。
「おお、いい飲みっぷり。普段の運動不足が祟ったな」
「ううぅ……」
正論を言われてぐうの音も出ない。
「この後の移動は園内バス使おうか。パス買ってくるよ、学生証提示で二五〇円だって。そろそろ動けそう?」
園内マップを確認していた柳川がそんな提案をしたからぼくはすぐに頷いた。
売店で園内バスのパスを買って、停留所へ向かう。『中央エリア駅』と書かれ看板の横には既に何組かの親子がバスを待っていた。その後ろに並ぶとすぐにバスが来た。
まるで汽車のような形の園内バスの登場に、先に待っていた子供たちが歓声をあげる。
「すごーい!」
「絵本で見た銀河鉄道みたいっ!」
そんな風にはしゃぐ子供たちの姿を見て、ぼくも幼い頃のことを思い出した。
アスレチックエリアで遊んでいる時、他の親子が乗っているのを見て自分も乗りたいとせがんだけれど、その時は乗ることはなかった。まさか、この歳になって乗ることになるとは思わなかった。
「花原はコレ乗ったことある?」
「今日初めて乗ったよ」
停留所に並んでいた人たちが乗り込むとゆっくりと動き出す。歩くよりは少し早いスピードで進みはじめた。
「じゃあ、奥にある動植物園エリアとかに行くのは初めて?」
「うん。今日はそこに行くの?」
「そう。もしかしてアスレチックエリアで遊びたかった?」
「アスレチックは……遠慮したいな」
そう答えると、柳川は笑った。冗談で聞いたらしい。
動植物園・散策コースエリアの停留所に着くと、ぼく達は園内バスを降りた。目的地である動植物園は散策コースの奥の方にあるからしばらく歩かなければならない。
看板の案内に従って遊歩道を歩く。両サイドには百合が大輪の花を咲かせており、周囲に甘い香りを充満させていた。
しばらく歩くと全面がガラスの建物にたどり着く。入口でチケット買って建物内に進むと、外とはまた違う蒸し暑い空間が広がっていた。所謂、温室というものなのだろう。
辺りには白くて大きな蝶々が何頭も飛んでいた。まるで異世界に来てしまったかのような錯覚に陥る。
「この辺りは南国の植物エリアだよ。ヤシとかバナナ、マンゴーなんかの木があるし、そこにあるのはハイビスカスだね」
隣を歩く柳川から解説が入る。彼が意外な方向性の知識を持っていることに驚いた。
「意外って顔してる」
ぼくの方に視線を向けた柳川が言う。心の中を読まれたかと一瞬焦った。
「ご、ごめん」
「いいの、いいの。前に彼女にも同じ反応されたし。オレの親父がここで働いてて、小さい頃から何度も遊びに来てるから何となく覚えただけなんだよ」
「それでも、凄いって思うよ」
その理由を聞いてぼくは納得した。
二年に進級して柳川と席が隣になったけど、陽キャが怖いと話すこともしてこなかった。夏休みに遊ぼうと半ば強引に約束させられて、関わりを持つことになって最初のうちは気が乗らなかったのに、今では楽しいと思っている。
柳川はたった二日間でぼくの中の彼の印象をガラリと変えてしまった。
彼の人間性に圧倒されていると、顔の前を急に大きな蝶が通り過ぎていった。驚いてよろけたぼくを、柳川が咄嗟に腕を掴んで支えてくれた。
「うわっ」
「おっ、大丈夫か?」
「ごめん。びっくりしちゃって」
「構わないよ。それより、足とか捻ってない?」
「平気。柳川が支えてくれたから」
「この辺じゃこんな大きい蝶々ってあんまり見かけないからな」
「アゲハ蝶も結構大きいよね」
「ああ、確かに。この蝶はオオゴマダラっていって沖縄の方に生息してるんだ。アゲハ蝶より多分大きいよ。近くで較べたことないから分からないけど、体感的に」
柳川が指で輪っかを作って、脳内にあるアゲハ蝶と比べようとしているのがなんだか面白かった。
「ぼくもこっちの蝶々の方が大きいかもって思った」
「後でどっちが大きいか調べてみるわ。でさ、この蝶々サナギがめっちゃ綺麗だから見せたいんだけど、どっかにいるかなぁ」
柳川はそう言って木の葉の影を探しだした。ぼくもそんな柳川の後ろについて歩いていった。
駅を出発した頃は、埋まっていた座席も空席の方が多い。目的地の最寄りのバス停に着く頃には、乗客はぼく達以外に老夫婦が一組だけになってしまった。
バスに揺られること四十分。市街地を抜けて山道を進んで着いたのは自然公園だった。
この自然公園には、大きな遊具があるアスレチックエリア、テニスやスケートができるスポーツエリア、動植物園・散策コース、サイクリングコースやバーベキューエリアなどがある。
「ここまで上がってくると結構涼しいな」
バスから降りると、柳川は身体を伸ばしながらそんなことを言った。
「ほんとだね。駅前の暑さが嘘みたい」
木陰を通る風がひんやりと心地がいい。市街地のあの暑さがまるで嘘みたいだ。
「行こうか」
バス停の後ろにある中央エリアに続く階段を登る。階段とはいえきちんと舗装されているものではなく、山道を少し整えた程度の階段できちんと段差になっている部分と斜面になっている部分があり歩きづらい。
そんな悪路を顔色ひとつ変えず柳川はすいすいと登って行った。
なんとか登り切ると中央広場に出る。隣にアスレチックエリアから聞こえる子供のはしゃぐ声を聞きながら息を整えていると、柳川がスポーツドリンクのペットボトルを差し出してきた。
「ほら、水分補給」
到着早々にバテているぼくを気遣って目の前にある自動販売機で買ってきてくれたらしい。
「っ……ありがとう」
お礼を言って受け取り、蓋を開けてぼくは一気に煽る。
「おお、いい飲みっぷり。普段の運動不足が祟ったな」
「ううぅ……」
正論を言われてぐうの音も出ない。
「この後の移動は園内バス使おうか。パス買ってくるよ、学生証提示で二五〇円だって。そろそろ動けそう?」
園内マップを確認していた柳川がそんな提案をしたからぼくはすぐに頷いた。
売店で園内バスのパスを買って、停留所へ向かう。『中央エリア駅』と書かれ看板の横には既に何組かの親子がバスを待っていた。その後ろに並ぶとすぐにバスが来た。
まるで汽車のような形の園内バスの登場に、先に待っていた子供たちが歓声をあげる。
「すごーい!」
「絵本で見た銀河鉄道みたいっ!」
そんな風にはしゃぐ子供たちの姿を見て、ぼくも幼い頃のことを思い出した。
アスレチックエリアで遊んでいる時、他の親子が乗っているのを見て自分も乗りたいとせがんだけれど、その時は乗ることはなかった。まさか、この歳になって乗ることになるとは思わなかった。
「花原はコレ乗ったことある?」
「今日初めて乗ったよ」
停留所に並んでいた人たちが乗り込むとゆっくりと動き出す。歩くよりは少し早いスピードで進みはじめた。
「じゃあ、奥にある動植物園エリアとかに行くのは初めて?」
「うん。今日はそこに行くの?」
「そう。もしかしてアスレチックエリアで遊びたかった?」
「アスレチックは……遠慮したいな」
そう答えると、柳川は笑った。冗談で聞いたらしい。
動植物園・散策コースエリアの停留所に着くと、ぼく達は園内バスを降りた。目的地である動植物園は散策コースの奥の方にあるからしばらく歩かなければならない。
看板の案内に従って遊歩道を歩く。両サイドには百合が大輪の花を咲かせており、周囲に甘い香りを充満させていた。
しばらく歩くと全面がガラスの建物にたどり着く。入口でチケット買って建物内に進むと、外とはまた違う蒸し暑い空間が広がっていた。所謂、温室というものなのだろう。
辺りには白くて大きな蝶々が何頭も飛んでいた。まるで異世界に来てしまったかのような錯覚に陥る。
「この辺りは南国の植物エリアだよ。ヤシとかバナナ、マンゴーなんかの木があるし、そこにあるのはハイビスカスだね」
隣を歩く柳川から解説が入る。彼が意外な方向性の知識を持っていることに驚いた。
「意外って顔してる」
ぼくの方に視線を向けた柳川が言う。心の中を読まれたかと一瞬焦った。
「ご、ごめん」
「いいの、いいの。前に彼女にも同じ反応されたし。オレの親父がここで働いてて、小さい頃から何度も遊びに来てるから何となく覚えただけなんだよ」
「それでも、凄いって思うよ」
その理由を聞いてぼくは納得した。
二年に進級して柳川と席が隣になったけど、陽キャが怖いと話すこともしてこなかった。夏休みに遊ぼうと半ば強引に約束させられて、関わりを持つことになって最初のうちは気が乗らなかったのに、今では楽しいと思っている。
柳川はたった二日間でぼくの中の彼の印象をガラリと変えてしまった。
彼の人間性に圧倒されていると、顔の前を急に大きな蝶が通り過ぎていった。驚いてよろけたぼくを、柳川が咄嗟に腕を掴んで支えてくれた。
「うわっ」
「おっ、大丈夫か?」
「ごめん。びっくりしちゃって」
「構わないよ。それより、足とか捻ってない?」
「平気。柳川が支えてくれたから」
「この辺じゃこんな大きい蝶々ってあんまり見かけないからな」
「アゲハ蝶も結構大きいよね」
「ああ、確かに。この蝶はオオゴマダラっていって沖縄の方に生息してるんだ。アゲハ蝶より多分大きいよ。近くで較べたことないから分からないけど、体感的に」
柳川が指で輪っかを作って、脳内にあるアゲハ蝶と比べようとしているのがなんだか面白かった。
「ぼくもこっちの蝶々の方が大きいかもって思った」
「後でどっちが大きいか調べてみるわ。でさ、この蝶々サナギがめっちゃ綺麗だから見せたいんだけど、どっかにいるかなぁ」
柳川はそう言って木の葉の影を探しだした。ぼくもそんな柳川の後ろについて歩いていった。
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