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特別編:Sランク冒険者の過去

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僕は月中悠一郎。まだまだ新米のDランク冒険者だ。
まだまだ弱いけど、努力してAランク冒険者まで上り詰めるのが夢…ではないけど目標みたいな感じだ。
そんなこと言っときながらまだ2階層にも到達してないのが現状。
1階層の中盤にいるカマキリがどうしても倒せない。
毒霧を巻いてみたり、水魔法の「水球」の中に閉じ込めて窒息死させようとしたりしたけど、毒霧は風魔法で吹き飛ばされたし、窒息死はカマキリが口の中に空気の球を含んでいて水の中でも呼吸をしていたので僕が先に魔力切れになった。
一度、運良く後ろを取れた時に奇襲で一気に決めようとしたけど風を自分の周りに発生させて、その空気に触れたものを感知するという風魔法の擬似感知で見破られた。
それで、悩んで悩んで悩んだ結果が今のこの罠だ。
簡単な罠だけど、カマキリには効果抜群のはず。
何てったって蝶の魔物を餌にしているのだから。
この蝶の魔物を生け捕りにするのにも時間がかかった。
罠は簡素なものだ。
そこまで良いものは思いつかなかったから、足を踏み入れたらワイヤーが絡みつくような感じのやつにしてある。これは先輩冒険者から教えてもらった。
たっぷり時間はかけた。
これで出来なかったらもう実力勝負だ。
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待つ事30分。長かった。やっとカマキリが水魔法の擬似感知の範囲に入った。
これは風魔法の擬似感知の水魔法版。
詳しくはまた今度に。
さて、擬似感知は罠の周囲30メートルに張ってある。
ここまで来れば直ぐだ。
千里眼がカマキリの姿を捉えた。
もうちょっと…もう少し……あと2秒……今!
魔力強化を足のみにかけて飛び出す。
糸で縛られてるはずだし、完璧な一撃だったはず。
なのに
「ぐぅっ!?」
風魔法で吹き飛ばされた。動揺しながらなんとか受け身をとる。
そんな…あのワイヤーは一時的にとはいえ魔力を封じて、擬似感知を使えなくする事は出来るはずだ。
まだ弱いとはいえ僕の魔力を全部注ぎ込んだ付与錬成だ。(付与錬成とは、あるものに特定の効果を付与するもの。)
これが破られるならダメかも……ん!?
ワイヤー切られてるじゃんか…これじゃあ出来ないよね。仕方ない。実力勝負だ。
剣を抜く。
この剣にも炎の効果が付与されている。
斬りつけるごとに炎が燃え上がる感じ。
対カマキリ用に自分で一から作った剣だ。
これで勝てないなら先輩方に手伝ってもらう他ない。
剣を構え、集中する。
相手の動きを全て見切るつもりで対峙する。
[スキル「集中lv1」を獲得しました。]
カマキリがゆっくりと動く。
その鋭い鎌が振られる。
距離で言うと全く届かない。
でも僕はその時、生存本能が必死で鐘を鳴らしているのを聞いていた。
そして、それに従い、その場から飛び退く。
次の瞬間には鎌から発生した真空波が地面を抉りながら、今まで僕がいた場所を通り過ぎて行った。
[スキル「危機感知lv1」を獲得しました。]
やっぱり厄介だな風魔法。
でも、僕は勝つ。勝ちの要素より負けの要素の方が多くても、勝つ。
このくらい出来なくてAランク冒険者なんて目指せるわけがない。
だから、勝つ。
危機感知を無視して魔力を通した剣で風の刃を弾く。
[スキル「魔衝波」を獲得しました。]
こうやって弾いて、逸らして、躱して、それで最後に叩き込みたい。
風の刃を弾きながらカマキリに接近する。
そして、風の刃を出してできた隙に剣を振り下ろす。
「うらああああああああ!!!」
が、鎌で受け止められてしまう。
鋭い音がして剣が割れた。でも一本腕を持って行った。
魔衝波を併用していても、度重なる無理でそうとう脆くなっていたらしい。
でも、ここで負けるわけにはいかない。
魔衝波を発動する以外の魔力を右手に集中させ、力をためる。
もうカマキリは回避できる状態ではない。
「あああああああああああ!!!」
魔力の籠手が出来たような状態になった右手を声を出しながらカマキリに向かって振り抜く。
同時に魔衝波を発動。
さしものカマキリも耐えられなかったようで、砕け散る。
僕が手に入れた戦利品は腕一本だけ。
でも、とても嬉しかった。
「勝った……!」
拳を突き上げ、そう宣言した。
誰もいない迷宮の中にその声が静かに響いた。
そして僕は魔力切れの状態になってしまったがために持ち上げるだけでも一苦労の鎌を持って街まで帰った。
……結局さっきの魔力の籠手みたいなのはなんだったのだろう。
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