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闘技大会:早希

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早希は順調に大会を勝ち上がっていた。
予戦などは無傷の勝利のほうが多かったくらいだ。
今は本戦の準々優勝を決める対戦だ。
早希はもう何度も聞いた紹介のアナウンスを聞き流しながら、舞台へと登る。
相手は大剣使いの戦士だ。
気分が高揚しているのか顔が赤い。
ガタイがよく、身長も早希の二倍はあろうかという大男。
大剣も二メートルはあり、斬るよりは叩き潰すと言った使い方のほうが正しいだろう。
体の至る所にいろいろな傷があり、正に歴戦の戦士といった有様だ。
だが、ここにいる一人の少女は幾百の修羅場を潜り抜け、死神の鎌を首に添えられながらも生き残り、戦争となればいつでも前線で死神とタップダンスを踊り続けてきた化物に鍛えられた少女だ。
大会の空気に当てられて気分を高揚させるような雑魚には負けまい。
…準々決勝まで勝ち上がってくる人間であるからして決して雑魚ではないのだが。
 そして対戦が始まった。
早希は開戦一番、銃撃一発。
悠一郎特製の炸裂弾が男に急迫する。
男は驚いたことにこれを剣で切り捨ててしまった。
簡単に切れる程悠一郎の錬成は甘くないはずだがそれすら突破するだけの技量と力はあるようだ。
歴戦の戦士のような見た目は伊達ではないようだ。
驚愕に一瞬動きが止まった早希へ男は接近し、その大剣を大上段から豪速で振り下ろす。
大質量の金属塊が目の前の少女を叩き潰さんと迫る!
だがここにいるのは化物に戦闘法を体に叩き込まれた少女だ。
この程度では死なない。
銃身を使って巧みに衝撃を逃し、技後硬直で固まる男に電磁加速した弾丸を至近距離で放つ。
だが男も伊達に準々優勝まで這い上がってきていない。
大剣を手放し間一髪のところで避ける。
早希は置いて行かれた大剣を破壊しようと集中的に攻撃を浴びせようとするが男が接近し直す方が早かった。
握り締められた男の拳が闘技場の床に突き刺さり、吹き飛ぶ破片が早希の頬を浅く切り裂く。
早希はバックステップで距離を取りつつ得意のクイックショットで男が武器を拾うのを阻止しようとする。
男は大剣の柄を足で跳ね上げ、射線から逃れるように体を捻り空中の大剣を取り、回転しながら弾丸を切り捨てる。
早希は軽快に地面を蹴って男の懐へ飛び込む。
男はガンナーである少女が踏み込んでくるとは思わなかったのか驚愕に目を見開いて固まってしまう。
だがやはり実力者であるのかその時間は一秒にも満たなかった。
しかし価千金。
早希は大剣の間合いよりも中に侵入し縦横無尽に二丁の銃を振るう。
男は隠し持っていた短剣二本を使って受け流し、反撃しているがそれはただの一撃も届かず、至近距離から発砲される電磁加速された弾丸や、その後ろから迫る視認困難な風の弾丸によって徐々に追い詰められていく。
そしてついに、決して少なくない流血に衰弱してしまった体が超近距離で行われる高速戦闘についてこられなくなってしまった。
膝をついた男の額に、硬いものが押し付けられた。
試合終了の合図。
早希は準々決勝を勝ち抜き、めでたく準決勝まで歩を進めた。
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