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決着つけよう三階層:二日目-ボス部屋ガチ攻略戦~早希サイド~-

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悠一郎が飛び出したあと、早希は銃を構えエイと相対する。
未だに壁にぶつけられた衝撃と痛みを引きずっていて思考が判然としないが、意志の力で振り払う。
幾分、頭がスッキリし、脳が現状認識を始める。
エイには一度目の邂逅で早希が撃ち抜いた傷が幾つか。
対して早希は叩きつけられた傷が一つ。
ダメージ量で言えばどっこいどっこいといった所だが、分が悪いのは早希の方だろう。
先程の衝突て脊髄を損傷している。
傷自体は悠一郎の似非回復魔法で治っている。
が、治ったのはあくまで傷だけ。
痛みと衝撃は消しきれていないし、それがある以上今まで通りに動くのは難しい。
だが、その程度で負けては顔が立たない。
早希は、悠一郎に鍛えられているのだから。
残像を生む速度で踏み込み、右手の銃に魔弾を創り出す。
魔弾は、言うなれば魔法を圧縮して弾丸状にしたものだ。
今回使ったのは風の魔弾。
毒液が厄介なので尾から切り落とすつもりだろう。
狙い違わず細い尾に魔弾が命中し、血を撒き散らしながら吹き飛ぶ。
早希はそれを見届けると即離脱。大袈裟なまでに回避行動を取りながらその場から離れる。
血と毒液が混ざり合った液体がそこら中に散り、地面に無数の穴が開く。
アレに当たった時の自分を想像して背筋が薄ら寒くなり、直ぐにその想像を打ち消す。
倉庫から一本の長銃を抜く。
ワイバーン素材を惜しみなく使ったライフルだ。悠一郎が言っていた切り札の一つでもある。生憎、闘技大会では使う機会がなかったが。
加速領域が大幅に拡張され、早希の身長の倍ほどはある3.5メートル程になっている。
取り扱いは難しいが威力はワイバーンの雷ブレスを遥かに超える。
甲高い独特のチャージ音を立てながらライフルが光り出す。
攻撃はすべてライフルが展開した障壁が防ぐ。
このライフル、チャージ中に障壁を展開する機能を付けている。
悠一郎の会心の一作だ。
そして一際高いチャージ音と光が発されたのち、進路状の全てを刈り取る弾丸が発射される。
早希の濃紺の魔力を纏い、螺旋の形に大気を引き連れて突き進む。
音を置き去りにして進む螺旋の大気は斜め下から口腔に侵入。
脳髄を貫き、後頭部へ抜ける。
驚くべき事にまだ数秒は意識があったようだが情けは無用。
炎の魔弾を創り出し、エイの体を灰に帰す。
灰は風に吹かれて飛んでいき、早希はその場に倒れ込む。
精神的な負担に、痛みと衝撃を負った体を押して動いていた弊害が、緊張の糸が切れた瞬間に襲い来る。
目を眇めて悠一郎の方を見ると鯨を地面に引き落とすのが見えた。
その光景を最後に、早希の意識は暗闇に引き込まれた。
 
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