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四階層攻略開始:一日目

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一歩足を踏み入れると足が埋まり、風で飛ばされた砂が視界を白に近い黄色に染める。
肌を刺すような殺気が全方向から叩きつけられ、赤い双眸がこちらを睨む。
足を入れ替え、一歩進むとまた足が埋まる。
極限まで隙間を無くした装備の隙間からも極小の砂粒がいくらか入り、埋まる足と相まって不快感を助長する。
強風のせいで聴覚が半分ほど潰され、周りの音が聞こえにくい。
注意して聞いてみると枯木に砂粒が当たる音や砂を踏んで進む音が聞こえてくる。
不意に近づいてきた魔物を一刀の元に斬り伏せ、素材を回収してまた砂に足を踏み入れる。
ここから先は気を抜けばコンマ一秒後には死ぬ可能性のある魔窟。
【枯木ノ樹海~砂に足を取られ進んだ死の魔窟~】
僕達は今四階層へ来ている。
右腕は直してもらった。違和感は全然ない。
流石は優里だ。
砂は足を絡め取り、常に転倒の危険が付き纏う。
装備の隙間からも砂粒が入り込み、早くも帰ってお風呂に入りたい気分だ。
障壁を張っても今では手遅れだ。
中の砂は外に出す事は出来ない。
横合いから飛んできた攻撃を大地魔法の土壁で防ぎ、手首のスナップで真空波を生み出す。
砂一面の景色を不可視の刃が走り、射線上にいた魔物を両断…しない。
魔物は俊敏な動きで真空波を避け、拳を振るう。
拳に手を当てて手首の動きでひっくり返す。
一瞬空中に浮いて無防備を晒した魔物の頭に足裏を当て、地面まで一気に叩き落とす。
地面と足裏とに挟まれて頭が潰れ、嫌な感触が足裏に残る。
砂に飲み込まれないうちに解体し、部位ごとに分けて倉庫に保管する。
少し後ろを振り向いて早希の方を確認すると四苦八苦しながら付いてきているところだった。
「早希。足裏の硬さに任せて踏み切るんだ。慎重に行くと飲まれるよ。」
「う、うん…」
まだどこか不安そうだったけれど心なしさっきよりは進む速度が早くなったような気がする。
下から急激に迫る気配を感知。
地面を爆ぜさせながら横に飛び退く。
次の瞬間、大口を開けた巨大な蚯蚓が飛び出した。
鼻を突く強烈な悪臭が振り撒かれ、大抵の物は溶かす強酸性の唾液が垂れ流される。
体は見えている部分で十メーターはあり、太さは大人が両手を広げて六人分程。
炎魔法で火球を創り出す。中に一つ特殊な火球を入れて握る。
こちらに口を向けた瞬間、全力投球。
口に入り、胃袋へと到達。
そして
爆発エクスプロージョン。」
手を握り締める。
爆音が鳴り響き、蚯蚓が中から爆散する。
緑っぽい体液を撒き散らしながら肉片が飛び散り、後ろにいた早希が悲鳴を挙げる。
かなり精神的に来るものだったかもしれない。
障壁を前面に張り、防ぐ。
嫌な音がして障壁に肉片や体液がぶつかり、流石に顔を顰める。
これは回収する気にならないね。
障壁を解除し、ボトリと落ちた肉片が砂に飲み込まれていく。
砂が緑色に染まるが、それも直ぐに消える。
今まで戦闘があった地域は戦闘の後など一片も見せず、完璧に覆い隠してしまった。
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