迷宮攻略してたらいつの間にか世界救ってた

新世界の神

文字の大きさ
110 / 139

大晦日特別番外編:一年の終わりに

しおりを挟む
曇天の空から白い粉が落ちる。
真っ白に染まった街道を人々が自分の腕を抱えるように摩りながら歩いていく。
街は魔石の色とりどりの光に包まれ、白い吐息を染め上げる。
「さぁ、早希、僕たちも行こうか。」
早希の手をとって歩き出す。
「ふぇ!?」
「どうしたんだい?」
「…手…」
「人が多いし、迷っちゃうだろう?」
実際のところ、迷ったとしても感知系スキルがあるし、全く問題はないと言える。
「ん…」
もっともらしく言ったことが効いたのか顔を真っ赤に染めながらも何も言わずについてくるようになった。
僕たちがこれから向かうのは山奥の神社。
そう。この寒さが厳しい時期に山奥だ。
まぁ、年が明けた頃の初詣でも寒いものは寒いんだがね。
なぜ初詣の時に行かないのかというと、その時期は混んでいるし、何より年明けは僕たち高ランク冒険者に対する依頼が増える。
暴徒鎮圧に、大御所の護衛に、テロ防止に。
だからAランク以上の冒険者は今日、大晦日の内にお参りをしておくのだ。
そして例に漏れず僕たちも今日の内にお参りを済ませておく。
お賽銭も多少は多めに入れていいはずだ。
今年は特に依頼は受けなかったけれど、闘技大会、S級衝突、執政院からの依頼など、それなりの量のお金が入ってきている。
慎ましく暮らせば向こう三年は暮らせる程だ。
まぁそれが無くても一生遊んで暮らせるぐらいのお金はあるんだがね。
夏には綺麗に咲いていた花が落ちてしまった道を歩く。
常緑樹はあまり無く、足元には枯葉ばかりが落ちている。
足元の枯葉すら少なくなってきて、生物の気配も感じなくなってきた頃、黒い木ばかりが立ち並ぶ森の奥に、赤い鳥居が見えた。
鳥居の端っこを通る。
真ん中は神様の通り道と言われている。
いや、魔神きみの事じゃないよ。
中はそれなりの量の人がいる。
僕たちの知らない間に出てきた新参のSランクや、熟練のAランク、まだまだ新しいAランク。
そして奥の方には見慣れた仲間。
宗谷と優里、美奈代だ。
彼らに近づこうとすると、周りの冒険者たちがこちらを見ては舌打ちを繰り返す、という光景が何度か見られた。
女も、男も両方だ。
男は僕の方を見て。女は早希の方を見て。
何か分からなくて隣の先を見ると、早希も僕を見ていたようで目が合った。
こてん、と首を傾げる早希が可愛くて口を緩めるとぷいっと顔を逸らされてしまった。
その様子が可愛らしくてまた口が緩む。
ニコニコしながら歩いていると前に一つの六人パーティが立ちはだかった。
「チッ…見せつけやがってよぉ…あぁ?」
「え、えぇ…失礼だが僕は君達と面識があったかな?」
「ねえよ!こんなとこで見せつけてくれるからよぉ!」
「うん?訳のわからない因縁だね?全く…一体何を見せつけてるって…」
遮るように男の口から言葉が飛び出す。
「そこの女とよぉ!えぇ!?」
その言葉に、早希を見る。
ぽかんとした顔が面白くて口から笑い声が漏れた。
「っ~~~!もうっ!!」
「あはは。ごめんごめん。で、君たちは退く気は無いのかい?」
「無いに決まってんだろうが!!こんだけ見せつけられて黙ってれるわけねえだろ!!」
だから何を…そう思ったところで男が拳を突き出してくる。
障壁を作り出して防ぐ。
「ってぇ…囲んじまえ!相手はたかが二人だ!高ランク冒険者の世界ってのを叩き込んでやれ!」
高ランク冒険者の世界、ね。
「さて、掛かってくるといい。僕はここから動かないし、彼女もここから動かない。」
「舐めてんのかてめぇ!!」
男の一人が剣を抜いた。
「ばっ…剣はまずいだろ!」
「腕の一本や二本は覚悟してもらうぜ!!」
何が彼をそうさせるのだろうか。
剣を抜いた男は果敢むぼうに前から斬り掛かってくる。
悪く無い太刀筋だ。多少訓練を積めば良い男になるだろう。
今後こんな事件を起こさなければ…だけどね。
狙いは宣言通り僕の腕のようだ。
左腕。
「本当に動かないのかよ!!馬鹿な奴だぜ!!」
キィン!と甲高い音が響いた。
僕の着ていたコートが、彼の剣を砕いた。
「なっ、ダマスカス鋼の剣を…!?」
ふむ。ダマスカス鋼ね。悪くない。
「さて、それで終わりかい?なら、こっちの番だね?」
風魔法で僕たちの周りの酸素を抜く。
真空にはしない。圧力で破裂してしまうかもしれないからね。
無事、何事もなく気絶した彼らをそこらへんの茂みへ蹴り込む。
人体からはあまり鳴らないような音が聞こえた気がしたが気のせいだろう。
宗谷たちに近寄ると先に美奈代が気づいた。
「おっ、悠一郎じゃん!どったよ!」
「やぁ、美奈代。例年と同じさ。今日の内にお参りを済ませておきたくてね。」
「ん?おぉ、悠一郎。さっきの騒ぎはやっぱお前なのな。」
「えっ」
「悠一郎はどこでも厄介ごとの種だよね。」
「えっ」
「ん、ユウ、大変そう。」
「早希まで!」
僕は別に好きで厄介ごとに首を突っ込んでいるわけじゃないんだ…
というか宗谷はわかってたなら助けに入ってくれれば良いじゃないか。
「ん?んん?んんん?」
美奈代がすっと一歩引いて僕たちを眺めるように視線を走らせる。
「やぁやぁ二人ともお姉さんの知らない間に仲良く・・・なっちゃって…」
少し言葉に変なニュアンスが混じった気がするが気のせいだろう。
美奈代の視線が少し下に移る。
そこは、そう。丁度手の辺りか。
「あっ、あぁ、あぅぅ…」
早希が珍妙な声を上げた。
僕も少し視線を下して見る。
そこに移るのは繋がれた手。そう言えば街を出る時から繋ぎっぱなしだったっけか。
早希の顔は火が出そうなほどに真っ赤っかだ。
さっきのパーティの憤りはそういう事だったのだろうか。
思えば冒険者たちの舌打ちもそういう事なのか。
なんだろう、途端に気恥ずかしく…ならないな。
ふと、手が振り解かれる感覚。
見ると顔を真っ赤に染めた早希が顔を覆って地面にぺたんと座り込んでいた。
腰が抜けてしまったのだろうか。いや、どこにそんな要素が。
優里と美奈代のは微笑ましいものを見るような目で早希を、宗谷は面白がるような目で僕を、それぞれ見ている。
どうすれば良いのだろうか。今まで色恋は無縁であったためこんなシチュエーションに遭遇した事がない。
「ほ、ほら、とりあえず、立ったら?服汚れちゃうよ?」
「……立てない……」
「もう、しょうがないな。手。貸したげるから。」
差し出された手を取った早希は少し立ち上がったものの、足が震えて立てないようだ。
しょうがないな。
膝裏とうなじに手を当てて、脚を掬うように早希を抱え上げる。俗に言うお姫様抱っこだ。
「やっ、やぁ…」
幼児のようにブンブンと首を振る早希だが首に手を回しているところを見るとどっちかわからない。
どっちにしろ立てないんだからこうするしかないだろう。
その後は御神籤を引いてお賽銭を入れて。
ちなみに僕は大凶だった。
早希は吉。
宗谷が中吉で美奈代が大吉、優里が小吉だった。
まぁ、そこまで悪いものとは捉えていない。
巫女さんが言っていたんだが、大凶というのは中々出ないし、むしろ大吉よりも良いかもしれないと。
逆説だね。
帰る頃には早希も立てるようになっていた。
その後宿で色々と言われたがそれはまた別のお話だよ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...