人形と少年騎士と

sayure

文字の大きさ
上 下
29 / 31
悪魔王の章

piece29 お人形さん

しおりを挟む
「テンダー・レイ!!」

僕は、細身剣を相手に向け、光線をバタルドンの心臓目がけて、放った。

視界にも止まらない光速をもつ、この青白い光は、一瞬でバタルドンに届いた。

バタルドンは、外壁まで吹き飛び、頭を強打し、倒れていった。

チェダーは、もう1人の男の子に引っ張られ、なんとかこの場から去ろうとする。

バイカルの恐ろしく冷たい目が、僕の方へ向いた。

マイハークは、この一瞬の隙に、バイカル相手に、攻撃呪文を詠もうとしていた。

「フハハッ!マイハーク…その魔法を放てば、今度はこの小僧が、死ぬぞ?」

バイカルは、マイハークのそばに近寄り、僕を指差した。

あ…

気づけば、バタルドンは、僕の頭をつかみ上げ、鋭い爪を僕ののど元に突き立てていた。

なんて、恐ろしく俊敏、なんだ。

「さぁ、お前の死か、この小僧の死か。選ぶがよい」

マイハークは、目の光を落とした。

「ば、バカだ…」

僕は、力を込めて、バイカルに言った。

「僕の師匠は、お前が…考えてる様な、甘ちゃんじゃ、ないよ…」

バタルドンの爪が、のど元に食い込み、息がつまる。

「きっと、きっと…」

マイハーク。

「お前らは、マイハークに。こ、殺さ、れ、る…」

マイハークの弱味になるくらいなら、僕の命は、ここまで、だ…

細身剣の切っ先を自分ののど元に向けた。

さよなら、マイハーク…

今まで、

ありがとう…

その時、

大きな声で、

子供が叫んだ。

「…し!」

なんだ…?

「弱…虫!」

よわ、い?

「弱虫!弱虫!嫌いだ…、大っ嫌い!」

チェダーが涙を流して、必死に叫んでいた。

そうか…

君が。

…僕に

言葉を、くれるなんて…

僕は、弱虫だから。

あんな事になって、みんなを道連れにする様で、苦しかった。

マイハークの言った…

救えない命もあれば、

まだ救える命もある、

僕の存在は。

今、どこにも、位置しない…

でも、

楽になろうとして…いるだけなのかも、知れない。

みんな、戦っているのに。

チェダー、君もずっと、悔しくて、苦しい思いをしながらも、
 
生き続けていたんだろう。

たくさんの家族に、囲まれていたのに、今は。

僕も…

悔しいよ。

君達を…

聖術騎士を…

仲間を…

みじめな思いを、させた。

僕は、細身剣の切っ先をバタルドンの腕に向け、斬りつけた。

バタルドンは、僕を離し、そして鼻息を荒くして、睨みつけた。

足元には、僕のお人形。

目がぱっちりと開いて、青白く光っている。

僕も、貴方も、本当は、お互いに恋しがっていた…

そうだろう?

マイハーク。

今まで、僕の心が壊れない様に、守ってくれて、ありがとう。

本当は、少し気づいていたんだよ。

このお人形は…

僕の、

半身…
しおりを挟む

処理中です...