君の決して似合わない黒薔薇

sayure

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灰の花

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白いローブに腰に黒い革のベルト2本で締め、首から聖母のチャームのついた銀の首飾りをしている。肩までの黒い長髪、顔は色白で、瞳は茶色、身長は6フィートほどある青年。彫りが深くて目は大きく、二重まぶた、鼻は細く、顔立ちが良い。



「君にあげよう」



白いローブの青年は口角を上げ、微笑み、手に持っていた黒薔薇を、しゃがんで呆然としている少年に差し出した。

少年はその差し出した黒薔薇に気づき、欲しくないと首を横に振った。



「そうか。じゃあ、君が花を喜ぶ人を思い浮かべて、浮かんだら、その人にあげたらどうだろう?」



白いローブの青年は、拒絶された黒薔薇を、再度受け取ってもらおうと、新たな提案をしてみせる。

ほら、受け取ってと。黒薔薇を少年に差し出した。

少年は、悔しそうな顔をして、泣きそうな気持ちを何とか抑えながら、首を激しく振り、拒絶した。

それを見て、白いローブの青年は、残念そうに黒薔薇を眺める。そして、目についた焼け落ちた家の中に向かってそれを投げた。ふわりと大きく円を描いて、家の中の黒いすすの塊の上に落ちる。

盗賊に、街の至る所に火を放たれ、家を焼かれ、家族を亡くし、憎悪と悲哀、そして絶望感を表情に浮かべ、まるで亡霊の様に同じ所をゆっくりと歩き回る者達。



「…ほら、君は生きているんだよ?」



白いローブの青年は、不器用な励まし方をして、微笑みでごまかす。

まだ君は生きているから、そのまま死人に引っ張られないで、と言いたい気持ちが、少年にはうまくは伝わっていない様だ。

少年が虚ろな目でじっと青年を見て、失意と共に重い溜め息を漏らした。



「お兄ちゃん、この街の人じゃないんでしょ…?」



少年は、白いローブの青年に忌々しそうな目を見せ、少し咎める様な言い方をした。

それに対して、白いローブの青年は、言葉に詰まったのか、何も言わず、ただじっと少年を見つめた。



「…お兄ちゃん…?」



「私は、難しい事に挑戦したみたいだ。邪魔者は去るとしよう」



白いローブの青年は、少し淋しそうな表情を浮かべて、それでも口元には笑みを残した。



「また、会おう…」



街を見回しても、まだ黒い煙を空に伸ばしている場所がある。まだ建物が完全に鎮火していないのだろう。この街は、多くの犠牲者を出し、悲哀の大きな渦に取り込まれ、消える事はない。白いローブの青年は、この場所に相応しくないと思い、足早にこの場を去ろうと急いだ。



誰か、私を見てはいないか?



いや、大丈夫だ。



だって、私はもう…



白いローブの青年は、首飾りに垂れ下がっている聖母のチャームを撫で、掌に乗せて、キスをした。そして、幸せそうに微笑んだ。



君は、英雄だろう?



魔王を倒した、英雄ハヤト。



君は今…



何処にいる?



この大陸は、今、平和とはかけ離れているのだろう。



こんな時に、君の出番じゃないのか。



白いローブの青年は、焼け崩れた教会の側に、黒い花を見つけた。彼はその花に引き寄せられる様に、少し駆け足で向かった。もしかして、あの花ではないか、と。

彼が辿り着く前に、その花は風にその姿を崩され、灰となり、空に散っていった。

彼はその灰を淋しそうな目で追い、溜め息をつく。



「…ここに、長居は無用だな」



白いローブの青年は、深い悲しみに捕われた者達の間をすり抜け、そのまま、街を出た。

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