愛なんて恋なんて魔法をかけてお菓子みたいに食べましょう

sayure

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第十の扉

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執事のクレハトールが、洋館の玄関先に黒光る高級車を回し、愛衣奈めいなが現れるのを待つ。

しばらくして、玄関の戸が開き、愛衣奈が僅かながら警戒心を抱く様にしてゆっくりと車に歩み寄っていく。クレハトールを見る目は、懐疑的だ。

愛衣奈が車の後部座席に入ると、クレハトールはいつもより数倍上げた愛嬌(クレハトール査定)を振り撒き、ドアを閉める。



「愛衣奈様、それでは学校へ向かいますぞ」



「…わかったわ」



愛衣奈は今朝話題に出た、部屋の物色ツアーなど気にも留めていなかった。

彼女は茶褐色の鞄を、クレハトールに気づかれない様にゆっくりと開け、昨日の夜に手に入った薬師蜘蛛の体液入りのシリンダーを取り出した。そして、それを両太股の間に置く。

そして、続いてA~Cと油性ペンで書いたシリンダーを取り出し、どれにしようかと手の中でシリンダーをカチャカチャ回し、偶然一番手前に止まったCのシリンダーと、太股に置いたシリンダーを右手に並べて持ち、二つのシリンダーの栓を左手で外し、Cのシリンダーの液体を、薬師蜘蛛の体液の入ったシリンダー内に流し込む。

そして一つに混ざったシリンダーと空になったシリンダーに栓をして、空になったシリンダーとAとBのシリンダーを鞄の中に戻す。

薬師蜘蛛の体液とCのシリンダーの液体が入ったシリンダーを混ぜる様に、ゆっくりとシリンダーの上と下の向きを交互に変える。



「愛衣奈様…」



「あぁ…、はい!?」



クレハトールの声かけに驚き、愛衣奈はトーンのおかしな返事をして、それを誤魔化す様に、左手で頭を掻いた。



「授業参観日の事で御座いますが…」



クレハトールの言葉に、愛衣奈は呆れた様に笑った。



「クレハトール、わかってるわ。どうせ、パパは来ない。それはいつもの事じゃない?私の言葉に少しむきになってたけど、どうせ、今回も来ないのよ」



愛衣奈は気落ちした声を出さない様に、何とか気丈に振る舞って、そう言った。



「いえ、まだ望みが絶たれた訳では御座いませぬが、もし仮にそうなったとしたら、宜しければ、この私が代わりに…」



「ううん、大丈夫だから…」



愛衣奈は、学校への送り迎えでも、学校から離れた場所ではないと嫌がる。自分がお金持ちの家庭だと知られ、人から色眼鏡で見られたくないのだ。クレハトールは立ち振る舞いがいかにも執事で、彼が学校に来てそれを悟られたくない。

愛衣奈は、サロペットのポケットから今朝の朝食の残りであるオレンジのスポンジケーキを取り出し、そこにシリンダー内で混ぜた液体を、ゆっくりと染み込ませる様に流した。
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