乙女ゲームに転生するはずが神様が間違えました。

夢珠瑠璃

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10 荒野の村

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眩い太陽の光が瞼に差し込んで来て、男は思わず目を擦った。

夜勤明けにはまぶしすぎる。
薄暗い廊下に戻ると、思わず欠伸が出た。

「よう、テッド。眠そうだな」

声と共に勢い良く肩を叩かれる。不意を突かれて舌を噛みそうになった。

「お、お前こそ人のこと言えないだろ。交代の申し送りの時、寝てただろ、ニール」

「バレたか」

ニカッと歯を見せて笑うニールは、衛兵仲間である。
このところどうしてか、夜勤や日勤で顔を合わせることが多い。

「こんな爽やかな朝じゃあ、仕事帰りに一杯引っかけることもできないよな。さっさと帰って寝るとするか」

「あ、報告書を置いて行かなきゃ」

「一緒の夜勤だっただろ。俺も行くよ」

二人は他愛もないことを喋りながら、廊下の突き当りの扉を開けた。

「「わっ!!」」

部屋から出てきた人間と、出会い頭にぶつかった。
テッドとニールの衛兵二人組の方が体格が良かったので、相手の方が転がった。

「痛っ・・・!」

見れば、転がっているのはテッドたちの上役に当たる役人だった。

「これは、お役人様、す、すみません」

「申し訳ありません。大丈夫ですか?」

慌てて助け起こすと、役人はテッドたちを見てハッとした顔になり、胸倉を掴んできた。

「お、お前たち」

「す、すみません。そんなに怒らなくても・・謝っているじゃないですか」

「ち、違う!お前たちを探していたのだ!」

「俺たちを?お役人様がですか?」

「そうだ。あの日の書類はどこだ!」

「あの日?あの日って?」

「神殿の方たちが夜にお出掛けになられた日だ!」

役人は大声を出してから、ハッとして自分の手で自分の口を塞いだ。
そして声をひそめた。

「その日の門の記録だ。まさかあの方たちの出門を記録してはいないだろうな」

「記録しましたけど?」

不思議そうに言ったテッドの頭を、役人は持っていた書類でスパーン、と叩いた。

「ナニするんすか!?」

「内密にしろと、言われただろうが!」

「ああ、そう言えば」

役人とテッドのやりとりを黙って見ていたニールが、ポンと両手を叩き合わせた。

「その日の書類、お役人様の署名をもらい忘れてて、まだ提出してません。今ここに持ってます」

「なにぃ!でかした!」

役人はニールの手から書類を奪い取ると、奥の机に向かった。
ドカッと椅子に座り込み、真新しい書類を取り出す。

「いいか、誰も来ないように見張っていろ」

そう言って、書類を書き写し始めた。閉門間近の出門記録だけを抜かして。

「それって書類の改ざ・・・むっ!」

余計なことを言いかけたテッドの口を、ニールが慌てて押さえた。

「シッ!お前は黙ってろ。すみません、お役人様」

書類を写し終わり、署名、捺印を終えた役人は、書類を所定の棚に仕舞った。
そして本当の書類を軽く丸めながら、衛兵二人組をじろりと睨んだ。
そのまま壁際に近づき、丸めた書類を燭台の蝋燭の炎にくべた。

「あっ」

書類はメラメラと燃え上がり、あっという間に灰になってゆく。

「お前たち、分かってると思うが、他言無用だぞ。書類を偽造したことが露見すれば、一生昇進はないと思え。悪くすれば、罪に問われる」

「どうして罪に問われるのに、こんなことを?」

「・・・神殿に逆らう方が恐ろしいからだ。」

「まさか聖職者の方がそんなことを」

テッドの言葉に、役人の男は無言で見返した。小さく息を吐く。

「この街で、ということではないが、良く聞く話なのだ。たとえ生命があったとしても、神殿から破門でもされた日には、この国では生きて行けない」

「そんな・・・」

衛兵たちは小さく身震いした。

「あの方がどんな方で、どんな使命をお持ちなのかにもよるがな。それを知る術のない我々には、こうして万が一に備えるしかないのさ」





*******************




「ハックション」

オメガがクシャミをしたので、真凛とルークは思わず顔を見た。

「寒い・・・わけないよね。風邪?」

「俺は風邪などひかない」

「じゃあ、誰かに噂されてるんだよ」

「そんなのは迷信だ」

オメガは身も蓋もなく言った。
確かに砂ぼこりがすごい。砂漠から歩き続けて今は岩と土砂が混じり合った荒野を進んでいる。

「もう少し行くと、村が見えて来ますよ。今日は宿に泊まれそうですね」

「わぁ、よかった。お風呂に入りたかったの」

真凛が言うと、二人は奇妙なものを見る目つきになった。
沈黙の中、馬の蹄の音だけが響く。

「マリン様、このあたりでは水は貴重品なのです。目的地の街に着けばお風呂がありますから、それまでは御主人様の水魔法で我慢して下さいね」

「・・・そっか、分かった、我慢する」

「我慢だと?俺をこき使うあたり、世界一の贅沢だと思うがな」

三人で会話しながら歩く。
砂漠を抜けてからは暑くは有るが、日差しは幾らかましになってきたので、昼間進んで、夜は休むことにした。

フード付きのローブのような服を着ているが、かなり日焼けした気がする。
街を出てから鏡を見ていない。
まだ自分の新しい容貌に慣れていないせいもあって、無意識に避けているのもあるのだが。

自分の顔が嫌いなわけではない。むしろ好きだ。
金髪のふわふわ巻き毛や、まつ毛くるくるの大きな瞳の愛らしい女子に憧れていたのは事実だがーーー考えてみると、自分の姿がそうなってみたら、すごく落ち着かないのではないか。
トイレにも行かなそうなのに、休日にゴロゴロしたり、ラーメンにニンニク入れたり、アイスクリームの蓋を舐めたりはできない。
その点、キリッとした美人なら、そういう点もある意味ギャップ萌えとして受け入れてもらえるのではなかろうか。
誰に?という疑問はこの際置いておく。


「マリン様、もうすぐ着きますよ」

ぼんやりしていたのを眠っていると思ったのか、ルークがそっと肩に触れて揺すってきた。

顔を上げると、木製の柵にグルリと囲まれた集落が見えてきた。
さすがに人の手が入っているので、周囲よりは緑が多い。

近づいて行くと、柵は独特の形をしているのが分かった。先を尖らせて削った丸太が斜めに組まれて、柵の隙間も網で塞がれている。
獣避け?
真凛はチラリと横目で見ながら、村の正門をくぐった。

ルークが門の守人にギルドカードを提出し、手続きに入った。

「ウブル村へようこそ。暑さで大変だったでしょう。魔物には襲われませんでしたか?」

「お疲れさまです。幸運にも、魔物には出会わずにすみました」

「それは運がいい。最近では、どこでも被害が増えてますからな」

「そんなにひどいのですか?」

「はあ、砂漠が広がっていますから、食べ物がないんです。魔物に襲われて、獣までもが減っています。そのおかげと言ってはなんですが、畑や家畜が獣に受ける被害は減ってるんですがね」

守人は、人への被害がなければいいのですがーーーと心配を口にした。
なるほど、頑丈そうな門は魔物への警戒のようだ。
どんな魔物がうろついているのか、真凛には想像もできなかったが。

宿は二軒あるそうで、守人が『おすすめです!』と言っていた宿に決めた。
こじんまりした宿だったが、部屋はオメガが一人一部屋取ってくれて、真凛は現在、ベッドに寝転がってまったりしている。

(これからどうしようかな。何をして、何を目標に生きて行けばいいのかな?)

なんだか慌ただしくて、一人になる時間もあまりなくて、じっくり考えたことがなかった。
以前は普通のOLで、趣味に生きていてーーー結果、度が過ぎて結婚はおろか彼氏もいない、しかも欲しいとも思わなかった。
真凛の場合、二次元の人とかゲームの中の人が、リアルな人より素敵に見えてしまっていたせいもある。

だがある意味、趣味に生きることができて後悔はしていない。
自分のために生きたから。
だからこれからは、誰かのために、大切な誰かのために生きてみたい。

「・・・できるのかな」

ぼそりと呟きながら、真凛は夢も見ることのない、深い眠りに落ちていった。


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