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6桁の数字と幻影ビルの金塊
037 チャーシュー救出大作戦
しおりを挟む「やっぱり、2階のボタンにぴったりだ」
美玲ちゃんが元王さまからもらった『修羅階』と書かれたプレートを、エレベータ内の操作盤にはめた。
下から2番目。
2階のボタンの横にある窪みに、ぴたりとはまる。
「まさか2階でもプレートが手に入るとはなぁ……。こりゃあ本格的にプレートと金塊の関係が深まったぜ」
突き出た顎を撫でながら操作盤を見つめるジョー。
ぼくは時折瞬く、エレベータの蛍光灯を見上げながら考えた。
「え~っと。例の6桁の数字は142……」
「3階よ!」
間髪入れずに、美玲ちゃんがこたえた。
「いよいよチャーシューを助けに行ける。あの電話からずっと身を潜めたままなの。あんな巨体で狭いロッカーに閉じ込もったままなんて、可哀想だよ……」
確かにちょっと時間がかかりすぎた。
チャーシューは黒い獣に見つからずに、無事でいるだろうか?
ジョーがぼくに訊ねる。
「巨体って、そんなに背がデケェのか?」
「まあ、小学生にしては背も大きいけど……」
「太ってるのよ、超がつくほどに」
美玲ちゃん、デリカシー!
「そうか、百貫デブなのか」
ちょっとジョー、昭和が過ぎるよ!!
「とにかく3階へ行く前に、あの黒い獣にどう対処するか、ちゃんと考えないとだね」
ぼくの冷静な意見に、美玲ちゃんはチャーシューの肩掛けカバンを降ろして中をまさぐった。
「策は考えてある。……これよ」
美玲ちゃんが取り出したのは、見慣れたロゴマークが印刷された茶色い紙袋。
もしかして、それって……。
「ミクドのポテトじゃん! あんなに食べたのに、テイクアウトまでしてたんだ?」
「そうなのよ。なんかチャーシューのカバンが匂うと思ったら……。驚愕よね」
「なんか旨そうな匂いだな? そいつで何をする気だい?」
ぼくらの会話に、ジョーが顎をねじ込み聞いてきた。
美玲ちゃんが真剣な表情でこたえる。
「この匂いを利用する。わたしが黒い獣をポテトでおびき寄せるから、その隙にふたりはロッカーからチャーシューを救い出して。3分後にエレベータに集合よ!」
*
ぼくは唾を飲み込みながら、エレベータ内にある階数表示の小窓を見つめていた。
いつも美玲ちゃんと一緒だったけれど、今回はみんな別々で行動するんだ。
自分の胸を手で押さえる。
心臓が激しく脈打っている。
「3分よ。何があっても180秒後、一旦エレベータに戻るの!」
ニキシー管の数字が『3』に変わったとき、美玲ちゃんが真剣な目つきで確認した。
ジョーもいつになく真面目な表情でこたえる。
「お前ぇたちも、無理すんじゃねえぜ」
渋い金属の擦れる音を響かせながら、エレベータの扉が開く。
ぼくらの予想通り3階は暗闇に包まれていた。
チャーシューと初めて来たときと同じ『闇の階』。
美玲ちゃんがチャーシューの肩掛けカバンを扉のレール上に置く。
戻るときに、エレベータの照明を目印にするためだ。
「じゃあ行くよ、カウントダウン開始!」
ぼくの覚悟も聞かぬまま、美玲ちゃんがポテトの入った紙袋を手にエレベータから飛び出した。
その姿が闇に紛れていく。
「生きて戻れよ、小僧!」
ジョーもぼくに笑顔を見せたあと、暗闇のなかに飛び込んだ。
さっきまで酷い目に遭ってたのに、どうしてそんな……。
ぼくだって……!!
怖る怖る、ぼくは扉から足を踏み出した。
179……178……177……。
腕を伸ばし、カウントダウンしながら暗闇のなかを彷徨う。
黒い獣に見つかるから、ランタンは灯していない。
ええと、169……16…8……16…。
ああもう、数えにくいな!
3桁のカウントダウンって無理あるよね?
普通に数をかぞえよう。
え~っと、いくつ数えたっけ?
とりあえず、20から……。
21……22……23……。
何処にロッカーがあるんだろう?
とにかくフロアの真ん中じゃない。
端の方だ……。
57……58……59……。
そもそも、ここは『闇の階』。
ロッカーなんてあるのだろうか……?
84……85……86……。
硬かった足元が、やわらかくなった。
絨毯でも敷かれているのかな?
119……120……121……。
恐怖で足がすくむ。
時間もないし仕方ないよね?
一旦戻ろう……。
そう思ったとき、ぼくの右手が何かに触った。
これはロッカーじゃなければ壁でもない。
フワフワ……?
違う、チクチクかな……。
やわらかい芝生を撫でているみたい。
あれれ、いきなり感触が変わったよ。
クチュクチュ……?
なんか、くすぐったい。
ああもう、嫌な予感しかしない。
見たくないけど、ぼくは左手に持ったランタンのスイッチを入れた。
……やっぱりそうだよね。
遠退いていく意識のなかで最期に見たのは、目のまえの獣が、ぼくの指をペロペロ舐めている光景だった。
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