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第5話 はじめてのツナ缶
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しおりを挟む「どなたですか? って聞いたら、宅配便です。フルーツの詰め合わせのお届けものです。って言うからさ、もう急いでドアを開けたわ。確かにフルーツの詰め合わせよ。パイナップルみたいな髪型の男と、メロンみたいに傷だらけの顔の男が、イチゴとバナナ柄のシャツ着て、笑って立っていたの。急いでドア閉めたよ。だってあんなごついフルーツ、美味しいわけないじゃない!」
トモミがいつも通り、昼すぎに現れた。
涼やかな空色のワンピースを、ひらりとひらめかせて小型宇宙船をかけ上がり、わたしの右どなりに座った。
「明日は何が届けられると思う? きっと産地直送野菜よ。ごついカボチャ顔の男と、ゴーヤみたいな肌の男が、キュウリ柄のネクタイしめて、えげつない笑顔で立っているんだわ」
その口から次から次へと出てくる単語は、すべて地球の食べ物だろうか?
なんだか食欲を刺激された気がするし、あとで調べるとしよう。
それにしても、今日も朝からとても暑かった。
小型宇宙船の上で仰向けに寝ているわたしを見て、トモミはジンギスカンみたいと笑った。
わたしはジンギスカンとは何かとたずねた。どうやら半球状の鉄板の上で、肉やら野菜やらを焼いて食べるものらしい。
……また食べ物だ。
「ジンギスカンの鉄板があんな形してるのは、昔、モンゴル帝国の皇帝チンギス・ハンが、羊の肉を鉄兜の上で焼いていた名残りなんだよねぇ」
アユムがいつも通り、トモミのあとに現れた。
ずるずると小型宇宙船をよじのぼるアユムの頭を、トモミが両手で押さえつける。
「ひどいよトモミぃ、のぼれないよぅ」
アユムが笑うと、トモミも弾けるように笑った。
その笑顔に、きのうの夕方、泣きはらした目で夜景を見つめていたトモミの姿が重なり、わたしの心はひどく痛んだ。
しかし、どんな言葉をかけるよりも、三人でいつも通りの日々を過ごすことが一番ではないだろうか?
わたしたちの日常は、こんなにも笑顔であふれているのだから――。
わたし自身、そんな日常をくれたトモミとアユムにとても感謝していた。
ふたりは突然現れたわたしのことを、当然のように受け入れて友だちになってくれた。
だからこそわたしは、この星を旅立つ前に、必ずふたりに恩返しをすると心に決めたのだ。
「ふたりに重大な発表があるんだ」
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