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第5話 はじめてのツナ缶
03
しおりを挟む一時間後、最初に現れたのはトモミだった。
いつも通り小型宇宙船をかけ上がったトモミの姿に、わたしは見入ってしまった。
地球の女性はみなワンピースを着るものと思い込んでいたのだが、このときのトモミは、Tシャツにホットパンツ、背中にはデイパックという出で立ち。
すらりと真っ直ぐに伸びた足が、生物学的にとても美しく見えたのだ。
「な、なによハカセ?」
視線に気づいたトモミが、顔を赤くする。
「えっと……。わりと軽装だなと思って!」
とっさにわたしは取りつくろった。
「ハカセこそ用意はどうしたの? いつもと同じ格好じゃない」
わたしはいつものキモノにハカマ姿。それに『全宇宙生物図鑑』――。
仕方がない。小型宇宙船の中に入れないのだから、用意のしようがない。
と、そこへアユムがやってきた。
どっちが背負っているのかわからないほどの大きなリュックサックに、水筒や折りたたみ式のスコップなどをぶら下げ、にぎやかな音をたてて歩いてくる。
「アユム隊員、ただいま到着しました!」
敬礼したとたん、サイズの合わない大きなヘルメットが、顔の前にずり落ちた。
「なによ、そのおおげさな格好! かえって動きずらくなってるじゃない!」
トモミにくどくどと責められ、泣く泣くアユムが必要のなさそうなものをリュックから取り出していく。
と、どこからともなく、わたしたちの前に黒ネコが現れた。
ステネコだ。
ステネコがこちらを見ながら急かすように「にゃあ」と小さく鳴いたので、わたしはみんなに声をかけた。
「帰りが遅くなるといけないから、そろそろ出発しよう」
「そうこなくっちゃあ! えいえい、おぉ~っ!!」
トモミのしつこい小言から逃れるように張り上げた、アユムの威勢の良いかけ声で、わたしたちの探検がついに始まった。
草原を歩きだしてほどなくしたころ、トモミが首を傾げてわたしにたずねた。
「ねえハカセ、このネコちゃん変じゃない?。わたしたちの前を歩いて、まるで道案内をしているみたい」
しかし、わたしは返事をしなかった。
というより、できなかったのだ。
先頭をネコが歩くのは誰が見ても不自然だったし、その言いわけも思いつかなかったからだ。
ちなみにアユムは最後尾を歩きながら、ずり落ちるヘルメットと格闘していたので、不可解なネコの行動には、まったく気がつかなかったようだ。
しばらくすると、地面が一メートルほど窪んだ場所でステネコが足をとめた。
「ここ……?」
と言いかけて、ステネコを見る。
ステネコが小さくうなずくのを確認し、わたしは続けた。
「……がそうだよ」
窪みの斜面にあいた、ぎりぎりネコが通れるほどの小さな穴。
「これがそうなの? もぐらの穴にしか見えないけど……」
トモミがいぶかしげに穴を見つめる。
わたしも実際とまどった。誰だって、この穴を見て『龍の玉が埋まっていそうな洞窟』だなんて思わないだろう。
「でも、ずいぶん奥まで続いている……。あやしいよ、この穴」
しゃがみ込んで真剣に穴をのぞく、アユムの言葉に救われた。
「とにかく掘ってみようよ」
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