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第15話 託された世界
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しおりを挟む「女王陛下、早く脱出してください! 階下からキリ星の攻撃船が迫ってきます!」
母船の最上階、古城の中にある女王の間に、女王は親衛隊長とともにいた。
「監視からの報告によると、あの船にオラキル博士が乗っているそうですね?」
報告にきた親衛隊員に、女王が自ら質問をした。
うろたえる隊員に、親衛隊長がうなづいてみせる。
「……は、はい! 博士が地球人に連れられて洞窟へ入ったあと、攻撃船が動きだしたそうです!」
そこまで報告して、隊員は再び状況確認のため部屋から出ていった。
「親衛隊長は、隊を連れて、すみやかにこの場から去るように」
女王の言葉に、親衛隊長は、まっすぐ前を見つめたまま何もこたえなかった。
「聞こえませんか? 親衛隊はこの場から……」
「聞こえません!」
親衛隊長がきっぱりとこたえた。
「親衛隊の命は陛下とともに。陛下が死を覚悟なさるのなら、わたしたちとて同じこと。わかっておられるはずです」
「しかし、これはわたくしの個人的な……」
そこまで言って女王はやめた。親衛隊長の性格はわかっている。自分が動かない限り、親衛隊を動かすことはないだろう。
女王が大きくため息をつく。
「ここまでか……」
そのとき、親衛隊員が、また息を弾ませながら部屋に飛び込んできた。
「報告します! キリ星の攻撃船が消滅しました。母船内部との摩擦に耐えきれず、爆発したとのことです!」
女王が立ちあがった。
「脱出した者は? 生存者はいましたか?」
「キリ星の攻撃船の乗員は、すべて爆発に巻き込まれたと思われます! 跡形もなく、吹き飛んだそうです!」
笑顔でこたえる隊員。
しかし女王は、その場にくずれ落ちた。
*
「トモミ、起きて」
うっすらと開けた瞳に、まっ青な空が映り込んでいる。
「気がついた?」
突然のぞき込んだわたしの顔を見て、トモミはびっくりして体を起こした。
つき抜けるような青空のもと、鮮やかな緑の野原がどこまでもつづく景色を、トモミは不思議そうに眺めている。
「ここ、緑が丘? ハカセ、わたしたち助かったの?」
「…………」
「ハカセ?」
「ここは緑が丘じゃない。ここにいるのはみな、死に絶えたはずの生き物ばかりだもの」
トモミが息をのんだ。
わたしたちのまわりは、いろいろな生物たちであふれている。しかしそのどれもが、トモミの見たことのない生き物ばかりだろう。
目の前を細長い尾を引きながら蝶が飛んで行く。四つの翼を持つ小鳥がさえずりながら大空を舞い、草かげから、うさぎのように長い耳をもつ、きつねの親子が顔を出した。
「待ってぇー」
ヘビのように長い体のトンボを追いかけて、アユムが野原を走っている。
「……でも、いい。ハカセやアユムと一緒なら」
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