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第15話 託された世界
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しおりを挟む「じゃあ帰ろう。ぼくたちの『緑の丘の銀の星』へ」
トモミが驚いてわたしの顔を見つめた。
「帰れるの? もとの世界へ」
「もちろん。きみにはまだ居場所がある。ぼくも、やるべきことやるよ。きみたちがこの世界に来るのは、まだ早い」
「この世界って……。ハカセ、この世界のことを知っているの?」
「ぼくは託されたんだ。ある人の夢と、この世界を」
わたしはトモミの手を取り、たくさんの生き物たちが往き交う野原を歩いた。
「いまここは、居場所をなくした生き物たちが最後におとずれる世界。でもいつかは、すべての生物が共に生きる世界へ――。
この小さな世界から、本当の世界を変えていくんだ」
*
その世界から顔を出すと、目の前に太くてごつい足があった。
「ほう、たいしたもんだ。あの爆発に耐えられたなんて」
ジランダ議長が見おろして言った。見渡せば貴族院の老人たちも、まわりを取りかこんでいる。
わたしは、爆発の直前に飛び込んだ『全宇宙生物図鑑』から這いずり出ると、図鑑に手を突っ込み、トモミを引っぱり出した。
「地球人も一緒なのか? まさか、報告にあったキリ星人も一緒じゃなかろうな!」
「わぁ、ここにもへんな生き物たちが、いっぱいいるねぇ!」
キリ星の紋章が刺繍された、大きな黒いマントを引きずりながら出てくるアユムを見て、貴族院の老人たちは、悲鳴を上げて部屋から逃げ出した。
「待ってください! 彼はキリ星人に体を乗っ取られていただけです。そのキリ星人は黒い霧となって消えました。安心してください」
「安心などするものか!」
おそるおそる部屋をのぞきこみながら、ジランダ議長が怒鳴った。
「地球人がキリ星人の子孫であるという疑いは、まだ晴れていないのだ!」
さらにジランダ議長のかげから、ズメイ参謀が顔を出した。
「銀河連合議会は緊急に招集された。オラキル博士には地球人とキリ星人の関係を証言してもらう。早急に準備するように!」
ジランダ議長は、きょとんと見つめるアユムを遠巻きによけながら部屋に入ってくると、ぐいっと大きな顔をわたしに近づけて、うなるように言った。
「銀河連合のシンボルであるこの母船が、地球から現れたキリ星の攻撃船によって大きな被害を受けたのだ。死傷者はでなかったが、我らの心は大きな衝撃と恐怖に見舞われた。地球人の運命は、決まったようなものだな!」
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