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第4話 正体
06
しおりを挟む四本の腕を高速で振り回し、まるで独楽のように回転しながら魔鬼紳士が迫る。
メグルは瞬間移動を繰り返すも、拳の一つがメグルの肩をかすって、弾かれた肩掛けカバンから魔捕瓶が飛び出し、床に散らばった。
よろめいたメグルにさらに回転速度をあげた魔鬼紳士が迫る。
寸前でマントを翻そうとするも、痛みで肩が上がらないメグルは四つの拳を連続して横腹にもらった。
「ぐぬぅ……!」
しかし、うめき声をあげて踞ったのは魔鬼紳士の方だった。同時に派手な音を響かせてジムの鏡が崩れ落ちる。
四つの拳から血を吹き出しながら理解できない顔で辺りを見渡すと、背後でメグルが魔捕瓶を拾い上げコルク栓を抜いていた。
「お前が殴ったのは鏡に映ったぼくだ。ぼくは色んな場所に瞬間移動してお前の方向感覚を失わせ、鏡の近くに誘い込んだ。魔鬼の姿は鏡に映らないから、お前はそれと気づかず、ぼくの鏡像と鏡を力任せに殴った」
魔鬼紳士が屈辱的な表情でメグルを睨みつける。
その瞳が真紅に光る刹那、視線がメグルの背後に移動した。
とっさに振り返ろうとしたメグルを、背後から誰かが押さえつける。
「おお、なんて良いタイミングで現れるんだ、ベテラン越界者のきみ! じつはきみが押さえつけてるのは、きみらの仇敵である管理人だ! しっかり捕まえといてくれたまえよ!」
メグルを押さえつけてる男が返事をした。
「あ、あんた、魔鬼だったんか……。よござんす、逃がしませんぜ!」
魔鬼紳士の瞳が再び真紅に光る。
メグルが手にしていた魔捕瓶が砕け散った。
かまわずメグルは呪文を続ける。
「この世に不法に存在する罪深き者よ。十層界の法を犯す者よ。三世十方を統べる如来の名において、無限封印の刑に処す……」
安堵のため息を漏らしながら、魔鬼紳士は近くにあったショルダープレスに腰掛けた。
「無駄だよ管理人のきみ、魔捕瓶は目の前で砕けたろうに……」
そして血だらけに砕けた己の拳を見て自嘲する。
「王者の拳が、もはや使いものにならんな。この体ごと廃棄するとしよう……。しかし助かったよ、さすが三〇〇年も管理人に捕まらずに人間界に潜んできた越界者だ。その頭の星も偽物なのだろう? よくできた星だ!」
メグルを抑えつけている男が自慢げに笑った。
「へへヘ……この擬星玉はおいらが自作したもんです。でもね、ほかにも捕まらないコツがあるんでげすよ」
興味津々の魔鬼紳士が、前のめりになって質問する。
「ほう、参考までに教えてもらえるかね? 何しろせっかく開いた越界門を、たった二ヶ月で嗅ぎつけられてね。近々、大きなプロジェクトがあるってのに、こんなザマでは天魔様に殺されてしまうよ……。で、コツというは……?」
メグルを抑えている男がニヤリと笑う。
「そんなの簡単! 管理人の味方になっちまえばいいのよ!」
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