笑いの授業

ひろみ透夏

文字の大きさ
16 / 31
【高城の章】

3 笑いの授業(1)

しおりを挟む
 
 九月も終盤にさしかかった頃、山の瀬中学校は文化祭に向けて本格的な準備にとりかかっていた。

「文化祭って文化の日にやるものじゃないの? 十月二日って早すぎないか?」
 高城たかぎが積み上げた大小の段ボール箱を、ガムテープで固定しながら聞いた。

「ウチの中学はなんでも行事が早いんだよ。入学式も体育祭もちょっと早めだっただろ? 小学校や高校に通う兄弟がいる家族のために、わざと日程をずらしているって話だぜ」

 塚田つかだが人形の骨組みにトイレットペーパーを巻き付けながらこたえた。

 一年二組の出し物は、『世界に広げよう、笑顔の輪』という今年の文化祭のスローガンのもとに制作した、たんなるお化け屋敷だ。

「あの校長ならズラしかねないだろ? ヅラだけに」

「いや、ほんまはきっちり型にはめたいタイプやで。ヅラだけに」

 男子生徒たちが大工仕事をしている一方で、神楽坂かぐらざか先生は女子生徒たちと、黒い模造紙に白の蛍光塗料で巨大なガイコツを描いていた。
 先生が描くガイコツは昔の浮世絵に出てくる妖怪のようにリアルな描写で、美術部の珠木たまきをはじめ、女子生徒たちは歓声を上げて絶賛した。


神楽坂かぐらざか先生、最近俺たちの『ネタふり』に乗らないせいか、女子と仲直りできたみたいだな」


 塚田つかだが女子生徒たちと内緒話をして笑っている神楽坂かぐらざか先生を、横目で見ながら微笑んだ。それはまさに大仏というあだ名にぴったりの、穏やかな表情だ。


「へえ、なにそれ? 喧嘩でもしてたの?」


 しかし高城たかぎは、積み上げた段ボール箱に灰色の模造紙を貼り付けながら、興味無さげに聞き返した。
 高城たかぎの意外な反応に、塚田つかだの仏顔が、とたんに阿吽あうん像のような表情に変わる。


「おまえ、気付いてなかったのか? 夏休み前まで、珠木たまきたちから総スカン喰らってただろうが」

 高城たかぎはまったくピンときていない様子で、完成した墓石に墨汁で名前を入れている。

「見てこれ、稲田いなだ家の墓。同好会の件での仕返し。ちょっと嫌みかな?」


 無邪気に笑う高城たかぎの姿に、塚田つかだは唖然とした表情で言った。

「おまえも案外、天然だよな? 神楽坂かぐらざか先生のこと言えないぞ。
 笑いをとることに集中しすぎて、ひとの気持ちやその場の雰囲気をつかめないと、ジュンさんみたいになれないぞ」

 ジュンさんと言うのは、高城たかぎが一番尊敬しているお笑い芸人だ。
 テレビでは主に司会をしていて、自分が笑われるようなことは滅多にしないが、共演している芸人やタレントのおかしなところを指摘したり、ツッコんだりして周囲から笑いを取る、いわゆるお笑い業界で言うところの『いじり』の天才だ。


「まあでも、仲直りしたんなら良かったじゃん」


 まさに馬耳東風ばじとうふう
 塚田つかだの忠告は、高城たかぎの耳には全く届かなかった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

未来スコープ  ―この学園、裏ありすぎなんですけど!? ―

米田悠由
児童書・童話
「やばっ!これ、やっぱ未来見れるんだ!」 平凡な女子高生・白石藍が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“触れたものの行く末を映す”装置だった。 好奇心旺盛な藍は、未来スコープを通して、学園に潜む都市伝説や不可解な出来事の真相に迫っていく。 旧校舎の謎、転校生・蓮の正体、そして学園の奥深くに潜む秘密。 見えた未来が、藍たちの運命を大きく揺るがしていく。 未来スコープが映し出すのは、甘く切ないだけではない未来。 誰かを信じる気持ち、誰かを疑う勇気、そして真実を暴く覚悟。 藍は「信じるとはどういうことか」を問われていく。 この物語は、好奇心と正義感、友情と疑念の狭間で揺れながら、自分の軸を見つけていく少女の記録です。 感情の揺らぎと、未来への探究心が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第3作。 読後、きっと「誰かを信じるとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

ミラー★みらくる!

桜 花音
児童書・童話
楠木莉菜、中学一年生。 それはわたしの本来の姿。 わたしは莉菜という存在をずっと見ていた、鏡の中にいる、もう一人のリナ。 わたしは最初から【鏡】の中にいた。 いつから、なんてわからない。 でもそれを嫌だと思った事はない。 だって鏡の向こうの〈あたし〉は楽しそうだったから。 友達と遊ぶのも部活も大好き。 そんな莉菜を見ているのは楽しかった。 でも唯一、莉菜を悩ませたもの。 それは勉強。 そんなに嫌?逃げたくなるくらい? それならかわってあげられたらいいのに。 その瞬間、わたしと莉菜が入れ替わったの。 【鏡】の中で莉菜を見ていたわたしが、束の間の体験で得るものは……

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

オバケの謎解きスタンプラリー

綾森れん
児童書・童話
第3回きずな児童書大賞 奨励賞をいただきました! ありがとうございます! ――七不思議を順番にめぐると、最後の不思議「大階段踊り場の鏡」に知らない自分の姿が映るんだって。 小学六年生の結菜(ユイナ)が通う三日月(みかづき)小学校では、そんな噂がささやかれていた。 結菜は難関中学に合格するため、塾の夏期講習に通って勉強に励んでいる。 だが一方で、自分の将来にひそかな期待と不安をいだいてもいた。 知らない自分を知りたい結菜は、家族が留守にする夏休みのある夜、幼なじみの夏希(ナツキ)とともに七不思議めぐりを決意する。 苦労して夜の学校に忍び込んだ二人だが、出会うのは個性豊かなオバケたちばかり。 いまいち不真面目な二宮金次郎のブロンズ像から、二人はスタンプラリーの台紙を渡され、ルールを説明される。 「七不思議の謎を解けばスタンプがもらえる。順番に六つスタンプを集めて大階段の鏡のところへ持って行くと、君の知らない君自身が映し出されるんだ」 結菜と夏希はオバケたちの謎を解いて、スタンプを集められるのか? そして大階段の鏡は二人に何を教えてくれるのか? 思春期に足を踏み入れたばかりの少女が、心の奥底に秘めた想いに気付いてゆく物語です。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

隠れ御曹司は、最強女子を溺愛したい

藤永ゆいか
児童書・童話
過去のある出来事から、空手や合気道を習うようになった私。 そして、いつしか最強女子と言われるようになり、 男子が寄りつかなくなってしまった。 中学では恋がしたいと思い、自分を偽って 学校生活を送ることにしたのだけど。 ある日、ひったくり犯を撃退するところを クラスメイトの男子に見られてしまい……。 「お願い。このことは黙ってて」 「だったら、羽生さん。 俺のボディーガード兼カノジョになってよ」 「はい!?」 私に無茶な要求をしてきた、冴えないクラスメイトの 正体はなんと、大財閥のイケメン御曹司だった!? * * * 「ボディーガードなんて無理です!」 普通の学校生活を送りたい女子中学生 羽生 菜乃花 × 「君に拒否権なんてないと思うけど?」 訳あって自身を偽る隠れ御曹司 三池 彗 * * * 彗くんのボディーガード兼カノジョになった 私は、学校ではいつも彼と一緒。 彗くんは、私が彼のボディーガードだからそばにいるだけ。 そう思っていたのに。 「可愛いな」 「菜乃花は、俺だけを見てて」 彗くんは、時に甘くて。 「それ以上余計なこと言ったら、口塞ぐよ?」 私にだけ、少し意地悪で。 「俺の彼女を傷つける人は、 たとえ誰であろうと許さないから」 私を守ってくれようとする。 そんな彗くんと過ごすうちに私は、 彼とずっと一緒にいたいと思うようになっていた──。 「私、何があっても彗くんのことは絶対に守るから」 最強女子と隠れ御曹司の、秘密の初恋ストーリー。

その付喪神、鑑定します!

陽炎氷柱
児童書・童話
【第1回きずな児童書大賞、優秀賞受賞】 『彼女の”みる目”に間違いはない』 七瀬雪乃は、骨董品が大好きな女の子。でも、生まれたときから”物”に宿る付喪神の存在を見ることができたせいで、小学校ではいじめられていた。付喪神は大好きだけど、普通の友達も欲しい雪乃は遠い私立中学校に入ることに。 今度こそ普通に生活をしようと決めたのに、入学目前でトラブルに巻き込まれて”力”を使ってしまった。しかもよりによって助けた男の子たちが御曹司で学校の有名人! 普通の生活を送りたい雪乃はこれ以上関わりたくなかったのに、彼らに学校で呼び出されてしまう。 「俺たちが信頼できるのは君しかいない」って、私の”力”で大切な物を探すの!?

宇宙人は恋をする!

山碕田鶴
児童書・童話
【第2回きずな児童書大賞/奨励賞を受賞しました。ありがとうございました。】 私が呼んでいると勘違いして現れて、部屋でアイスを食べている宇宙人・銀太郎(仮名)。 全身銀色でツルツルなのがキモチワルイ。どうせなら、大大大好きなアイドルの滝川蓮君そっくりだったら良かったのに。……え? 変身できるの? 中学一年生・川上葵とナゾの宇宙人との、家族ぐるみのおつきあい。これは、国家機密です⁉ (表紙絵:山碕田鶴/人物色塗りして下さった「ごんざぶろ」様に感謝)

処理中です...