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【高城の章】
3 笑いの授業(1)
しおりを挟む九月も終盤にさしかかった頃、山の瀬中学校は文化祭に向けて本格的な準備にとりかかっていた。
「文化祭って文化の日にやるものじゃないの? 十月二日って早すぎないか?」
高城が積み上げた大小の段ボール箱を、ガムテープで固定しながら聞いた。
「ウチの中学はなんでも行事が早いんだよ。入学式も体育祭もちょっと早めだっただろ? 小学校や高校に通う兄弟がいる家族のために、わざと日程をずらしているって話だぜ」
塚田が人形の骨組みにトイレットペーパーを巻き付けながらこたえた。
一年二組の出し物は、『世界に広げよう、笑顔の輪』という今年の文化祭のスローガンのもとに制作した、たんなるお化け屋敷だ。
「あの校長ならズラしかねないだろ? ヅラだけに」
「いや、ほんまはきっちり型にはめたいタイプやで。ヅラだけに」
男子生徒たちが大工仕事をしている一方で、神楽坂先生は女子生徒たちと、黒い模造紙に白の蛍光塗料で巨大なガイコツを描いていた。
先生が描くガイコツは昔の浮世絵に出てくる妖怪のようにリアルな描写で、美術部の珠木をはじめ、女子生徒たちは歓声を上げて絶賛した。
「神楽坂先生、最近俺たちの『ネタふり』に乗らないせいか、女子と仲直りできたみたいだな」
塚田が女子生徒たちと内緒話をして笑っている神楽坂先生を、横目で見ながら微笑んだ。それはまさに大仏というあだ名にぴったりの、穏やかな表情だ。
「へえ、なにそれ? 喧嘩でもしてたの?」
しかし高城は、積み上げた段ボール箱に灰色の模造紙を貼り付けながら、興味無さげに聞き返した。
高城の意外な反応に、塚田の仏顔が、とたんに阿吽像のような表情に変わる。
「おまえ、気付いてなかったのか? 夏休み前まで、珠木たちから総スカン喰らってただろうが」
高城はまったくピンときていない様子で、完成した墓石に墨汁で名前を入れている。
「見てこれ、稲田家の墓。同好会の件での仕返し。ちょっと嫌みかな?」
無邪気に笑う高城の姿に、塚田は唖然とした表情で言った。
「おまえも案外、天然だよな? 神楽坂先生のこと言えないぞ。
笑いをとることに集中しすぎて、ひとの気持ちやその場の雰囲気をつかめないと、ジュンさんみたいになれないぞ」
ジュンさんと言うのは、高城が一番尊敬しているお笑い芸人だ。
テレビでは主に司会をしていて、自分が笑われるようなことは滅多にしないが、共演している芸人やタレントのおかしなところを指摘したり、ツッコんだりして周囲から笑いを取る、いわゆるお笑い業界で言うところの『いじり』の天才だ。
「まあでも、仲直りしたんなら良かったじゃん」
まさに馬耳東風。
塚田の忠告は、高城の耳には全く届かなかった。
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