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第3章 奇異な転校生
05
しおりを挟む静まり返った廊下に、教室から漏れてくる教師たちの声と、黒板にチョークを走らせる小気味よいリズムが漂っている。
メグルは桜子先生のあとについて、すでに授業が始まっている校舎内を歩いた。
すると、帰ると言っていたはずのモグラが、いつまでもふたりのあとをついて来る。
「いつまでついてくるんだアンドレ。もう帰れよ」
メグルのつれない言葉にも、
「ははは。これが反抗期というやつですかねえ、桜子先生?」
と、まったくこたえていなかった。
桜子先生はふたりの掛け合いなど一切耳に入っていない様子で、かすかに香水の甘い香りを漂わせながら、にこやかな笑みを浮かべて歩いている。
やがて六年三組という札のかかった引き戸の前で立ち止まると、
「さあメグルくん。ここがあなたのクラスよ。先生が名前を呼んだら入ってきてねぇ」
と、教室の中へ入っていった。
その姿を見送ってから、メグルがモグラに噛みついた。
「お前の役目は終わったんだ。もういいかげん帰れったら、モグラ!」
「何を言うのかね?! パパはお前を心配しているんだろうが!」
言い争うふたりの耳に、メグルの名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
「おい息子よ、緊張してないか? パパも一緒について行ってやろうか?」
「うるさい! 人間界をたった一度で卒業した超エリートは、自己紹介のときにどうすればいいかなんて、心得ているんだ!」
メグルは自信満々にそう言うと、溢れんばかりの笑顔をつくって教室に足を踏み入れた。
が、いままで向けられたことのない怪訝な表情で迎えられ、メグルはぎょっとする。
(ありえない! 初対面の相手には、飛び切りの笑顔で接するのが、良好な人間関係を作る第一歩のはずなのに……!)
あせったメグルの笑顔が引きつる。
子どもたちが訝しげな視線を向けるのも無理なかった。メグルのすぐうしろに、怪しげな格好をした、胡散臭い男がついて来ているのだから――。
しかしその怪しげな男が、手にしたステッキをくるっと回して、自慢の口髭をぴんっと弾き、
「メグルの父、六道 土竜でぇ~す。みんな、アンドリューって呼んでね!」
と、素っ頓狂な声を張り上げたとたん、教室は爆発したような笑い声に包まれた。
蝶ネクタイでシルクハットを被ったモグラの姿は、子どもたちにはお笑い芸人そのものに映ったのだ。
「いやぁ、子どもって最高ですね、桜子先生! ぼくも教師になろうかな!」
メグルの紹介も済まぬままに、大はしゃぎするメグルの父親。
(このおかしな状況をどう思いますか……?)
メグルが同情の念を込めて桜子先生を見つめるも、桜子先生までが
「あっはは、変なの!」
と生徒と一緒になって笑い転げていた。
転校初日から、気の重いメグルであった。
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