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第9章 捜索
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しおりを挟む「……それがどうかした?」
桜子先生が、ついにその口を開いた。
「わたしはただサイトを開設して悪口を書き込んだだけ。あの親子はサイトを見ていないし、わたしは何も危害を加えてないわ」
「先生は自分の手を汚さずに、あのサイトを見た親や生徒たちの悪意を利用して、トモルと清美を追い込んだんだ!」
メグルが静かに続ける。
「本能のままに生き、他を顧みることがない。善悪に頓着が無く、命を平気で弄ぶことがある。まるで小動物をいたぶる猫のように……。
癡なるは畜生。先生は『畜生界』から来た越界者ですね」
桜子先生の背中が、かすかに揺れている。
「んふふ……。何を言ってるの? メグルくん変だわ。まるで管理人みたい」
「語るに落ちましたね、先生。管理人を知っている人間などいない!」
「あっはは!」
背を向けたまま、桜子先生は手を叩いて笑いだした。
「ダメねぇ。まだこの世界に慣れてなくって……。ああ、大変だった。人間のフリするのも苦労するわ……」
くるりとふり返ったその瞳は、ぎゅっと細長く、黄色に怪しく光っていた。
「たった一行の文章で、昨日までの友だちを裏切るんだもの。笑えるったらないわよ! 人間なんて上等なもんじゃないわ。ほんと単純。おバカな操り人形よ!!」
メグルはカバンから取り出したマントを羽織り、右手に『魔捕瓶』を掲げた。
「やっぱり、あの方の言った通り、メグルくんは『管理人』だったのねぇ。
でも、こんなに遠くまで誘い出せたんだから、わたしの仕事は大成功! この計画が成功すれば、わたしは魔鬼として生まれ変わり、魔界に迎えられるの。ここでメグルくんに捕まって地獄界に堕とされても、すぐに天魔王様が迎えに来てくれるわ」
桜子先生は腰を落として丸くなると、思い切り地面を蹴った。空高く舞い上がったその姿が、闇夜に紛れる。
「そんな単純なエサに釣られるのも『畜生界』の現れですよ、先生!」
メグルは『魔捕瓶』の栓を抜き、桜子先生めがけて放り投げた。
「この世に不法に存在する罪深き者よ。十層界の法を犯す者よ。管理人の名において、地獄界送りの刑に処す!」
遥か頭上を飛翔する、ビルのネオンを背にした桜子先生のシルエット。
ぐにゃりと歪んで『魔捕瓶』に吸い込まれたかに見えたとき、そのシルエットから細長い尻尾が生えて、鞭を打ったような強烈な音が真夜中のビル街にこだました。
目の前に迫り来る物体が、跳ね返された『魔捕瓶』だと認識できたときには、メグルの額に激痛が走っていた。
無数の星がほとばしり、視界が闇に沈んでいく。
桜子先生は音もなく着地すると、もんどり打って倒れるメグルを睨みつけながら、地面に転がる『魔捕瓶』を踏みつけて割った。
「甘ク見るナよ、メグルゥウッ!」
黄色の瞳がギラリと光る。その指先から、鋭い爪がのびた。
態勢を低くし、裂けたスカートからのぞかせた長い尻尾をゆらりと揺らしつつ、うずくまるメグルに照準を定め飛びかかろうとした。
その瞬間――。
ガラリという音とともに桜子先生の姿が忽然と消えた。
かわりに地面からひょっこりと顔を出したのは、モグラだった。
「おひょ。間一髪! 大丈夫かメグル」
メグルが額を押さえ、よろめきながら立ち上がる。
「痛てて……。わりと早かったじゃないか」
「おいらの下水道網をバカにすんなよ? 地上の十倍は速く移動できるぜ」
モグラはひょいっと地上に出ると、マンホールの蓋を閉め、どっかと上に座った。
「このマンホールの中は行き止まりにしておいた。桜子先生は袋のネズミ……。いや、袋の化け猫か。
それよりメグル、お前さんは急いでトモルを捜してくれ。おいらが学校を出る直前、例のサイトに妙な書き込みが投稿されたんだ」
「妙な書き込み?」
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