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第11章 サヤカ
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しおりを挟む「ごめんね、トモル……。次に生まれ変わっても絶対親子になって、そのときこそ必ず、幸せにするからね……」
その瞬間、メグルのロープが切れた。
弾け飛ぶようにふたりのもとへ走ったメグルは、窓から半身投げ出して清美の体を片手でつかむと、自分自身に巻き付いているロープの端を、理科室の中へ投げ入れた。
ロープが実験テーブルに取付けられたガス栓のひとつに巻き付く。
清美とトモル、メグルの三人は、窓から半分以上身を乗り出した状態でなんとか停止した。
しかし安堵したのも束の間、巻き付いただけのロープは当然のごとく、徐々にガス栓から外れかけていく。
「サヤ……カ……。ロープを……」
絞り出したメグルの声に、倒れていたサヤカがゆっくりと体を起こした。
窓から落ちかけている三人をぼんやりと見つめていたサヤカは、ようやく事態が飲み込めたのか、声にならない叫びを上げると、焦りながらも覚束ない足取りで立ち上がり、ガス栓からずるずると音をたてて外れていくロープに飛びついた。
力いっぱいに握りしめるサヤカの手から、真っ赤に染まったロープがのびていく。
サヤカは腕時計の隙間から血を流していた。
力を込めるほどに、噴き出す血で滑る。
「おねがい……また奪わないで……」
しかしサヤカの尽力もむなしく、ついにロープはその手をすり抜け、三人の姿は窓から消えた。
頭から真っ逆さまに落下していくなか、メグルはカバンからマントを引き出し、清美とトモルを包むように被せた。
「お前たちは、お父さんが必ず守る!」
マント越しにそう叫び、誓った。
管理人以外に使えるものかわからない。しかしメグルは強く決心していた。
(今度こそ、この手で家族を守る! 家族の絆を取り戻す!)
地面に激突する寸前、思いきりマントを引いた。
組まれたばかりのやぐらが逆さまに見える。その上に、ぎゅっと目をつぶりながら抱き合う清美とトモルの姿を捉えた瞬間、メグルの意識は深い闇のなかへと沈んでいった。
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