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第12章 因果応報
03
しおりを挟む見上げれば午前中までの雨が嘘だったように、すみれ色の空が広がっている。メグルとモグラは、病院からのびる下り坂をぽつぽつと歩いていた。
道をはさむ木々から響くヒグラシの声を聞きながら、メグルが口を開いた。
「清美の最後の試練が、小学生時代のいじめを悔い改めることだったとはね……。
学校裏サイトは越界者の桜子先生が作ったものだ。清美に対する大人たちのいじめも、あのサイトが原因だった。しかしすべては、清美自身が犯した過去の罪を思い起こさせる為の、試練の一部だったかも知れないなんて……」
コツコツとステッキで地面を突きながら、モグラがこたえる。
「試練ってのは奥が深けぇ。いろんな因縁が絡みあっている。そのせいで、息子のトモルもいじめにあったわけだしな」
「親の因果が子に報うか……。わからないのは教頭の試練星さ。なんで謝罪された方の試練星が光るんだ?」
メグルが首をかしげる。
モグラは指でぴんっとヒゲを弾きながら、空を見上げた。
「教頭も、忘れることができねぇ過去の恨みから解放されたんだ。恨みを忘れるのも、試練なのさ……」
メグルも黙って空を見上げる。
暮れ始めた大陽が、所々に浮かんだ雲を金色に染めている。
ふたりはしばらく今回の事件のことを思い返しながら、どこへ向かうでもない道を歩いていた。
「学校はどうなっているんだろう……」
ふと思い出したように、メグルが呟く。
「なぜか旧校舎の水槽を掃除する風変わりな生徒が、あやまって窓から転落。予定されていた『月見祭り』は中止……。見ての通り当の本人がピンピンしてるんだ。たいした騒ぎにゃならんだろうが、中止は変わらねぇだろうなぁ……」
「そっか……。ところでモグラ。今日が何の日か知ってるか?」
「越界門が開く日だろ? おいおい、ごめんだぜ。こんだけ暴れ回れば、おいらたちの正体は魔鬼にバレバレだ。越界門どころか、学校に近づいただけで返り討ちにされるぜ」
モグラが自分の肩を抱いて、ぶるぶると震えた。
「そうだな。教頭ばかり疑っていたから、他に魔鬼の手がかりなんて、何もつかめていないしな……」
メグルが大きな溜め息をつく。
「あ~ぁ。何でもいいから、こいつが魔鬼だっていう証拠とかないの? じつはお尻に尻尾が生えているとか、近づくと、ちょっと生臭いとかさぁ……」
メグルの言葉に、モグラがふんっと鼻を鳴らした。
「あるかよ、そんなもん! やつらはそんなにバカじゃねぇ。まあ強いて言えば、たまに鏡に映らないときがあるって噂だけどな」
モグラを真似て、メグルもふんっと鼻を鳴らした。
「あるかよ、そんなこと! だいたい魔鬼は人間の体に乗り移っているんだろ? 鏡に映らない訳ないじゃないか」
モグラがシルクハットのなかの頭を、ぼりぼりと引っ掻きながら反論する。
「細かい理由はおいらにだってわかんねえよ? だけど人間の体だって、たまに手や足が写真に写らねぇときがあるじゃねぇか……」
するとメグルは、とつぜん難しい顔をして、くるくると前髪を指に絡ませ始めた。
その姿に一瞥をくれて、モグラは指についたフケを生臭い息でフッと吹き飛ばし、空を見上げた。
「まあ、そう難しく考えるなメグルよ。いまのはただの噂なのだ。魔鬼はいつも自分の奪った体を意図的に鏡に映しているが、ふと気を抜いたときなんかは、鏡に姿が映っていないという、チマタのウワサ……」
そう言いながらふり返ったとき、すでにメグルの姿はどこにも無かった。
「おーい、メグル……くん?」
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