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第一章 神々と記憶の欠けた少女

19 局員が避ける狂人が蔓延る星

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 売店。

 配達に行くとお腹が減るので、対策として軽食類を買うことにした。

 おにぎりもいいけど、何かすぐに口に入れられる食べ物はないのかな? 1個でカロリー補給できそうなブロック状な物とか。

 私はうーんとお菓子の前で腕を組み悩む。


「ムウっちがお菓子の前で悩んでるです! こちらのお菓子マエストロのノルリ妹様がアドバイスをしてあげるそうです!」

「姉さんじゃなくてボクがですか! それに妹様ってなんですか! ……ごほん。食べ物だったら姉さんが聞いてあげてくださいね」

「らじゃーです!」


 悩んでいると、品のチェックをしていたクルリとノルリが声をかけてきた。

 今日はレジ当番ではないようだ。


「ではお言葉に甘えて。実は配達の時におにぎりとか軽食類をよく持って行くんだけど、もっと簡単に手早くカロリー補給ができるクッキーみたいな物はないかなと思って探していたんだけど……」


 私は手でこのくらいの大きさと教えてあげた。すると


「なるほど……。ブロック状のクッキーみたいな物ですね。ここにある食べ物は全てボク達と料理チームが考案した物ばかりですので、ここに無い物は作ったことがないということになりますね」

「材料はお供え物とかでよく来るんですが、商品は来ないです。なので、どういった物を食べていたという情報が頼りです」


 クルリとノルリはメモを取り出して何かを書いている。

 私は生前に食べていた簡易食料や非常食についてを話した。

 身の回りのことは思い出せないのに、間接的に関わった物については憶えているんだよね。なんでだろう…。


「了解です! たくさんの情報ありがとうです! 料理に関しては、完成したら連絡するです! あ、連絡先も交換しておくです!」


 端末を取り出し、クルリと連絡先の交換をした。


「あ、ずるいです! ボクも交換したいです。お菓子に関して、完成したら連絡しますね」


 ノルリも端末を取り出してきたので、連絡先を交換した。


「ありがとう~。近い年齢帯の子と連絡交換できたの嬉しい」


 ノルリが嬉しそうにニコニコしている。


「私も嬉しいです。ありがとうございます」

「グループチャット用意しておくので、そこでお喋りしましょうです! では、仕事に戻るです」


 クルリはシュっと右手をあげて、颯爽さっそうとその場を去った。


「あー姉さん速い……。それではボクも失礼します」


 ノルリもペコリと頭を下げ、その場を去った。

 今日はとりあえず、おにぎりとか一口サイズのお菓子とかを買っていこう。あと水も買って行かなきゃね。

 私は適当にクッキーやおにぎりなどをカゴに入れ、500mlペットボトルの水を1本入れた。その後、レジに並んだ。


---


 会計後、ロビーでお弁当を食べながらゲンを待っていた。

 しばらくして、


「よっ。待たせたみたいだな。ようやく1組終わったから抜け出せたぜ」


 カバンの中から、猫のぬいぐるみが顔を出し、手を上げて合図をした。


「いえ、ちょうど食事が済んだところだよ。それでは早速行こうか?」

「ああ。その前に、レンタカー借りていくか?」


 ゲンは、奥の方にあったレンタカーと書かれた看板のお店を指した。


「うーん……車より速く飛べるから、そのままでいいかな」


 飛ぶとお腹が空くが、時間も短縮できるのでそのままでいいかな。

 私は出発ゲートの方へ行く。


「そういやルイに聞いたぜ。新しい靴に替えても飛んだみたいだな。もう、俺の無機物操作みたいなムウの特殊能力って考えた方がいいな」

「そうだね。その方が夢っぽくていいし」


 ゲートをくぐり、宇宙へと出る。そして、いただいたゴーグルを装着し、目的の星へと飛び始めた。

 端末と連動したゴーグルに座標が表示されている。将来的に目的地の座標を入力して、案内の矢印が出ると言っていたので、これより便利になるのだろう。


「ゴーグルの使い心地はどうだ? 視界が狭まるとかデメリットもあると思うが」

「たしかに、視界は狭くなるね。だけど、モニターも一緒に表示されるので、すごく便利よ」

「それは良かった」

「はい。そろそろ郵便局から離れてきたので、スピード上げていくね。局長はカバンの中に入ってて」

「あいよー」


 そう言ってゲンはカバンの中に引っ込んだ。


「うお! 食べ物買い込んだなぁ。こんなに食うのか?」


 カバンの中から包み紙を開ける音が聞こえる。たぶん飴玉か何かを開けているのだろう。


「うん、食べるよ。飛んだらお腹が空くからね。あと、これから向かう星はブラックリスト入りだよね? 長旅になるかと思って、多めに買っておいたの」

「なるほど、それは良い考えだ」


 座標がx-100.y-10.z-1だったから、だいたい111万km先の夢の星ってことになるね。今日行った鳥居の星よりは近いかな。

 更にスピードを上げ、無言で飛び始めた。


---


 しばらく飛び、目的の星の姿が見える距離まで近づいてきた。

 遠目で見ると地球に似た星という感じで、特徴を掴めない。もっと近づく必要がありそうだ。


「局長。そろそろ着くよ」


 私はカバンの中で休んでいる? ゲンに声をかけた。

 着けていたゴーグルを下げ、そのまま首にかける。


「おー……やっぱり速いな。近場だとほんと車要らずだな。あれが目的の星か……」


 ゲンがカバンから顔を出して、「うーむ……」と唸っている。


「見た感じ普通だよね……。今日の1つ目の星もそんな感じだったから、ブラックリスト入りの星は普通に見せかけてというのが多いかな」

「ああ、そういう星が多いな。もしかしたら、ムウはブラックリスト潰しが宿命かもしれんし、あとで情報を教えておくぜ」

「えーなにその宿命……」


 夢の星に更に近づき、詳細な姿を捉えることができた。


「本当に普通の星ね。地球に似てる」

「そうだな……」

「降りる?」

「ああ、気を付けろよ。何が起きるかわからんからな」


 私は足を下にして、星に向かって降下を始めた。


---


 夢の星の内部。


 至って普通の地球という感じがするが、色んな建物から煙が上がっている。たぶん、火災が起きているのかもしれない。

 どういうゲームなんだろ? 消火活動をするゲームとか? 私、そういうゲームに興味あったのかな?

 考えながら落下をしていると、横の方からヘリコプターが近づいてきた。

 私に気づいていないのか、そのまま突っ込んできている感じがする。

 私はそのヘリコプターの下に避け、ヘリの下の方に掴まり中の様子を見るために上がった。

 上がる時にガタンと音を立ててしまった。すると、


「うぅ~……がぅ! ……がぅ!」


 突然、軍の人? に噛みつかれそうになった。

 私はそれを避け、ヘリのドアに掴まりながら外へと出た。

 狂った軍人は私の方に向いて威嚇し、そして持っていた自動小銃を乱射し出した。


「わわわ!!」


 私はとっさにヘリの下の方へと移動した。自動小銃の銃弾はドアを貫通し、反動に負けたのか天井を撃った後に反対側のドアと操縦席を撃ちながら倒れた。

 プロペラは無事のようだ。


「こりゃまずいな。ヘリの中から何か武器になる物がないか探れるか?」

「やってみる」


 ヘリの下からドアの方へと移り、中の様子を見た。

 狂った軍人は自動小銃を捨てて立ち上がり、操縦席でガタガタと動いている人型の者の方を向いているようだ。

 あれだけの銃弾を浴びた後にも動いているので、おそらくあれも人間ではないのだろう。

 私はドアから中へと飛び入り、その勢いを使って狂った軍人を蹴り飛ばした。

 銃弾で壊れたドアが突き破られ、軍人は下へと落ちていった。

 操縦士はその音を聞きつけ、席から立ち上がろうとするも、シートベルトで固定されているからか、その場でもがいている。


「このヘリどんどん落ちていってるぜ。急いで中を漁ろうぜ」


 たしかに、局長の言う通りヘリの角度は下に向いているね。操縦士も狂っているみたいだし、復帰は無理ね。

 私はヘリの中を見渡した。

 さっき狂った軍人が持っていた自動小銃の他に、手榴弾らしき物が数個とそれをぶら下げられそうなベルトが1つ、拳銃一丁とマガジンが2つ入りそうなホルスターが置かれていた。あと、弾の入った箱もたくさんあった。迷彩柄の大きいリュックサックまであった。

 もしかしたら、物資輸送ヘリだったのかもしれない。


「お、ここに大きいカバンがあるじゃん。ムウのカバン2つこれに入れて、空いた所に詰め込めるだけ詰め込んでおけ」


 私は頷き、リュックを取り肩掛けカバン2つをその中に入れた。

 そして、拳銃と自動小銃の弾箱をリュックに入れ、マガジンをリュックの両サイドポケットに入れた。

 次にベルトを腰に巻き、左腰に手榴弾を3個ぶら下げた。

 最後に、ホルスターをベルトの右腰側に止め、それに拳銃を入れた。あとでホルスターにマガジンを入れよう。


「もったいないけど、あとは置いておくね」

「グレネードはもっと入らないか?」

「いえ、カバンに入れてピンが抜けて爆発したら終わりよ」

「なるほどな」


 リュックを担ぎ、装備を整え、再びヘリから外へと出た。

 飛んでヘリの様子を見ていたが、案の定大きめの建物にぶつかり、そして爆発してしまった。

 出た時既に地上が近くなっており、間一髪という感じだった。

 あの爆発の規模は手榴弾が誘爆したのだろう。


「危なかったな……。乗っている人は夢の主っぽくなかったから大丈夫だろう」


 ゲンは私の肩に掴まりながらヘリを見ている。


「狂っていたね……。あれは一体何だったのかな?」

「さあ? ゲームについてはムウ達世代の方が詳しいだろ?」

「そうなの? 年齢的にやっているのかと思ってたけど」

「いやいや、見た目で判断するな。俺はもう200歳くらいだ」

「え! そうなんだ! 見た目は死んだ時のまま? なのかな」

「うーん……。それも一概に言えないな。人によるとしか言えん……。話が逸れたが、これはどういったゲームだと思うか?」


 ゲンが逸れた話の軌道を戻した。


「狂った人を倒す系の物か、逃げて生き延びる系か、かな。もしかしたらあれ、ゾンビかもしれないし」

「詳しいじゃないか」

「なぜかそう思ったの」


 私は夢の主がいそうな所を探すために飛び回ろうと動き始めた。すると、


「ムウ! 後ろ後ろ!」


 ゲンの叫びで振り返ると、たくさんの黒い群れがこっちに向かっているのを目視することができた。


「あれ、カラス? とりあえず下に降りるね」


 そう言って降下を始めた。


「がぁ……がぁ……がぁ……」


 カラスの群れは私達に見向きもせず、頭上を通り抜け、ヘリが不時着した所へと飛んで行った。


「何であんなに群れてるんだ? めっちゃこえー……」


 ゲンはいつの間にかリュックの中に隠れて、ガタガタと震えている。

 全然こっちを見なかったな。あれは音に反応している? ……それにしても、局長はそんなに怯えてどうしたんだろう? 生前に嫌なことでもされたのかな? 傷を抉るかもしれないから聞かないでおこう。


「カラスいなくなったよ」

「……ああ。よかった」

「空にいるより、地上にいた方がカラスには襲われなさそうだね。そのまま地上から主を探すね」


 私はそう言い、大きい道路の歩道に着地した。
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