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第一章 神々と記憶の欠けた少女

39 集めるか? それとも拒否し他者へ託すか? 選択の時じゃ

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 何度も失敗した後、ようやく1人の少女に5つの魂のカケラを保有させることに成功しました。

 その少女こそが「夢羽」でした。

 神々はこの少女を見守りました。

 病弱だったが元気に振る舞い、すぐに疲れるのに走り回る彼女。

 その彼女をそのまま天寿を全うさせようと神々は尽力しました。

 しかし、トラックと車の衝突という悲惨な事故が起き、両親は亡くなり、夢羽は一命を取り留めたが生死の堺を彷徨さまようことになってしまいました。

 神々は夢羽の状態を確認するために、病室を訪れました。

 夢羽の周囲に魂が漏れ出ているのを確認し、このままでは魂が霧散してしまうと判断した神々は、身体と魂のリンクを切り、一旦夢の世界に避難させました。

 夢の世界にはムウ、現世には夢羽と、半々になりました。

 その時に「原初の女神の魂のカケラ」も半々になり、夢羽は3つ、ムウは2つになってしまいました。


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「その後はお主も知っての通りじゃ」


 日の女神は語り終えてから目を開け、こちらを見た。


「やはりそうだったのですね……。だから病弱だったのですね。と言う事は、七曜の神々は私のことを知っているのですか?」


 それを聞き、カリンは首を横に振った。


「いや、知っておるのはわしとルーナだけじゃ。器に入った魂を見ることのできる神はわしらだけじゃからな……。む? 他にもいた気がするのう」

「そうなんですか!」


 私は驚いた。神様は皆魂が見えるものだと思っていた。


「ルーナ様は、私と初めて会った時、なぜこの話をしなかったんですか?」


 私はルーナを見た。


「ムウちゃんが行動をしたら夢羽ちゃんは確実に気づくと分かっていましたし、もう1人の自分がいると言う事を教えると、切手集めや星巡りをしなくなる恐れがありましたからお伝えしませんでした」


 ルーナは申し訳なさそうな顔をしている。


「私の事よくご存知ですからね。確かに、あの時点で聞いていたら探していたと思います。私だったらそうするから」


 私は、くすくすと笑った。


「それじゃあ、今の私の魂には5つの原初の女神の魂のカケラがあるってことですか?」


 私は2柱の神様を見る。


「いや実はな、今7つあるのじゃ」

「え? ……増えてますけど、どういうことですか?」


 私は驚き、席から立ち上がった。カリンが、まあまあ落ち着けと席に指を差した。

 私は再び席に座る。


「ごめんなさい。なぜ7つなのでしょう? ……あ! もしかして……」

「うむ、お察しの通りじゃ。お主が回収した2つの魂のカケラも混ざっておる」

「きっかけは、夢羽と1つに戻ったからですか?」

「ああ、そうじゃ」


 自分の胸辺りを見るが、やはり見えない。


「あ、ちなみに最初に貰った特別支給されたお金は、わしとルーナからの小遣いじゃからな。勝手にお主の魂を半分に割った詫びと、陰ながら支援をするために思ってな」

「え? あ! ありがとうございます」


 この世界に来て初めて貰ったあれは、まさかのお小遣いだった。息を呑んでいた配給担当は、もしかしたら気づいていたのかもしれない。


「夢羽の魂に魂のカケラを入れたのはわしらじゃが、ここからは夢羽の自由じゃ」


 カリンは席を立ち私を見下ろした。


「改めて聞くが、夢羽はわしらの母上『原初の女神』の魂のカケラを集めるか? それとも集めずに切手だけを集め、輪廻へとかえり、他の者に魂のカケラを託すか? 選択の時じゃ」


 私は目を瞑り、心の中で黙って聞いていた夢羽へと行動権を渡した。


「あたしは『原初の女神』を救いたい! カケラを全部集めたらどうなるかわからないけど、ひとりぼっちではなくなるでしょ」


 私も席から立ち上がり、カリンを見た。


「ふむ……それなら良し。これはわしからの授け物じゃ。まあ、母上に返したことになるがの」


 カリンは、太陽の飾りがついた金色のイヤリングを授けてきた。私はそれを受け取った。


「これは何?」


 イヤリングは金色に輝いている。私が着けている太陽のバングルも、共鳴するように光っている。


「それは母上がわしを顕現けんげんする時に使った神器じゃ」


 まさかの神器だった。


「え? ……なんでそんな大事な物をあたしに?」

「元々神器にわしらが宿っておったのじゃが、今は太陽系の惑星自体が神の器となっておる。なので、手放しても問題ない」

「そうなんだね。では、大切にするね」

「神器は魂のカケラの力を増してくれるから、母上の能力も強くなるじゃろう」

「ありがとう!」


 私はカリンにお辞儀をした。


「私の神器もお渡ししておきますね」


 ルーナも席から立ち、私の前に来て月の飾りがついた銀色のイヤリングを授けてきた。

 イヤリングは銀色に輝き、月のバングルも共鳴して光っている。


「月のイヤリングは右耳、太陽のイヤリングは左耳じゃ。他に着けても効果は出んぞ」

「なるほど」


 私は言われた通りに、月のイヤリングを右耳の耳たぶに、太陽のイヤリングを左耳の耳たぶに着けた。すると、


「うわ! 今まで以上に光ってる!」


 両腕に着けているバングルが激しく光っている。


「神器を身に着けたのと、先程のカリンの話で、原初の女神の神話から現在まで繋がったからですね。これで、更に魂のカケラが見つけやすくなったと思います。光っているのは、落ち着けーって心で唱えたら落ち着くと思いますよ」


 まさかの女神公認の呪文だった。


「魂のカケラについてですが、夢の星や地球以外の惑星には無く、それぞれの世界に散らばっています。ですが、輪廻の世界に行く方法は無いので、取りに行く事はできません」


 いきなり壁にぶち当たった。


「では、どうしたら良いの?」

「大丈夫ですよ。私は月の女神です。カリンと力を合わせて魂を導く事はできます」


 ルーナは席に座り、カリンをチラッと見た。


「うむ……何度か魂を導いたことがあるのう。手紙に書いてあったお主に近づけた2匹の動物もそうじゃな。導けるのはちゃんと魂の形になった物だけで、輪廻世界の魂の灰に紛れ込んでいるカケラは導けぬ。幸いなことに、火星近辺までの輪廻世界には魂のカケラは存在しないとの報告は神々から聞いておる。じゃが、木の女神からの報告はないのじゃ。じゃから……木の女神に調査依頼をしてきてくれ」


 カリンは席に座り、ティーカップに手をつけ、話した後にそれを飲んでいる。


「あ、木の女神より先に土の男神に会った方がいいのう。お主に会いたいのはあいつが1番じゃろうしな。その時に神器を貰うといい」


 カリンは、かっかっかっと楽しそうに笑っている。ルーナもうんうんとうなずいている。


「わかったわ! では、木と土の神々にお会いして、神器を授かるのと魂のカケラについてのお願いしてくるね……っと、あと2つ質問があるけど、いい?」

「はい、いいですよ」


 ルーナが答え、カリンも頷いている。


「空を飛んだり、看取ったり、霧散した魂をねて塊にした後に、いつも以上にお腹が空くのはなぜ?」


 2柱の女神は、うーんと考え込んでいる。


「全ての母である原初の女神は、別名で全知全能の女神と呼ばれていました。その全能の一部が魂のカケラに含まれているのかもしれません。そして、その能力を使った際のエネルギーが今はカロリーなのかもしれませんね」


 ルーナが思い出すように、原初の女神について語った。


「ということは、原初の女神様は腹ペコだったけど、食べ物がなかったから疲弊ひへいしたってこと?」

「ふふふ、それもあったかもしれませんが、似たようなエネルギーを使っていたのかもしれませんね。サトゥルヌス……土の男神が作った食べ物と飲み物を摂った後にいつも、『生き返る~』っておっしゃってたので、私達を顕現けんげんした後も、自身を維持していたのは食事のおかげかもしれません。ちなみに、私達も能力を使ったらお腹が空きますね」

「(まさか、神もお腹が空く発言! 私、神に近づいているってこと?)」

「(そうかもしれないけど違うかも)」

「なるほど……神様もお腹が空くんだね」

「ええ、お供え物はよく摘まみますよ。持って帰って料理することもあります」


 なんか身近なお姉さんっぽく感じてきた。


「母が一緒だから、みんなの原理は一緒ってことなんだね」

「そうかもしれませんね」


 ルーナはそう言い微笑んでいる。カリンも紅茶を飲みながら楽しそうに聞いている。


「2つ目だけど、これは生前からなんだけど、動物などによく好かれてたくさん集まってきたのも原初の女神の魂のカケラの影響?」


 それを聞き、カリンとルーナはお互いの顔を見て頷いた。


「うむ。母上も生き物によく好かれる方じゃった。その魂のカケラを多く持っているから集まるのじゃろうな。これからは、もっと好かれるし集まるし助けてくれるじゃろう」

「そうだったのね……」


 私はなるほどと頷く。そして、いただいた緑茶を全部飲み、ご馳走様と席を立って深々と頭を下げた。


「私たちも魂のカケラを持つ人達を探しますので、何かありましたら神器を通して話しましょう」


 ルーナはそう言って、小さな光を月のイヤリングに向かって飛ばした。


「そうじゃな。連絡手段がないのは不便じゃから、神器を通して話すとするかのう。他の神々にもそう伝えるといい」


 カリンもそう言って、小さな光を太陽のイヤリングに向かって飛ばした。

 後から便利機能をつけられるなんて、神様ってすごい!


「ありがとうございます」

「いえいえ、どういたしまして。それでは気をつけていってらっしゃい」

「くれぐれも無理はせんようにな」


 2柱の神々は、手を振って見送ってくれた。私は一礼をして、エレベーターから下へと降りた。


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 夢羽がエレベーターで降りている途中。


「似てましたね」

「ああ、すごく似ておった。というより、母上かと思ったのう。本当に夢羽よの?」


 ルーナとカリンはテーブルに着いて、お茶を飲みながら向き合っている。


「ええ、そうですが……。生前の夢羽ちゃんより凛々しくなった感じがしますね。元々似ていましたが、更に近づいたという感じですね」

「うむ。……現世からここに来て、病弱っていうバッドステータスが無くなった分、本領発揮しているという感じじゃな」


 ルーナは自身の頬に手を当て、カリンは頷いている。


「母の記憶はまだ少ししかないようですし、もしかしたら魂のカケラが全て集まったら、母と夢羽ちゃんとムウちゃんが混ざった存在になるのかしら」

「どうなんじゃろうな。それは儀式をしないとわからぬ」


 カリンは腕を組み、うーむと声を出す。


「あと、気づきました?」

「ああ、神器よの」

「前会ったのも最近でしたが、更に出来上がりつつありますよね」

「うむ。それも含めて、どう転ぶかは母のみぞ知る……」

「そうですね……」


 2柱の女神は席から立ち上がり、ビルの下を見た。
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