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第二章 カケラの切手と不思議な壺

47 夜の木星と知識を渇望する亡霊

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 攻撃してきた亡霊を退け、ようやく行き止まりになっている本棚の所に入った。昼の木星とはまた違う迷宮になっていて、地図が役に立たなかった。だが、なぜか迷うことなく進むことができた。


「(なんだろ? もう1つの木星って感じがする。まるで、もう1柱神様がいる感じ……)」


 私は周囲を警戒し、何もいなかったので夢羽を見た。


「翼の盾がなかったら袋叩きにされる場所よね、ここ」

「そうだね。盾があるのは助かるね」


 夢羽は無限カバンを床に置いた。


「それで、ここで何をするの?」

「夢羽に渡した銃を貸してちょうだい」


 それを聞いた夢羽は、安全装置をつけて渡してくれた。


「撃ったら必ず命中する銃作るの? 殺傷武器はいらないよ」

「そんな都合のいい武器は無いと思うよ。あと、私達の銃は非殺傷ね。急所に当てなければ大丈夫よ」


 私は受け取った銃の安全装置を外し、近づいてきた亡霊をそれで退けた。そして、


「散弾銃に変われる?」


 私がそう言うと、白い銃は散弾銃に変化した。2発撃ったら弾を補充しないといけないタイプだ。

 そして私はカバンから取り出した輪ゴム1箱をゴム状の滑り止めのような物に作り変え、銃身全体を包んだ。

 完成したそれを夢羽に渡した。


「何で、ショットガン?」

「狙わなくても当てられるのと、鈍器としても使えるよ」

「これ、そのための滑り止めだったのね」

「扱い方わからないと思うから、とりあえず今回は殴って迎撃してね」

「りょーかい!」


 夢羽は銃身を握り、私の横に立った。


「それじゃ、行くよ。翼も収めるよ」

「わかったわ」


 私の声と同時に、亡霊が近づいてきた。私は銃で応戦、夢羽は散弾銃を鈍器にして殴りかかった。


「よし、この行き止まりから気づかれないように出ようか。あたしは後ろを警戒するね」

「おっけー」


 T字になった曲がり角を両サイド警戒し、亡霊の姿が見えなかったので夢羽に合図した。


「うわ! ……っと。しにとてもびびった」


 行き止まりだった本棚の本から、新しい亡霊が湧いて出てきたようだ。行き止まりは安全というわけではなさそうだ。


「大丈夫?」

「うん、大丈夫よ。警戒してて正解だったさぁ」


 夢羽は、逆さまに持った散弾銃を右肩に乗っけている。

 すると突然、夢羽がしゃがみ込んだ。


「どうしたの!? まさか、さっき攻撃受けちゃった!?」

「いや……空腹で動けないだけだよ。なんか、急激に来たやっさー……」


 私が介抱しようと夢羽に近づいたが、夢羽は大丈夫と銃を持っていない手で私を制した。

 たしかに、木星に入って翼を多用している気がする。

 私は夢羽が持っている無限カバンの中を漁り、その中からおにぎりをいくつか取り出した。


「私が周囲を警戒するからこれ食べて」

「ありがと」


 そう言い、包み紙からおにぎりを出してそれを食べ始めた。


「(できるだけ夢羽の翼の盾を使わずに亡霊をかいい潜って、あの壺の欠けた情報を集めていくってかなりハードな気がする。夢羽もちょいピンチかな。……ってか、夢羽がやられたら私も消えない?)」


 衝撃の事実に気づいた私は、ピンチと思い自分のカバンから端末を取り出した。


「もぐもぐ。どこに電話するのー? もぐもぐ」

「食べるか喋るかどっちかにしなさい。局長に電話するね」


 そう言い、私はゲンに電話をかけた。


「もぐもぐ……ん。なんでゲンに?」


 夢羽はおにぎりを食べ終え、私に質問してきた。

 質問してきたと同時にゲンが通話に出た。


「あ、局長お忙しい時にごめんねー」

「あーその声はムウか。なんでまたのんびり口調に戻ってるんだ?」

「のんびり屋じゃないよ。それより、夢羽がピンチだから助けに来て」

「はぁ? 何を言ってるんだ? ムウはお前だろうが」


 仕事中だから切るぞーと言い、声が遠くなった気がした。


「待って! このままでは私達は亡霊に食べられてしまうよ」

「うん? 亡霊? ……もしかして、木星か!?」


 ゲンの声から少し緊張感が伝わってきた。


「(いや、よくその単語だけでわかったよね……)」

「うん。今、夜の木星だよ」

「なんてこった……。今すぐに脱出するんだ。そこはすごく危険な場所だ」

「いえ、まだやらないといけないことがあるのよ。夜の木星でしか入手できない情報を探して回収しないといけないんだよ」


 亡霊が近づいてきたので、銃で応戦した。

 結構大きめの声で話しているが、見られた時以外はスルーされる。どうやら視覚以外は使えないようだ。

 夢羽の方からも本から出てくる亡霊がいたが、おにぎりを食べながら応戦してくれている。


「……情報? なんのだ?」

「例の壺のだよ。昼の木の女神様からは貰ったんだけど、足りない気がするんだよね」

「何が足りないかは知らないが、しょうがないから手伝ってやる。1つのオリエンテーションは早めに切り上げてオペレーターに引き継ぎしたから、今からそっちに憑くわ」


 そう言い、ゲンからの通話が切れた。そして


「待たせたな。やけに暗くて広いカバンだな……」


 無限カバンの中から、猫のぬいぐるみに憑依したゲンが出てきた。


「助かります」

「ありがとう!」


 私達はお礼を言い、頭を下げる。


「うお! ムウが2人いる!? どっちが本物だ!?」


 やはりと言うべきか、ゲンは驚いて引いている。


「私は分身体で、そっちが本物の夢羽だよ。そして今は空腹で動けない状態ね」

「そっちのムウの喋るテンポが遅いのはそういうことか! それで、俺は何をすればいいんだ?」


 私は夢羽の近くに寄り、無限カバンの中から使い古したナイフを出し、それを『創作』でぬいぐるみが持てる大きさのナイフに作り変えた。

 革で背中に背負えるホルスターも作り、それらをゲンに渡した。


「おお!? 今何やったんだ!? ……この短期間でムウが新しい能力を使えるようになってる……」

「『創作』を使ったんだよ。詳しい説明は後でね」

「そうだな。夜のうちに入手しないといけないもんな。あとでじっくりと聞かせてもらうからな」


 ゲンはナイフを受け取り、目を光らせた。


「お手柔らかに。私は夢羽みたいに空を素早く動き回ることはできないから、局長は空から亡霊の撃退をお願いします」

「りょーかい。それにしても、ナイフなんて久しぶりだぜ……ってか、何で俺がナイフを持ってたって知ってるんだ?」


 ゲンは私を見て怪しんでいる。私は首を横に振り、口元に人差し指を持ってきてシーッという仕草をした。


「……後から聞くからな」


 そう言い、前の方へフヨフヨと浮いて移動した。


「それじゃ行くよ。夢羽は私の後ろで近づいてきた亡霊の撃退をお願いね」

「りょーかい」


 夢羽は私の背中にピッタリとくっつき、後ろを警戒しながらついてきた。


「はははは! 亡霊ども! 相手にならんぞ? もっとかかってこいやー!」


 ナイフを持たせたら性格が変わる系上司だったようだ。

 ぬいぐるみだから表情はわからないが、笑いながら亡霊を退けている。

 ちょっと怖い。だが、いつもの楽しくなさそうな雰囲気とは違い、楽しそうだ。


「ゲン、なんか怖くね?」

「トリガーハッピーに似てるね」

「そこ! さっさと本を探す!」


 ナイフで切り刻みながら怒鳴るゲン。

 私達はその怒声に釣られて敬礼をする。


「……ん? これ刃物じゃねーな。ゴムか?」

「はい、特殊なゴムだよ。ゴムだけど痛い。実体が無いものも含めて全て撃退できる優れ物!」

「……まあいいや。あ、そうだ。休みの所すまんが、仕事をしてくれないか? 場所はここ、夜限定の木星なんだわ。時間指定のめんどくせー配達だが、持っていってくれ」


 そう言い、ゲンは夢羽が持っている局員用のカバンを指した。


「ついでだし、いいよ」


 夢羽は局員用カバンに手を入れ、すぐに手を出して手紙を私に渡してくれた。


「配達場所は木星。時間指定が夜。宛名がユーピテル? それで、送り主がジュピター様……」

「ああ……たしかユーピテルがラテン語、ジュピターが英語で、どっちも木星という意味だよな。木星に人はいないって聞いたが、手紙があるということは実在するんだな。まあ、夜だから立入制限ということで誰も入らないからわからんがな」

「こんな亡霊だらけの星なんて、誰も入りたくないよね……」


 私は手に持っているユーピテル宛の手紙を見た。表と裏と何度もひっくり返して確認する。だが、


「この手紙、切手が無いね」

「ああそうだ。特別郵便というやつで、未練とは関係のない手紙だ」


 そう言いながらゲンは亡霊を撃退している。


「そうなんだね。未練と関係ない私の場合は、局長からの依頼を引き受けたから手元に来たという感じなのね」

「そういうことだ…っと! 今のやつで見える亡霊は倒したぜ。また湧いてくるから急いで壺の情報を探そうぜ」

「もぐもぐ……わかったわ!」

「食べながら喋らないのー」


 なぜか返事だけする夢羽。何個目かわからないおにぎりを食べながら返事をしたので、注意をしておいた。


---


 しばらく歩き回っていたが、壺に関する本は無いわ、亡霊しか出てこないわで、全然収穫がなかった。

 一応昼の木星にもあった紋章がいくつかあったので、それらも触ってまわった。

 探し回っている時、双子そうし銃の本と似たような本があった。

 それを夢羽が取ろうとしたら、


「本が勝手にどっか行く……。なんでよー」

「これ、ムウから逃げてるんじゃね? ……うん? 夢羽か?」


 私の目の前で、本が意思を持っているかのように、夢羽が取ろうとしたらそれを避けて飛んで行った。


「うん、夢羽だよ。お団子で区別してね。頭頂部お団子が私夢羽で、後ろお団子がムウ。あとムウはメガネかけてる」

「ややこしい! いっその事、名前も変えたらどうだ?」


 ゲンが本棚の上に腰掛けて言った。


「え? 死後の世界で名前をつけてもいいの?」


 夢羽は私とゲンを見た。私も首を横に振り、ゲンもまた横に振った。


「どうなの? カリン」


 夢羽は気になったようで、私の近くに来て、神器を通してカリンに話しかけた。すると、なぜか姿まで現した。


「ここは木星じゃな。して、名付けは何にするのじゃ? 人しかおらんようじゃが……ん? 夢羽が2人おる??」


 周囲の状況を終えたカリンは、私達の所を向き、そして驚愕している様子。


「はい、夢羽の3つ目の能力である『分身』で、私と夢羽が分かれたよ」

「なるほどのう。それで、夢羽とムウがいるからややこしくて名前をつけるということじゃな」

「はい、そうです」


 それを聞いて、カリンは私と夢羽の前に立った。そして、私と夢羽の頭に手を置いた。


「日の女神。それで名前はつけていいのか? 亡霊が集まってきている。急いでくれ!」


 ゲンが空中で亡霊を食い止めているが、間に合っていないようだ。


「待っておれ。この死後の世界で名前をつけられるのは、神か僧侶、神官、巫女などの神に近い仕事をしている人のみしかつけれないのじゃ。夢羽はまだ神の力が封印されておるから、わしがその制限を解除する。太陽系全権管理者代理のおわりの神・日の女神カリンが許す。其の者の制限を解除せよ。ほれ、終わったぞ」


 カリンは、夢羽に道を空けた。最後あたりよくわからない事を言ってたような?


「私がつけるの?」

「お主の片割れじゃし、わしよりお主の方が上じゃからな」


 それを聞き、夢羽が私の前に立ち、今度は夢羽の手が私の頭に置かれた。そして、


「貴女の名前は、今日この時から『有銘 風羽ありめ ふう』よ。よろしくね、風羽」


 夢羽の満面の笑みが私に向けられた。

 その時、夢羽と私はまぶゆい光に包まれた。
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