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第三章 星間郵便局の闇と夢を見る少年

80 未来都市と機械の小人達

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 局長室を出てそのままロビーへと行き、売店で軽食を買った後すぐに出発した。

 出発前に局員用カバンから取り出した手紙には、未来的な都市が描かれていた。


「SFの映画か何かかな?」

「映画かもしれないし、じゃないかもしれないね。夢だし」

「だぁるね」


 私達は車中で食事をし、夢の星までまだ距離があったので少し休むことにした。

 そして、何事もなく目的地まで着いた。


「あれが夢の星だね」

「うん、だねー。早速降りてみようか」

「おっけー」


 私はドローンを設置した後、夢羽の手を取って星への降下を始めた。


「うわー! たくさんのビルが生えてる! あっちは伸びてるさぁ」

「たしかに、その表現正しいかも……」


 ビルは建つものだが、この星のビルは壁から生えているように見えるし、崖の下から伸びているようにも見える。


「待って……。あの崖と壁、そんなに距離ないよね?」

「そうかな? うーん……だぁるかも?」


 降下しながら近づいてみた。


「やっぱり……このビル、私と同じくらいの高さしかないね」


 幅はそれなりにあるけど、これに入れる人は小さそうだ。


「あ! 何か出てきた!」


 夢羽が指した所から、小さな何かが、小さな乗り物のような物に乗って飛んできた。小さすぎて全く見えない。

 あっという間にその小さい群れは私達を覆い、逃げ道を塞がれてしまった。


「人の形をしているさぁ。手で払い除けたら可哀想」


 夢羽がそんな事を言っていたら、群れの中から1体だけ出てきて、私達に向かって何かを話し始めた。どうやら本当に小人のようだ。


「何話してるのかわからないね」

「小さすぎて聞こえないやっさ」


 何か思いついたのか、夢羽はカバンに入れていた手紙を取り出し、それを見せた。


「この夢の星の住民ならわかるかな? この人に手紙を配達しにきた、郵便局の者だよ」


 夢羽がそう言うと、包囲している小人達が何か話を始めた。

 すると、前に出ていた1体の小人が何か一言話した後、手に持っていた銃を私達に向け、発砲した。

 そのタイミングで周囲の小人達も撃ってきた。

 私達はなす術もなく、その電撃のようなものを浴び、そしてそこで意識が途切れた。


---


 身体が痛い。何か硬い地面のような所に寝かされているような気がする。

 私は両手を腰辺りの地面に置いて身体を起こし、まぶたを開いた。特に拘束をされているわけではなく、目隠しもされていないみたいだ。

 どうやら、さっきの電撃銃のような物では消滅させられることはなかったようだ。

 ここはどこだろう?

 私は周囲を見渡した。薄暗いが、どうやら牢に閉じ込められているようだ。

 牢の見張りはいないようだが、監視カメラがこっちに向いて動いているのは確認できた。

 手を少し横に動かすと、何か身体のような柔らかいものに触れた気がした。


「あ、夢羽! 大丈夫!?」


 私のすぐ側に夢羽が寝ていた。


「うーん……あたし死んだー?」

「うん、死んでるけど、存在してるよ」

「……よかったさぁ」


 何がよかったのか知らないが、消えなかったことに安心したと思っておこう。


「……ここ、どこだば?」

「私もわからないよ。たぶん、さっきの小人達に捕まったのかもね」

「だはずねー……」


 そう言いながら、夢羽は牢の扉に近づく。そして、扉を開けようとしている。


「いや、さすがに開かないでしょ……」


 私も扉に近づく。すると


「開いたよー」

「え!?」

「鍵かかってなかったはずね」


 どういうことだろ。元々捕える気はなかったってことかな?

 私がそんな事を考えていたら、夢羽はカメラに気づいていないのか、お構いなしに外に出て牢の外をキョロキョロしている。


「夢羽ー。カメラあるよ。またあの小人達来るかもだし、戻っておこうよ」

「大丈夫だよー」


 何が大丈夫なのだろうか。


「いやいや……またあの電撃くらっちゃうよ……」

「いや、もうあれはする必要ないっち。あれは、外からの来訪者を僕達と同じ大きさにするための儀式だっち」


 牢を出て廊下の先にあった階段から、ズシンズシンと足音を立てながら降りてきた。

 その降りてきた者は頭と身体の2頭身で、見た目からしてロボットじゃないかなっていう感じがした。


「へえ……でもあれはやりすぎじゃないかな?」

「その点は謝るっち。すまんかったっち。姉さん達はまだ大人しい方々だけど、中には粗暴そぼうなお客さんも多いっち。何体も犠牲になったから、今の形になったっち」

「まあまあ、あたし達無傷みたいだし、こちらさんもそういう事情があるわけだから、いいんじゃない?」


 夢羽が私と2頭身のロボットの間に立った。


「わかったよ……」

「僕は1号だっち。この夢の主様に1番目に作られた機械人形だっち」

「あたしは夢羽だよ」

「私は風羽。よろしくね、1号さん。それで、夢の主はどこ?」


 1号はそれを聞き、また階段の方へと進み出した。


「こっちだっち」


 階段の上を指して、そのまま上がっていった。


「私達もついて行こうか」

「だねぇ」


 1号を追うために、階段を上がった。

 上がった先の扉を開くととても広い空間に出て、たくさんの小人さん達がこれまた小さい自転車のような乗り物に乗って、宙を飛んで移動をしていた。


「夢の主様はこちらだっち」


 私達を待っていた1号が、最上階を指している。

 それを見て頷き、そこへ向かおうとした。すると


「大変だっち!」

「どうしたっち! 53号」


 53号と呼ばれた機械人形は1号の前で着地した。


「主様がまたさらわれたっち!」


 事件が発生してしまった。


「犯人は誰だっち!?」

「過激派っち! また主様に新しいゲームがあるからって、かどわかして連れ去ったっち!」


 どうやら夢の中のイベントのようだ。だけど、そのイベントのせいで夢の主にすぐに会うことができなくなってしまった。


「どうする? 夢羽」

「助けないと!」


 聞くまでもなかった。


「その、過激派? っていう者達はどこにいるのかわかるの?」


 私は1号に聞いた。


「隣のビルだっち。今週は僕達保守派が主様をお預かりして、業務を進めようと思ってたっちが、順番を守らない過激派がこうやって主様をさらって、自分達の業務の進行を早めようと目論んでるんだっち」


 夢の主がいないと動かない工場か何かがあるのだろうか。主がいないと業務が進まないってすごく非効率だ。


「えーっと……夢の主がいないと仕事進まないの?」

「何を言ってるっちか。主様に仕事をさせるなんて、罰当たりっち」


 えー……。


「じゃあ、何をしているの?」

「これだっち! 今週中に終わらさないと、主様が飽きて一生終わらない積みゲーが増えるっち!」


 1号が持っていたのはゲームソフトだった……。うん、好きにさせよう。


「面白そうなゲームやっさ!」

「面白いっち。ぜひやってみるといいっち」


 そう言い、1号はソフトを夢羽に渡した。ソフトの名前は『スタードラゴンファンタジー』だった。何、このタイトル流行ってるの?


「これ、あたし達が行ったファンタジーな星のゲームのタイトルと一緒にやっさ」

「……不思議だね。夢の世界では流行ってるのかもね」

「だぁるはずね」


 私達が話していたら、側にいた1号や53号はいつの間にかいなくなっていた。周囲も慌ただしくなっている気がする。


「さて、隣のビルだったね」

「だねぇ。助けなくてもよさそうな感じだし、会いに行くだけ会いに行こうー」


 そう言い、夢羽は外へと出口と思われる自動ドアの方へと進んだ。私も夢羽の後を追い、ビルを出た。


---


 外では、隣のビルとの間にある広場で、たくさんの機械人形達が集まり、デモを起こしていた。

 看板には『主様の独占反対』や『独占禁止法違反をするな!』など書かれていた。

 私達はそのデモ会場の横を通り、隣のビルの自動ドアからエントランスへと入った。


「えっと……夢の主はどこですか?」


 私はカウンターに座っている機械人形に話しかけた。


「主様はただいま、プレイルームで業務中でございますっち」


 やはりゲームが業務内容みたいね。


「案内は可能?」

「郵便局の方々ですねっち。エレベーターで屋上へ行き、突き当たりまで真っ直ぐですっち」

「ありがとう。行こうか」


 私の声かけに夢羽は頷く。

 私達は、カウンター横にあったエレベーターに乗り、屋上のボタンを押し、屋上まで上がった。そして、言われた通りに突き当たりまで進み、大きめの扉をノックして、返事を確認してから入室した。

「こんにちは。郵便局の者です。このお手紙の宛名の方でよかったですか?」


 夢羽は手紙を、目の前の車椅子に座った少年に見せた。少年は声を出さずに頷いた。そして、テーブルの上にあったホワイトボードに、マーカーで何か書き、それを私達に見せた。


「その手紙、僕宛です」


 どうやら声が出せないようだ。


「はい、お手紙どうぞ」

「ありがとう」


 少年はホワイトボードを見せる。

 夢羽は少年に手紙を渡した。

 その手紙を少年はすぐに開けて中身を読み始める。パァと笑顔を見せた後、テーブルの端にあった白紙を取り、すぐに何かを書き始め、そしてそれを新しい封筒に入れて夢羽に渡してきた。


「このお手紙をお願いします」


 少年は筆談でそう伝えた。


「わかりました。あたし達郵便局がちゃんとご友人に送り届けるさぁ」


 夢羽がそう少年に伝えたと同時に、少年の手に持っていた配達した手紙から切手が剥がれた。それが夢羽に向かって飛んでいき、それを受け止めて私の所に持ってきた。私はそれを局員用カバンの切手用ポケットにしまった。


「ありがとう、郵便局の女神のお姉さん達」


 少年はホワイトボードを見せながら手を振って見送ってくれた。私達は手を振り、来た道を引き返した。


---


 ビルの外に出た私達は、デモの集会を見ながら軽食を摂っていた。ゲームの進捗によって、何か業績とかが変わるのだろうか? 面白い設定の夢だけど、無理矢理させられている感じがして、ちょっと可哀想な気もする。


「あの少年のテーブルの上に、送られてきた手紙が束にされて置かれていたね」

「あ、そうだったんだ。そこまでは見てなかったな。たくさん友達はいるみたいだね」

「うん。まあ、少年の状況は見てみないとわからないし、あれこれ考えてもしょうがないさぁ。目的は達成したし、まだ時間大丈夫みたいだからあと1件行く?」

「そうだね。……ところで、私達どうやって元の大きさに戻るの?」

「……さあ? とりあえずあそこまで飛んでみる?」


 夢羽は空を指した。


「やってみようか」


 私は靴を脱いでカバンに括り付け、立ち上がる。

 夢羽も立ち上がり、私の手を握った。そして、上を見て勢いよく飛翔した。

 ビルの屋上を通り過ぎてもまだ上昇する。そして、


「お! 戻った!」


 上昇していたかと思いきや横に移動していたようで、ある程度離れたら元の大きさに戻った。ビル群を見ると、壁から横に生えていた。


「ビル群に影響のない所まで離れたら元に戻るんだね。すごい技術だな……」

「貰って帰ってきたら、サトゥルヌス喜んでただろうね」

「ははは、たしかにねー」


 夢羽は神翼しんよくを使わずにゆっくりと上昇し、見えなくなるくらいまで上がったのを確認して、また飛翔して一気に夢の星を抜けた。
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