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第三章 星間郵便局の闇と夢を見る少年

90 ゲン

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 ベッドに寝かされていた少年の姿をしたゲンが起き上がり、私と夢羽を見た。

 髪型は人形より短めのショートヘアで、色がくすんだ銀色ではなく、綺麗な銀色だ。


「あ? ここどこだ? 何で俺、こんな所に寝かされているんだ?」

「局長ずっとここに封印されてた感じです」

「動けそうね? あたしがおんぶしようか?」


 翼が薄らと見える背中を見せ、おんぶをする仕草をした。


「いや大丈夫だ、俺も霊体だしな。それより、ここどこだ?」


 ゲンは周囲をキョロキョロしている。


「輪廻の世界です」

「救出の方は終わったんだな。それで最後は俺ってか?」

「そんな感じです」


 私はゲンに手を差し伸べると、ゲンはそれを握りベッドから起き上がった。


「ここが輪廻か……長居できないんだよな?」

「はい。今でも夢羽のカロリーを消費してます」


 私がそう言った横で、夢羽は一生懸命におにぎりなどを食べている。


「急いで出ないとだな」

「でもちょっと問題があって……」

「なんだ?」


 牢を出ようとしたゲンは振り返って私を見た。


「輪廻の間に軍部が集まってるそうです」

「……それはどこの情報だ?」

「ハクと名乗るタキシードを着てシルクハットを被った
白い男です」

「そうか……とうとう姿を現したな……!」


 ゲンを拳を握りしめる。


「知り合いねー?」


 おにぎりを食べながら、夢羽が横から聞いてきた。


「ああ。生前の夢に出てきたんだ」

「たしかに出ていたね」

「ん? どうして知ってる?」

「私、予知夢みたいなのを見るんだよね。これも『情報』の能力のおかげなのかな? ジュピター様に聞いてないからわからないんだけどね」

「んー……まあ、話は後だ。とりあえず輪廻の間の扉前まで行こう」

「おっけー」「りょーかい」


 私達は牢から出た。


「お、ゲンだオラ! 夢羽のカバンは大きい人形も入るのか? オラ」

「ふむ……マル、あれは本体っぽいですよ。はい」


 どうやら、マールスとメルクリウスは私達が出てくるのを待っていたようだ。


「はい、本体です。この牢に閉じ込められていたみたい」

「目的は達成ですね。はい。では、僕は戻るといたします。はい」


 そう言い、メルクリウスは姿を消し、神器が私の所に戻ってきた。


「そうか、目的は達成したんだなオラ! 他に困ってる事はあるかオラ」


 マールスはまだ手を貸してくれるようだ。


「それじゃ、一緒に輪廻の間に出て、鬼人達の攻撃を阻止してほしいです」

「奴らは誰かにたぶらかされているんだよなオラ。助ける目的で手を貸すぜオラ」


 マールスは背中の方でぶら下げていたカンテラを取り、その中の炎を自身の頭のアフロを燃やした。


「行くぞオラ!」


 なぜか指揮されているが、私達は輪廻の間へと向かった。


---


 輪廻の間にある大きな扉の前に着いた私達は、突然ゲンが立ち止まり目を瞑って動かなくなったのを見守っていた。


「ゲンどうしたば?」


 おにぎりを食べながらゲンの様子を見る夢羽。


「さあ?」

「……お待たせ。ロボット達と同行しているぬいぐるみ4体を、こちらに向かわせている。ロボット達も加勢するぜ」


 ゲンはニヤリと笑い、私が持っている無限カバンの横に立った。そして、無限カバンの中に手を入れ、4体のぬいぐるみを取り出した。


「いつの間にこんなに!?」

「風羽のカバンの中、広くて快適だぜ。俺専用の部屋も作ってあるしな」


 無限カバンの中に部屋を作るなよ……。あれ?


「……さて。本体で能力を使うのは初めてだな。こうやるのかな? 『分魂ぶんこん』!」


 ゲンの胸あたりから、魂のようなモヤモヤのかたまりが4つ出てきて、それがぬいぐるみに宿った。


「お、できたできた」


 私は、無限カバンの中に置いていた拾った金属を取り出し、『創作』を使ってそれを4つの短機関銃に作り直した。


「はいこれ、木星で使ったやつと同じのを4つ作ったよ」

「お、サンキュー。そういえば、この握りやすいグリップの事も聞いてなかったな」

「私の『情報』の能力のおかげですよ。生前に使っていた武器って公開されてるんですよ。局長、あと1体は出せないの?」

「ん? 出せるが、とっておきに残している。よし、戦闘員は前に。んで、廻は風羽に守ってもらえ」


 ゲンは私の後ろに隠れていた廻を見て言った。


「わ、わかりました。よろしくお願いします」


 廻は私を見てペコリと頭を下げる。


「よし、行くぜ!」


 ゲンはぬいぐるみ4体を先頭にし、輪廻の間へと入っていった。


「行くぜオラ!」


 両手に嵌められたボクシンググローブが青く燃え出し、マールスも扉の中へと入った。


「あたしは最後に入るよ。風羽と廻がこれに入ってるからね」


 夢羽は右腕を上げ、上を指した後に下ろして右を指した。

 たぶん、私達を包んでいる神翼しんよくを指したのだろう。


「おっけー。廻、行くよ」

「は、はい!」


 双子銃そうしじゅうを構え、廻の手を引いて扉の中へと入った。


---


 先に入ったゲンとマールスもだが、ロボットを率いていたぬいぐるみのゲンも合流していたようで、輪廻の間は既に乱戦状態になっていた。

 ロボット1体に鬼人3人が囲って戦っている状況だ。

 ゲンのぬいぐるみは全部で8体。短機関銃でロボットを囲っている鬼人を滅多撃ちしていた。ちなみに、ロボットと同行していたぬいぐるみにも短機関銃を渡していた。


「オラオラ! 温いぞオラ! もっと熱くなれオラ!」


 熱い男もとい火の男神マールスが鬼人達に囲まれているが、誰1人近づこうとしない。


「隊長! あの男、熱すぎて近づけません!」


 鬼人の1人が通信をしているようで、どうやらマールスは熱くなって近寄り難いようだ。


「すごい事になってるさぁ……」


 後ろから出てきた夢羽が、惨状を見て唖然としている。


「指名手配犯覚悟ー!」

「うわぁぁ! 風羽さん!」


 横から突然襲いかかってきた鬼人に、廻がびっくりして大声を出した。


「ほい、これで安心」


 教団員を捕まえる時によく使っていたワイヤーで拘束する拘束銃に作り変えていた双子銃そうしじゅうを、襲いかかってきた鬼人の胸元と脚に撃ち、身動きの取れない状態にした。


「ったく、キリがないな……風羽! 何かメガホン的な声を大きくするやつ作ってくれ!」

「……りょーかい」


 私は無限カバンからそれっぽい素材を出し、拡声器を作り、それをゲンに渡した。


「そうそう、それだ……あーあー、聞こえるかー。後ろのお前、聞こえるかー?」


 ゲンが拡声器を使い、敵サイドである鬼人に音声確認をした。

 鬼人は周囲を見て、自分だとわかり、両腕で大きな丸を作って合図した。


「ありがとう……おいお前ら、俺がゲンだ。あの指名手配の張り紙の俺は人形だ。お前らと同じのようで違うからな。そこんとこ、よろしく」


 なんか挨拶を始めた。

 人形と髪型や髪の色が違ったからか、攻撃してこなかった鬼人達が、ゲンとわかった途端こちらに走ってきた。


「うわ! 鬼人達こちらに来ましたよ! ど、どうするんですかー!?」


 私の後ろにいる廻が慌てている。


「お前ら! ここがどこだかわかってんのか!?」


 ゲンの怒鳴り声を聞き、向かってきた鬼人達が怖気づいてその場に立ち止まった。


「ここはだ! 神聖な場所で大声を出したらどうなるか知ってるか!」


 鬼人達がどよどよとしだした。てか、どう見たってゲンが1番大きい声出してるよね。


「これは局長職と神々しか知らないことだが、こうなってしまったからには言わないといけない」


 一体何が始まるんだろ。


「ここで騒いだ者、暴れた者は皆、未練関係なく輪廻に連れて行かれる。輪廻に存在するによってな!」


 それは初耳だ。

 鬼人達も聞いたことがないようで、声は出ていないが挙動不審になっている。


「はははは! もう遅い! 来世で会おう!」


 ゲンがそう言ったタイミングで、私の無限カバンの中から黒い布を被った大きなぬいぐるみが出てきた。そして、そのぬいぐるみがゲンを飲み込んだ。

 その瞬間、それを見ていた鬼人達は声を上げずに、一目散に逃げていった。


「やばいやばい! 逃げるよ!」

「……夢羽、大丈夫だよ」

「なんでよ!?」

「俺、消えてないからな」


 大きなぬいぐるみの身体の中から、ゲンがスルっと出てきた。


「うわ!! 幽霊!」

「お前が言うな」


 ゲンは夢羽にチョップをする。


「ガハハ! 夢羽殿は幽霊が怖いか」


 ロボット集団の中から、ムキムキマッチョの爺の土の男神サトゥルヌスが出てきた。


「そりゃ怖いよ……」

「幽霊とかは怖いけど、建物とかの雰囲気は怖くないんだよね。私と逆」


 くすくすと笑っていると、マールスとサトゥルヌスが近づいてきた。


「目的達成だオラ! あとはゲン、お前が鬼人共に今回の件を話すんだオラ」

「マールスの言う通りぞい。それと、わしが聞き込みをした鬼人は皆、部長の指示と言ってたぞい」


 ということは……。


「あいつがやったってことか……。よし、局長室の放送機器使うか。行くぞ!」

「おー!」「お、おー……」


 夢羽の力強い返事と、弱々しい廻の返事が重なる。


「フハハ! 俺様は帰るぜオラ! 夢羽。また何かあったら呼ぶといい」

「うん、ありがとう」


 マールスは高らかに笑い帰った。神器が私の所に戻る。


「ガハハ! わしも戻るぞい。ロボットは風羽に命令権を移譲したから、存分に使うといいぞい」


 そう言い、サトゥルヌスも帰り、神器が戻ってきた。


「さて、改めて行くぞ」


 ゲンが急げと手招きし、輪廻の間から出た。


「私達も出るよ」

「おっけー」「……はい」


 ゲンの後を追い、私達も輪廻の間から出た。


---


 輪廻の間から出た私達は、鬼人に出くわすことなくスムーズに局長室に着くことができた。


「えーっと……この辺りにあったはずだ。あった」


 随分使ってないようで、埃がすごく積もっている。ゲンがその埃を奥で見つけて持ってきた雑巾で拭く。


「使えるば? これ」


 夢羽はなぜかガスマスクをつけて機器を突いている。


「……えっと、はい。まだ使えそうです。局長は使ったことありますか?」


 廻が機器のチェックをしてくれたようで、特に問題なかったようだ。


「いやないな。200年は使ってない。メグル、機械いじり得意なんだな。機械いじり担当だな」


 ゲンがそう言うと、廻は両手を前でぶんぶんと振って否定した。


「使えるんだったら、試してみよ。局員が鬼人に捕まってるから急ぎ目で」

「ああ、そうだな」


 ゲンがマイクの前に立つ。そして


「あーあー聞こえるかー。マイク大丈夫みたいだな……ごほん。局長のゲンだ。軍部に通達だ。指名手配は解除された。あと、部長であるルイは、局長権限により部長の座を剥奪。ルイの命令は全て無効となる。繰り返す……」


 ゲンがマイクに向かって話している。


「ねえ夢羽、本当にルイがやったと思う?」

「うーん……やってないって信じたいけど、こうも立て続けに騙されたり裏切られたりするとね……」


 ガスマスクを取り、悲しそうな顔をする夢羽。


「人を見る目を鍛えろってことなんだろうね。でもなんだろ、ルイの件とネフィリアの件、何か似ているような……」


 私は考え込む。


「考えても仕方ないさぁ。切手集めながらルイを探そ。んで、直接聞いたらいいさぁ」

「それもそうだね」


 クルリとノルリも心配しているだろうし、ルイを探すのもいいかもね。


「それにしても、この騒動で星間郵便局、かなり破壊されてるよね。どうするば?」


 夢羽は監視カメラを見ながら言う。


「とりあえず局長に聞こう」

「だねー」


 私と夢羽は、ゲンの放送が終わるまでソファでくつろぐことにした。
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