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第四章 女神に一目惚れした少年と報われない恋

102 奇妙な夢? 現の記憶?

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「え? なになに!? ここはどこ!?」


 私は辺りを見渡す。

 叫び声と共に、金属同士がぶつかり合う音と、銃声が鳴り響いていた。


「……ここって、輪廻の間だよね。なんで私ここにいるの? それに、戦っているのって局員と鬼人?」


 つい先日、この光景を見た気がする。たしか……


「あ、局長を助けた後だ……それに夢でも見たことあるような……」


 私は再び周囲を確認し、ゲンや顔の見知った人を探した。


「あ! 夢羽いるじゃん! おーい!」


 私は夢羽に近づく。しかし


「ここまで攻められては仕方がない。ゲン亡き今、あたしが局長代理でこの戦いを指揮するからね!」

「「「おー!!!!」」」


 鬼人達を鼓舞しているようで、私に気づいていない。

 夢羽の号令と鬼人の気合の入った声が局員を圧倒する。


「キキキ! とうとう貴女が前に出るのね~、夢羽。そう、この戦いは~原初の女神様の魂のカケラの取り合いが発端~。残るはあたしと~貴女が持つカケラだけ~」

「ネフィリア!! 今日こそ、その悪事、止めるよ!」

「それはこっちのセリフよ夢羽! 女神様の力は誰にも使わせないわ!」

「夢羽? 何を言ってるの? アイリスは操られているかもしれないって話になったじゃん」


 再度声をかけてみたが、全く聞こえていない様子。

 夢羽とアイリスが言い合っている中、鬼人と局員が次々と倒れていく。

 その倒れた者から魂の気が漏れ出て、霧散する者も出てきた。

 ついに、夢羽とアイリスがお互いの武器をぶつけ合った。

 その時、


「え? なになに!?」


 突然、世界が揺れているのではという程の大きな地震が輪廻の間を襲う。


「キキキ……これも貴女の仕業ですか~。すごい能力をお持ちですね~」

「いや……あたしのじゃないよ」


 ここには地面が無いから、地震が起こる事自体あり得ない。ということは、本当に世界が揺れている? これってもしかして……。


「ぎゃあああああ!!! 白いのが!!! 白いのがー!!」


 叫び声が遠くから聞こえてきた。

 それから続々と悲鳴のような叫び声が響き渡り、そして叫んでいる者からどんどん消えていった。


「白いモヤモヤ……邪気ね~。それも黒の邪気より更に濃いやつよ~」

「それがなんでここに……」

「女神様が復活して、お怒りなんだわ~。あたしは女神様の意向に従うわ~。さよなら夢羽~」


 そう言い、アイリスは邪気に飲み込まれていった。


「原初の女神様はこんな事はしない……!」


 そう言いながら夢羽も飲み込まれ、そして世界は全て真っ白に染まって消えた。


---


「はっ!? ……夢だった? やっぱり前見た夢と同じだよな……」


 そんな事を呟きながら、ベッドに横たわっていたので起き上がる。

 周囲を見渡すと、そこは


「……ここって局長が閉じ込められていた牢?」


 外は白銀の宇宙、輪廻の世界。そして、目の前には禍々しい色をした鉄格子があった。

 私は牢の中を確認する。すると


「うーん! ……今日も綺麗だ。おはよう世界!」


 ベッドの方から、見知った顔の者が現れ、背伸びをしている。

 いつも通りのテンションの夢羽だ。


「え? 夢羽?」


 私は夢羽に声をかける。しかし


「捕まって1週間経ったかな? そろそろ脱出しないと身体が保たないやっさ」


 やはり、私に気づいていない様子。

 夢羽は『魂触』を使っているのか、おにぎりを作るようにこねこねし、そしてそれを口に入れた。


「だいぶ作り慣れたかな? 邪気とそこら中の霊気を合わせておにぎりもどきが作れるようになったけど、本物が恋しいさぁ……」


 あの能力ってそんな事ができるんだ……。


「でもなんか、あたしが捕まった時より、霊気の質が落ちた? というより、邪気が混ざってきている気がするやっさ」


 その辺りはよくわからないので、夢羽が言ってる事が正しいのだろう。


「あ、あれは?」


 私は咄嗟に声を出す。もちろん気づいていない。だが、


「なんだろあれ? 初めて見た……」


 夢羽もすぐに気づいてくれた。

 おそらく少し遠くにあるだろうと思われる光の玉が、輪廻の世界を照らしている。


「なんかどんどん明るくなっているような……? ……わわ!」


 突然光の玉が強く光りだす。そして、


「あ……身体が!」


 よく見ると、夢羽の身体が脚の方から薄くなって消えかかっている。

 周囲を見渡すと、やはり最初の時と同じで白いモヤモヤが辺りを包んでいる。

 これってやはり!

 そう考えているうちに、夢羽は白いモヤモヤに飲み込まれてしまった。


---


「うーん……今度はどこ? 奇妙な夢だな……いや、現実の記憶か?」


 石畳の上に倒れるように寝ていた私は、そんな事を考えながら起き上がって周囲を見渡す。


「ここって……」


 桜の木々ともみじになった葉の木々が統一感無く並んでいる。

 ここは、鳥居の星と言われる夢の星。

 そして、ブラックリストのトップに上げられる星だ。

 だが、記憶にない本殿と思われる大きな建物の前にいた。


「何でこんな所に……」


 立ち上がって土埃をはたいていると


「到着! 今度こそ夢の主に渡すぞ!」


 鳥居が立っている所から、手紙を持った夢羽が階段を上ってきた。


「悪霊のお客さん。お客さん。また来たのね」

「悪霊のお姉さん。お姉さん。また来たのね」


 本殿前に、巫女服を着たおカッパヘアの黒髪の双子の女の子達がいた。


「前は鳥居から進めなかったけど、今度は来たよ!」

「くすくすくす。この前のおにぎり、美味しかったよ」

「くすくすくす。この前のおむすび、美味しかったよ」


 この時もおにぎりあげてたんだね。


「食べてくれたんだね、よかった。じゃあ、今度はこれ、受け取ってくれないかな?」


 夢羽は1通の手紙を出した。


「くすくすくす……それより、お腹が空いちゃった。お客さん、食べちゃってもいい?」

「くすくすくす……それより、お腹がペコペコだよ。お姉さん、食べちゃってもいい?」


 そう言い巫女の双子は繋いでいない手を前に出した。

 身体が光ってる……ってことは、やはり能力持ちなのか……。

 そう思っていると、夢羽の所から白いモヤモヤが吸い取られているように見えてきた。


「うん? あ! あたしが集めてた霧散した魂持っていかないでよ!」


 夢羽はカバンの中から見たことのある壺を取り出した。

 って、なんで魂集めてるんだよ……。


「あれあれ? お客さん、老いてないね? この前もそうだったし、面白いね、お客さん」

「あれあれ? お姉さん、老いてないね? この前もそうだったし、面白いね、お姉さん」


 双子ちゃんは不思議そうな顔をしている。

 老いてない? どういうことだ?


「この前……あたし、鳥居しかくぐってないけど、あれがそうだったば? って、言ってる側から持って行かないでよ!」


 夢羽は壺に蓋をするが、漏れ出ている。

 あ、なるほど……あの鳥居自体が能力で作った罠だったってことか。


「あの壺の魂美味しいね。姉ちゃん」

「そうだね、美味しいね。妹ちゃん」


 双子ちゃんが夢羽の壺の魂をどんどん吸い上げている。そして、


「うん? なんか揺れてない?」

「お客さんが何か言ってるよ。揺れてないのにね」

「ほんとだ、何か言ってるね。揺れてないのにね」


 夢の主にはわからないのか、たしかに世界が揺れていた。この現象ってさっきの!

 私は咄嗟に夢羽に駆け寄り、壺を掴もうとしたが


「なんで触れないんだよ! これも夢ってこと!?」

「あれ? このモヤモヤはなんだろ?」


 私の声は夢羽には届かず、夢羽はまた足元から消えていった。
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