上 下
102 / 104
第四章 女神に一目惚れした少年と報われない恋

104 現(うつつ)の女神

しおりを挟む
「(暇を持て余す創造神……ニート?)」

「ニートではないわ!」

「心まで読まないでくれー……」


 そう言いながら、私はゼウスから本を受け取ろうとした。しかし、


「これ、願いの女神から貰った物か?」

「うん、そうだけど、どうかしたの?」


 ゼウスは私に取られないように背を向けた。


「願いの女神が宇宙の願いを聞き届けたか? そうか! 風羽がここに残っているのもそういうことか!」

「えーっと、本と私がどうしたの?」

「その前に、この本ともう1つ一緒に生み出された物はあるか?」

「うーん……渡されたのはこれだよ」


 私は夢羽から渡された黒縁メガネを、カバンから取り出してゼウスに渡した。


「たしかにこれだ。この本とメガネの組み合わせで1つの神器となっている。この神器と、風羽。そなたも願いの女神が宇宙の願いを叶え、残した存在だ」

「私が? なんで?」

「そうだ。我もわからんが宇宙そのものにも意思があるようだ。その宇宙が消えたくないと願ったのだろう。その願いを、願いの女神である夢羽が無意識に叶えたというわけだ」

「なるほど……」


 私はそう言いながらゼウスに近づき、奪われたままの本を取り返そうとした。

 それをゼウスは避け、本の表紙にメガネを置いて、それらを手のひらの上に置いた。


「この神器はまだ何の依代にもなっていない。そして、そなたもまた『記憶の女神』という不安定な神のままだ」

「不安定?」

「願いの女神との双神そうしんだからな。その願いの女神も宇宙の崩壊に巻き込まれて消えてしまったから、宇宙の誕生時にも巻き込まれてしまう可能性がある」

「(こわ!)」

「どうすればいいの?」

「まあ待て。そこに立っておれ」


 ゼウスは本とメガネを1つの光の玉に入れ、それを私の隣に浮かせた。そして


「な!?」


 ゼウスがいきなり、私の腹に手を突っ込んできた。


「突き刺さってる!」

「落ち着け。すぐ終わる」


 ゼウスはそう言い、私の腹から手を抜いた。

 その手の中には手紙の封筒が握られていた。その封筒には、魂のカケラだと思われる切手が2枚貼られている。

 その封筒を本とメガネの入った光の玉に入れ、さっきとは別の1通の手紙の封筒を取り出し、それにゼウスのポケットから取り出した新たな切手を貼り付けた。

 そしてその切手を貼った封筒を私の腹に入れた。


「え? 何入れた?」


 ゼウスは私の声を無視し、次に光の玉の中から本とメガネを取り出し、私の目の前にメガネだけを差し出してきた。


「ほれ。これで完了だ」


 私は差し出されたメガネを受け取った。


「これでそなたは、全知全能の創造神である我の執行代理しんうつつの女神』だ」


 ゼウスは持っていた本をその場に浮かせた。


「え? 記憶の女神だったんじゃ?」

「順を追って説明する」

「……はい」

「そなたから取った封筒がそなたの魂だ。あの切手は能力を付与した我の魂のカケラだ。それで、光の玉から取った封筒が神器の魂だ。それらを入れ替えた」


 さっきも見たどういう原理で再現しているのかわからない方法で、私が実際にやられた事を再現している。


「いや、入れ替えたら私は神器になっちゃうじゃん」

「まあ落ち着け。神々の魂は器に宿る。神器の魂はそなたが知ってる言葉で言うと、アンテナのような物だ。本体と器が一緒なのは付喪つくも神のような最下位神だけだ」

「(あ、付喪神も存在するのね)」

「そなたも持っていたではないか」

「うん? あ! 双子そうし銃!?」

「そうだ」

「話を戻すぞ。もし、その身体が無くなったとしても、魂が別の場所にあるからまた復活できるようになる」


 作り出された人型の頭上にパラボラアンテナが現れた。そして浮いていた本の上に封筒が現れ、そこから電波のような物が飛んで人型のアンテナに受信された。

 そして次のシーンに移ったのか、人型が突然弾け飛び、そしてまた別の人型が現れた。


「なるほど……そうだったのね……」

「ああ。それで、器を安定した物に変えたことで、今まで最下位の不安定な『記憶の女神』から、最上位の『現の女神』に変わったわけだ」

「ってことは、その本が私の本体ってことじゃん! 返して!」


 私は浮いていた本を取ろうとしたが、勝手に動いてゼウスの元へと飛んでいった。


「いや、これは我が預かっておく。誰も干渉できないこの空間に置いておくと、その身体が消滅しても復活できる。無敵だ」

「(無敵って言われても……なんか変な気分……)」

「まあ、慣れる」


 渡されたメガネを見て、レンズに曇りはないか確認した。


「……ちなみに夢羽は?」

「夢羽は銀河系の神々と同位だ」

「なるほど……」


 メガネをカバンに入れようとした。


「待て」

「うん?」

「そのメガネをかけてみろ」

「え? なんで?」

「いいから」

「(……ゼウス様メガネフェチ?)」


 私は渋々黒縁メガネをかけた。


「我はメガネフェチではない。ほれ、どうだ?」

「どうだって言われても……んん?」


 なぜか、ゼウスの手元にある本が、もう1冊増えて目の前にあった。
しおりを挟む

処理中です...