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世界樹の下で

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 少し歩いて移動した場所には机と椅子が置いてあり、その机の上にはお菓子と紅茶が置いてあった。確か精霊はあまり食事を好まないと聞いていたけれど種類によって違うのかな。
「はい、お嬢ちゃんの分」
 いかついというか筋肉質の男の人がカップに紅茶を注いでくれる。
「あ、ありがとうございます」
「おい、精霊王。トゥエは召使じゃないって何度も言ってるだろう」
「まあまあクー。人間のお客さんには合ったものを出してやらないと。それに俺も久しぶりで楽しかったしな」
「それならいいが……」
 クーと呼ばれた人も美しい容姿をもっていた。精霊ってみんな美人なんだなあと場違いな自分が少し恥ずかしくなった。
「ああ、やだやだ。これだから主人を得た護衛獣はいやなんだよ」
 おおもとの主人は僕なのに、と精霊王と呼ばれた神様が肩を竦めてから椅子を引いてくれる。
「さあ、座ってファナ」
「ありがとうございます」
 慣れないエスコートにどぎまぎしている間にトゥエさんとクーさんはどこかに行ってしまったようだった。
「さてじゃあまずは改めて自己紹介をしようか」
「は、はい」
「僕は世界樹の精霊、精霊王と呼ばれる存在だよ。きみは間違いなく僕の声を聞ける聖女の一人だった。そしてここは世界樹の下、精霊達が生まれ行く精霊界だよ」
 あんなでたらめに心を痛めずに誇って欲しいと言われ涙が零れた。
嘘じゃなかったんだ、私は確かに神様の声を聞いて国民の悩みを解消していたんだ。
「じゃああのイリスという人に聞こえなかったのはなんでなんですか」
 涙を拭いながらそう言えば精霊王は渋い顔をする。
「うーん……あんまりファナの前で言いたくないけど乙女じゃなかったからだよ」
「乙女じゃないから……」
 そこで理由に察しがつき頬に熱がさす。パタパタと頬に向かって手を扇ぎ、あの馬鹿王子のことを胸中で罵っておく。
「あの、どうして私をここに連れてきてくれたんですか」
 スコーンにジャムをのせて食べる精霊王に向かって聞けば「ああ」と頷いてくれる。
「丸太の椅子に宿った精霊がいち早く飛んできてね、教えてくれたんだよ」
「精霊が……」
「追手から上手く逃げ切れただろう?それは精霊のおかげだよ」
「やはり追手が来てたんですね……」
 その精霊にお礼は言えますか、と精霊王に問えば勿論と言う。
「出ておいで」
 そうして精霊王が世界樹の方向に向かって手を差し出すと一つの光の塊が飛んでくる。
「さあ、きみが助けたファナだよ」
「ふぁな! たすかってよかった!」
 その精霊は少し舌ったらずの言葉でファナに向かって言葉を言う。
「あなたが助けてくれたのね、ありがとう。おかげでここに来れることが出来たわ」
「ふぁな、せかいじゅのいす、たいせつにしてくれた、うれしい」
「ええ、それは勿論だわ。私にとっても大切な椅子だったもの」
 ぴかぴかと光が点滅し、喜びを表現する精霊が可愛くてファナは自然と笑顔になっていた。
「うん、やっぱりファナは笑顔の方がいいよ。国民たちに言葉をいう時にも優しい表情をしていた」
 精霊を世界樹の方向に向かって飛ばしながら精霊王がそんなことを言う。
「声だけじゃなくて姿も見れるんですか?!」
「たまーにだけどね」
「恥ずかしい……」
 あれ、国民の人たちは嬉しかったと思うよと告げ足されるが本当だろうか。
「そうでしょうか、それならいいんすけれど」
「もちろんだよ、僕が保証する」
「ありがとうございます」
「それでこれからのことなんだけれど」
「あ。私としてはほとぼりが冷めるまで置いてもらえたら」
「ここにずっといない?」
「え」
 予想しない言葉にファナは間抜けな声を出してしまった。
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